元冒険者と四方山話

しかし、なんだな、

まぁ、今にして思えばよぉ……


あっちの世界は

どんだけテキトーだったんだって話よな

今の生活と比べて考えると


まずさあ、

厳密な時刻の概念が無いのよ、そもそも


パーティー組んで

ダンジョンに行にくことになったとするだろ?


『じゃぁ、明日の朝ここに集合な!』


これだけだぜ?


こっちで朝と言えば、

午前四時ぐらいから午前九時ぐらいまで、

人によっては下手すると

午前中ずっと朝な奴もいるじゃん?


別にさ、異世界には朝が

三十分しかないって訳じゃないんだぜ?


もしそれだったらそれで

朝が三十分しかないなんて

どんだけ忙しいんだよって

話になるけどさ


それで実際本当に

日が昇る前に来る奴もいれば、

日が相当高く昇ってから来る奴もいるのよ、

お昼ぐらいになってからとか


当然、目覚まし時計なんかないからな


個人個人の体内時計に

任されてんのよ、すべては


そんで遅く来た奴に限って


『あれ、みんな早くない?

俺さっき起きたばかりなんだけど、

もう結構待った感じ?』


とか普通に言っちゃう訳よ


ずっと待ってた方からすればさ、

もうすっかり待ちくたびれちゃってるじゃん


『とりあえず、今日は止めておこうか……』

『えっ、なんでよ?』


みたいな不毛な受け答えが生まれんのよ、そこで


『まぁ、今日のところは

とりあえず飲みに行こうぜ』


これ言われたら

もう呆れられてると思って、まず間違いない

近い内にパーティーをクビになること請け合い


だからね、本物のプロ冒険者は

当日の朝に待ち合せなんかしない、

絶対にしないっ


そんな奴らは、駆け出しのひよっこか

まだまだアマチュア


本物のプロ冒険者は


『前乗り、車中泊』


これ、これに限るね


これなら

パーティーに一人早起きな奴がいれば

なんとかなる


もし仮に、パーティー全員が

朝に弱い奴しかいなかったら、

そんな運が悪い連中は

冒険者なんかとっとと止めちまえって話よ


冒険者稼業なんざぁ、

運がほとんどすべてだからねえ


生死の境を分ける紙一重も

最後は運次第ってことになんのさ


…………。



ほら、よくあんじゃん


『しばらく待って、

俺が戻って来なかったら、先に行け』


これを言う奴はだいたい馬鹿、冒険者舐めてる

こんな奴すぐ死ぬ、いや死んでしまえ


しばらくって、どれぐいだよっ!


しかも、向こうには

時計もスマホも無いから

余計に訳が分からない


時間の尺度が無い上に

時間を計る道具も無い、

ホントこれ、もう最悪


『この蝋燭が燃えて

これぐらいまで短くなった時、

まだ俺が戻って来なかったら、先に行け』


これが正解


でも長いし、格好悪い

だからみんな『しばらく』で済ます

ホントみんな馬鹿、冒険者舐めてる

死んでしまえ


…………。



あぁ、すまねえ

ついつい熱くなっちまったな


そもそもあっちの世界じゃ

度量衡とかも曖昧だったしな


ホントあれでどうやって

城とか建ててたんだろうな、全く

ノリと勢いだけで

なんとかしてたんじゃねえかな


単位とかも国や地域で違ったし


こっちでもメートルとフィート、

キログラムとポンドとか

国とか地域で違うだろ?


そういうのが千種類以上ある感じ



だからみんなサイズを表す時でも

三種類ぐらいしか使わない


『デッカイ、小さい、中ぐらい』


たまに『すげえデッカイ』とか

『めっちゃ小さい』とか入って

やっと五種類ってとこ


重さもやっぱり三種類ぐらいしか使わない


『重い、軽い、そうでもない』


『そうでもない』とか

もうそれただの主観だろってな



まぁ、でもこっちの世界でも

この単位なんなん?ってのあるよな


馬が一頭で一馬力、

二頭で二馬力とか


馬も個体差があるから

力同じじゃなくね?とか思うわ



異世界にも似たような単位があってな

その名もずばり『一ドラゴン』


しかもドラゴンが全力を出すと

その場に居る人間なんか

まず生き残れる訳がないから、

真の力の強さがどれぐらいなのか

誰も知らないという


なんだかよく分からないけど

スゲエ単位だ


こっちの『無限大数』みたいなもんだな

もはや概念だよ、概念


そして『一ドラゴン』と『一ベヒモス』では

どちらの力が強いのか

マニアが喧嘩し出して

最強議論みたいなことになる、

これ異世界の鉄板ネタな……



!!


ヤベエェ!

連荘確定演出来たなっ!


こりゃ、こんな話してる場合じゃねえな


……


なんだよあんちゃん、

今日はもう帰んのかい?


……


おう、そりゃもちろん毎日来るよ

誰になんと言われようとも

パチンコは止められねえよ


他にワクワクするようなこともねえしな


隣のあんちゃん、また明日な




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

少子高齢化のため、異世界からの移民を認めます ウロノロムロ @yuminokidossun

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ