絶望への叛逆



──法則を突破する現象を視覚で認識する



もしもこの宇宙を創造した存在がいるのならば頭を抱えてバグだと叫んだだろう。

事実、これは

絶対に起こり得ない。

理屈が歪んでいる。

事象として成立しない。

こんなもの誰が見てもご都合主義としか見えない。

なのに、これは現実であった。




事象を起こしたのは人間の少年、アリアン



身長は大きくはなく、凡そ170㎝前後。

それ以外もそれに即した物であり、強いて言うならば腰に星海から来たにしては古めかしい剣が一本差しているくらい。

特殊な道具や身体を持ち合わせているようには見えない。





事象を起こされた側はこの惑星サームに救う巨大な蛇



サイズは計測不能。

最低でもこの星に巻き付き、最悪壊せる巨体を持つ。

全体所か顔だけでも人類を絶滅出来、mや㎞で図る方が馬鹿らしいサイズを持つ。

人間がどうにかしようと考えるならまず無謀。

否、人間所か自然災害ですら蛇を滅ぼす所か動かす事すら出来ない。

結論を言えば勝ち目は0だ。

1になる事は永遠に無い。

人間が人間である限り、この蛇に対して勝つ事は不可能だ。




──その法則を凌駕するのに扱ったものは単純シンプル──拳のみ



凡そ75mmしかないちっぽけな物。

蛇からしたら芥子粒所か視認すら難しい物。

拳で何をどう扱っても足しにもならないであろう質量差。




だというのに起こった出来事はこれだ──その拳の一撃で



こんな事が有っていいわけがない。

宇宙が生まれた時から積み重ねてきた常識という名の法則に牙を向いているとしか思えない。




人間が

人間のちっぽけな拳が





……!!!





※※※



次に響くのは大音量の悲鳴と巨大な地響きであった。

どちらとも蛇を起因としたものであり、前者は人間でいう痛みに耐えきれずに漏れた苦鳴、後者も同じような反応から起きる身動ぎ。

特に不思議なリアクションではないのだが、上げている本人が星をも包む巨体故に煩いし、とんでもない震動を起こす。

その事にアリアンははぁーーと溜息を吐きながら耳に指を突っ込み……数秒しても止まらなかったから直ぐに引き抜き





「ぎゃあぎゃあやかましいんだよ爬虫類」



言葉と同時に今は蜘蛛の上にまで登った蛇の顔面……は面倒なので目の前を覆う首(長いのでどこまでが首か分からんが)に対して剣を引き抜く。

引き抜かれた刃は鞘に覆われていたが故に見えていなかった灰色の光を発する。

一瞬で蛇によって覆われた影は灰色の光で照らされるのだが、元が灰色故に余り目立たないし、妙な色彩になっている。

なんだかなぁ、と思いつつ、そのまま勢いよく思いっ切り投げつけた。

ボンッと水蒸気爆発と同時に音速を突破して突き進んだ剣はそれだけで目の前にいる蛇の体に穴を空けた。

それも剣のサイズに即したものではなく、それ以上の巨大な裂傷として刻まれ、悲鳴と地震が激しくなり




「あ、いっけね」



その後に起こり得ることを見てアリアンは直ぐに傍でポカーンとしているアイナを抱えて飛んだ。





※※※



あらゆる出来事がまるで他人事のような自分だったが、抱きかかえられそのまま飛翔されるというのは自身に関わる事であった為か頭が何とか働いた。

働いたといっても精々唐突に抱えられ、小さな悲鳴を上げようとするくらいであったのだが




「……え?」



気付けば見た事も無い青空の下に居るとなると悲鳴すら上げる気が失せるのだが。

これ程青空の傍に近付いた事は無い。

もしかして……と下を見るとそこには見慣れている物はあるが見慣れない視点──雲の上からの視点であると気付いた。




「きゃっ!?」



その高度遠さに思わず自分を抱きとめている人物によりしがみつく。

ぐえっ、という悲鳴が上がるがこの状況を考えたら恥とか考えられない。

普通ならここで更に混乱するのだろうけど……案外私はこういう場面になると冷静になる性質らしく思わず目の前にある少年に振り向き




「……人間じゃ……無かったのですか?」


「んーーまぁ厳密には人類種ではあっても細かな部分は同じ人間じゃないんだろうけど、それでも人類種ではあるぜ? 俺がここまで出来るのは……まぁちょっとした裏技だ」



見れば何時の間にか彼の手元にある灰色に光る剣を見て裏技と言うという事はこの剣が力の源という事だろうか。

そんな理不尽な、とは思うが……星海だとそういう事が多々あるのだろうか?

それとも




「な、何か代償があるとかでしょうか?」


「疑り深いなぁ……まぁ君達からしたらそんな物か。別に俺が剣を振るう度に君達の星の住人一人が死ぬとか寿命を剝奪するとかは無いから心配なさんな。ああ、何なら俺の寿命の前借だとか使い終わったら激痛がー! とかいうありがちなもんでもないから」



むしろあった方がいいのではないか、と思う。

勿論、無いに越した事は無いのだろうが……あの蛇をああも容易く痛めつける事が出来る剣が何の制限もなく使える方がどうかしている。

その旨を伝えると本人も全くだと嘆息し




「こんなものがただで振るえるなんて理不尽そのものだろうな──まぁ実際はここまでの出力を出せる事は想定外なんだろうけど」



ぼやくように愚痴るのに思わず首を傾げるが……よく考えれば今はそんな場合では無かった。



「そ、それよりも! 何故こんな勝手を!!」


「え? 嫌がらせ」


「嫌がらせ!?」



即答で帰ってきた言葉に空中である事も含めてくらりと頭がふらつきそうだが、ここで耐えないと死にかねない。ストレスと高度的な意味で。

その様子にははは、と少年は笑い



「言ったじゃないか。こちとら別に正義の味方でもなんでもないから死のうとしている君も勇気を失った臆病者達も知った事じゃない。単にお山の大将気取った爬虫類が非常にムカつくからぶっ飛ばそうってだけだ」



あの光景を見た上で尚正気を疑う言葉。

星すら砕きかねない動物を相手にで抗うというのだ。



「正気じゃないです……それに貴方に一体何のメリットがあるんですか……?」


「──はっ! 最後はメリットと来たか!」



利について聞けば少年は何故か堪え切れないと言わんばかりに顔を歪め、笑う。

呵々大笑という程ではないが、それでも小さくない笑い声を響かせ……その上で答えを叫んだ。





「いいかアイナ? ──メリットデメリットを問う生き方をしていたら。ああ、何も小賢しく利を追求するのが悪だなんだと馬鹿にしてるわけじゃない──!!」



快活に堂々と面倒事を放り捨てた笑う。

無責任にしか聞こえかねない言葉を何故か少年は高らかに言い放つ。

余りに自分勝手な論法に腹を立てたいというのに──心の奥底から沸き上がる気持ちは青臭い嫉妬であった。

勿論、理解している。

何もかもを放り出したという事は何もかもから見捨てられたと同義だ。

決して楽だけの道ではない。

だというのに沸き上がるのは同情よりも嫉妬。

何もかも見捨てられたと自嘲するような言葉を、彼は放り捨てたと笑う。

強がりの意味合いもある事を含めても尚、羨ましい。

そんな妬みを含めて視線を向けていると




『──ちょっとアリアン!? 貴方また死ん──』



急に私とアリアンの顔の直ぐ傍にまた何やら画面が現れる。

タイミングがタイミングだったからついまた小さく悲鳴を上げて彼の首に回している腕に力を籠め、その上で密着してしまう。

すると何故か画面の向こうから声が響かなくなった。

恐る恐る画面の方を見ていると




……うわぁ



正直語彙が無くなるレベルの美人さんがそこに居た。

外見年齢だけを見ると私と同じくらいに見えるが星海の常識を目の前で見せつけられた所だから外見年齢は当て嵌まらない。

顔立ちが整っているのは最低条件であり、美しく、まるで星のように輝く銀の髪が少女の煌びやかさと艶やかさ、鮮やかさを際立たせている。

瞳に浮かぶ色が紫水晶染みた薄紫色の光を灯しているのが更に幻想さすら成立させている。

見事過ぎて言葉も出ない程なのだが……この美しい少女がそれでも人間として成立しているのはその美しさに反して浮かぶ感情がとても人間らしいのだ。

先程まで酷く焦った顔を浮かべていたのだが、私と彼を見た途端ピタリと止まり、ゆっくりと状況を噛み砕いた風に首を小さく縦に振り──数秒で瞳が潤み




『……不倫?』


「ちがん!!!」



結構なレベルの大声を至近距離で浴びる事になり危うく腕を離す所であった。

死因が痴話喧嘩による墜落死なんて洒落のようだけど洒落になってない。

後、ちがんってなんだ。




「待つんだディアラ……! 確かに今の状況が凄い誤解を招く状態なのは分かるし、君以外の女をこうして腕に抱いているのは心の底から申し訳ない! でもこれはマジで救助活動の一環でありこの子に対して恋慕の情とかは一切無い事を言わせてくれないか!!?」


『本当? ……今、間違いなく当たっている胸とか女の子特有の匂いとか嗅いで恋慕の情は湧かなくても男子特有の反応していない?』


「……………………勿論だ!!」


『うわぁーーーーん!! いつきーーー!! 私の夫が私以外に興奮するぅーーー!!!』



するぅーするぅーするぅーとこっちの耳にエコーがかかるレベルでの叫び声と共に画面が閉じる。

その事にOH……と項垂れている少年がいるのだがどうしろと。

それにこっちとしても仕方がない状況なのだからそこで胸とか何やら指摘して行かないで欲しい。

ここで羞恥心だとか何だとか思い出したら二重の意味で死にかねない……じゃなくて



「そ、そんな事より今は──」


『はぁい、船長。こちら五月。ちょっと貴方の奥さんに不倫ーって言われて抱き止めながら通信しているけどとりあえず死ねばいいと思うわ』



あの蛇の事こそが大問題と言おうとした直後にまた別の女性が画面から聞こえる。

今度はさっきみたいに画像……いや動くから画像ではないか。

とりあえず女性の像は出ず、声だけみたいだけどとりあえず私達の状況とか無視して冷静なのは分かった。



「五月……そうは言ってもあの蛇図体だけがでかいから出血量も尋常じゃないから上に逃げてる最中だけで……」


『そもそもディアラちゃんが連絡する切っ掛けになったのは船長がまた容易くからでしょう? 聖剣も発動しているのにを躱せない筈が無いんでしょう? 死にたがりの悪癖を治さない以上、少しはディアラちゃんに殴られるべきよねぇ?』


「ぬぬぅ」


『──それに数日とはいえ奥さんを一人にしていたんだもの。旦那なんだから奥さんを甘えさせるのも怒りも受け止めるのも義務よ』



それだけ言われたらアリアンも返す言葉が無いのか、小さく吐息を吐き



「分かっているさ。帰ったらディアラには謝るし、器量よしの妻の為に良い旦那……にはなれそうにないが、寂しさを埋める為の努力は絶対するさ──というわけでとっとと蛇退治するぞ」


『はいはい船長。それともヨーソローとか言うべき?』



いらん、と言って少年はそのまま空いた手で画面を叩き割る。

そこでようやくこちらがずっと自分を見つめている事に気付いたのか、少年はゆっくりとこちらを見




「というわけであの蛇は三枚におろすから。ああ、心配しなくても君はこのまま街に戻すよ。街の直ぐそばまで飛ぶようにしたから、そのままとっとと避難すれば後は俺の仲間がどうにかしてくれる。あ、何か釈明しろとか言われてもする気はないから幾らでも罵倒しといておいてくれ。聞く気も反応する気も無いけど」



マシンガントークとまでは行かないが、それでも好き勝手に述べられる言葉に鈍感になっていた私の理性がようやく怒りという言葉を思い出したかのように震える。



「そんな……何でそんな好き勝手に暴れるのですか!!? メリットが要らないとは言いますが、理由はあるのでしょう!? それは私達の都合を無視しても暴れる理由なのですか!?」


「何度も同じ質問に答える気もないね」


「──蛇がムカついたから、ですか!? それだけで私達の世界を滅ぼすつもりですか!!?」



大袈裟な事ではない。

あの蛇を怒らせることは世界の滅びに繋がる。

ちっぽけな人間からしたらあれが少しのたうち回るだけで人類は滅びるのだ。

無論、今の言葉を信じるなら星海にいる彼の仲間と彼だけならば生き残るかもしれないだろう。

だが、代償に私達は滅びる。

そんな傍迷惑な暴走をどうして受け入れると言えるか。

故にその罵倒を受けた少年は暫く沈黙していたが……数秒後はっ、と一つ息を吐き




「──知らないね。理不尽な絶望を受け入れたんだ。も受け入れろよ。なんて君は言うのか」


「──」



結局最初から最後まで好き勝手な言い分。

彼も言ってはいたが完全にこちらの都合を無視したものだ。

堪忍袋の緒が切れる、そのタイミングで




「あらよっと」



何時の間にか近付いていた地面に対する着地が行われた。

余りにも自然だったから反応が遅れたが、よくよく考えれば空中から地面に降り立ったようなものだ。

思わず再びしがみついてしまったが、自分の体に対する反動が一切無い。

そのまま地面に両足が付いた事も夢心地のようだったが──今、自分が生きているという自覚こそが一番の怒りの燃料となり起爆した。




「──っ! 貴方は! 何がしたいんですか!?」



私の怒りと半ば憎悪に染まった声にアリアンと名乗った少年は今度こそ破顔して叫び返した。




「何がしたい? その問いに対する答えなら実に明快だ!! ──絶望というのが大っ嫌いなのさ!!」



答えられた言葉は正しく戯言のそれであり……それを本気で言っているからこそアイナは何も言えなくなった。

その無言をまるで薪にするかのように少年は今まで以上に手を広げ、口角を吊り上げ、笑うように挑むように魂を吐き出した。



「絶望なんてもの見れば見るだけ憎らしいしぶち殺したくなる。何時も何時もどっかで適当に、勝手に、悪意で発生しては一々人を貶めやがる。君も思わなかったか? 飽きたって。何度も何度も登場しやがってふざけるな好き勝手やりやがって! ってな! だからこちらも好き勝手やるのさ! 理不尽な絶望が横行するのであれば俺達は理不尽な救いを横行する! 恨めば恨め! 憎むなら憎め! ああ! そうさ! 俺達は正義の味方じゃない!! 私情を以て絶望を絶滅させる! 頼んでない? そりゃそうさ! そういう意味ではあの蛇と俺達はそう変わらない! !! いや逆に言おうか! ──


「なっ……!?」



何て……!? 何て何て何て何て!! ──何て身勝手な言い分自由!!



詰まる所自分のやりたい事をやる為に滅びの危機に巻き込まれてくれ、とずけずけと言っているのだこいつは!

傲慢なんて言葉では物足りない頭の足りていない理由。

本質的には子供が暴れまわるのと変わらない。

だってそうでしょう? 




──自分の要求が通らなくて駄々をこねる子供と何が違うという!



そんなレベルで世界が滅びるかもしれない賭けを行うのだ。

最悪な程の災厄に対してアイナは最早自分がキレているのか、放心しているのか分からなくなってきたが……一つだけようやく理解出来た事がある。

この状況を回避するには気付いていなければならなかった事実。

遠慮したり、あるいは自暴自棄だった為受け入れてしまった事実を私はもっと声高らかに叫ぶべきだったのだ。

彼を最も端的に表す言葉。

全宇宙に通ずるレベルの概念を今、私は負け犬の遠吠えのような気持ちで叫んだ。






「ああもう!! 貴方!! ──どこまで馬鹿なんですかぁ!!!?」




自分で言うのもなんだが余りにも語彙の足りない言葉を、馬鹿と呼ばれた少年はようやく予想外の言葉を聞いたとでも言わんばかりに目を一瞬開き──続く凄絶な笑みと笑いを以て受け入れた。





「は、はははははははっは!! ──気付くのが遅い!!!」



その言葉と同時に自分達を再び影が覆う。

一瞬、まさか蛇がもう来たのか、という絶望に襲われそうになり慌てて上を見上げると




「……え?」



そこには蛇には及ばないが、それでも人からしたら巨大な機械仕掛けの何かが浮かんでいた。

街一つに届くか届かないレベルの大きさを持ちながらも、鋼の威容は一つの荘厳さと神聖さを醸し出しており、唐突に自分達が住む町の上に現れたというのに思わず感嘆の吐息を吐き出しそうになった。

巨大さというのは自分らにとって悪夢でしかないというのに、何故か空に浮かぶそれは私達を安心させる何かを感じ取らせていた。

ある種の理解の強制力。

まるで存在そのものが人に見上げられる為に作られたと言われたら成程と頷いてしまうような安心感。

口に出して言うのなら──まるで人の為に作られた絡繰り。




「──」



おかしな考えをしている事は理解しているのだが、それを以て尚、嬉しさを感じる心を止める事が出来ない。

その事を近くにいる少年は苦笑して受け入れながら




「あれが俺達の船で俺の自慢の弟──Rebellion to despair。俺達の反逆の翼さ」


「あ、あれが……?」



所謂、宇宙船。

自分達の科学力では夢のまた夢と言われる星海を越える為の星船。

セカイとセカイを繋ぎ、乗り越える為の船としての究極系。

あれがそうだというのかと思いつつ……今、何かおかしな事を言ったと気付く。




「……弟?」



あの船が? あれだけ巨大な船が弟というのはどういう事だ。

もしかして翻訳がミスってあの船に乗っている誰かが弟である、いや単に操縦者が弟なのかもしれない。

どちらにしろ今はそんな事を追求する暇はない。

ここで少年が自分の船………恐らく自分達の信念を名として刻んだ船を晒したという事は──ここから始まるのだ。





一人の少年の自儘な思いから始まるこの星の人類が生き残れるか死滅するかの戦争が





※※※



激痛を乗り越えた後に生物が至る先は幾つか選択肢があるだろう。

蛇が選んだ選択肢はシンプルなモノ──怒りに我を忘れるであった。

蛇にとって痛みとは与えるものであり、得るものではない。




徹頭徹尾、己こそが最大であり最強の強者



己の存在こそが世界であるという傲慢な矜持が己を傷つけた存在というモノを許す事が出来なかった。

故に蛇は最も短絡的且つ効果的な復讐をしてやると即座に決めた。

すなわち人間の虐殺を遂行する。

あの人間も人間である以上、群れる生き物だ。

そして人間というのは同じ種族で醜く争う癖に変な所で他の存在を守ろうとする意味が分からない生態を持つ。

理解は出来ないが、それが人間という種族の特徴であると捉えれば利用する事は簡単だ。

殺す、踏み潰す、食い荒らす。

全身の肉体が躍動し、それによって付随する震動を必死に星が耐えようとする。




蛇にもしも弱点があるとすればやはり巨大過ぎる事であろう。



何せ蛇が動くだけで星は更地になり亀裂が入る。

下手すれば星を壊しかねない巨体だ。

法則を突破して得た体である以上、もしかしたら宇宙に飛び出ても活動出来る可能性は零ではないが蛇とて好き好んでDead or Aliveのハイリスクを行いたくはない。

故に蛇は星を壊しそうになる自分の体を制御しつつ、尾や頭部、あるいは全身で叩くのではなく磨り潰すように絶滅させる手段を取ろうとしていた。




──傲慢さ故にまた見落とす。

実体験で己が最強であるという矜持を揺るがす事態が起きたというのに未だに自分は無敵であると根拠もなく信じる思い込みは次の槍を以て抉られる結末を迎える。





※※※



「やれやれ。変わらず馬鹿の一つ覚え。己よりも強い存在がいる事を理解させるには酷く分かりやすい一撃だったろうに」



全身を躍動させながら動こうとする蛇の直ぐ傍に蛇に比べれば芥子粒の──執事服に似た服装を着た青年が一人立っていた。

衣装の質感が明らかに惑星サームの文明に沿っていない。

もしもここにアイナが居たら、直ぐにアリアンと同じ存在であると理解出来ただろう。

精悍な顔つきに加え鋭い眼差し。

髪は黒の髪を逆立てており、眼差しも含めて鷹のような印象を見せる。

細くはあるが弱さという印象を切り離した青年は溜息を吐いて先程の言葉を呟きながら手袋を嵌めていた。

何の装飾品も無い至って普通の黒の手袋を嵌める男の眼前には蛇の巨大且つ長い胴体が聳え立っている。

繰り返すようだが蛇の巨体は星を食むレベルだ。

蛇の巨体と他の何かを比べて比する物を惑星サームの宇宙と文明レベルで語るのならばそれこそ星そのものくらいしかない。




故にその蛇を前に拳を握ろうとする男は傍目から見たら自殺願望者だろう




「──私の名はディエン。この拳を以て撃ち抜かせて貰いましょう」



届かぬ宣誓を蛇に告げる。

相手がこの蛇である以上、無駄である事は理解しているが、礼儀として尽くすのはおかしく……いや待て。



「聞いてみたらこの蛇、ただの塵屑でしたね」



汚い言語ではあったが、あの巨体で発せられたら十分なだ。

だからディエンも蛇の気質を本人の口から語られ、だからこそこうして反逆を行う事に躊躇いが無いのだ。

で、あるならばこんなデカいだけの爬虫類に礼儀を払う方がありとあらゆる意味で無礼だ。

別に騎士道を気取るわけではないが、それらを向けるのならば最低限の格がある相手に使わないとただの無駄遣いになる。

理解を得ると共に意識を切り替え、はぁーと一度大きく息を吐き




「……さっきからズルズルズルズルと──耳障りなんだよ爬虫類擬きがぁ!!!!」



先程までと同じ男が言った言葉とは思えない暴言と共に放たれる拳は一瞬で音を突き破り、踏みしめる大地を砕きそのまま蛇の図体に直撃した。




「──!!!?」



ディエンと名乗った青年からしたら真上から蛇の苦悶の悲鳴が響き渡るのを感じ取る。

図体のせいでそれだけで音響兵器にもなり得る悲鳴であり、惑星サームの人間ならそれだけで死亡しかねない威力とついでと言わんばかりに震えあがる蛇の肉体による巨大な震動と地震が起こるのだが青年は一切気にしない……所か青筋が立ち会始める。



「あぁ? 一丁前に叫びやがって……思春期のガキじゃねえんだから──拳の一発二発で女みたいに悶えてんじゃねえぞ!!」



続く拳の連打が轟音を鳴らす共に肉と巨大な骨を打ち付け、砕く音が響き渡る。

予めアリアンが成し遂げたとはいえやはりこの宇宙からしたら尋常ではない光景。

蛇に通じるという事は星にも通じかねない災厄を彼ら二人は身に宿している事になる。

埒外の法則と呼ばれるものを、しかしディエンは迷わず振り被り連打する。




「気持ちよかっただろうなぁ!! 誰も彼も自分以下! 遮る者も物もいねえ! 怖い物が何も無い中での支配は楽で楽で仕方がなかったんだろ!?」



文明も力も合わない世界においての法則突破の結果は頂点になるという事。

その事実に胡坐をかき、好き勝手に人を乱し、動物を捕食し、星を揺るがす。

邪魔する奴らが居ないのだからとても気楽だっただろう。

そこら辺、自分達も他人の事を言えるわけじゃないが、だからこそ矜持を以て行動する。

無論、それは人の論理だ。

獣にそれを求めるのは理屈の押し付けと本来なら言う所だが




「違うよな貴様は──人の苦しみを愉しんでいただろ? 何も出来ずに蹲るしかねえ人間見て愉快だって嘲笑っていたよなぁ? そういうケダモノの事をなんていうか知っているか? 教えてやるよ──下種野郎っつうんだよぉぉぉぉぉぉーーーー!!!」



最後の一声と共に殴りつけた拳は爆音の如き音と破壊力を以て蛇の中身を全て拉げさせた。





※※※



「──!!!?」



人間の小声おおごえなんて蛇には余程注意深く聞かなければ聞けるものではないし、聞く余裕も持ち合わせていない。

精々、認識出来たのは腹の辺りから来る途轍もない激痛とそれを成し遂げたのが先程の人間とは違う人間であるという事柄だけだ。

既に二度目の奇跡だが……それでも蛇は一度目に劣らない驚愕を得ていた。




敗北経験がない事がここに祟る。



どれだけの脅威を感じても、蛇にとっては自分が本気になればどうにでもなるとしか考えれないのだ。

自分以外の動植物を下にしか見れない。

何故なら負けた事が無いから。

脅威という概念を、恐怖という感情を──敗北するという事がどういう事なのかを理解する経験がないのだ。

知らない事を理解する事はどんな宇宙の生物でも難しい。

故に蛇は今もまだ己の敗北を信じて疑わない。




「虫ケらがァ……!!!」



思わず人間の言葉で吠える程の怒りが痛みを焼き尽くす。

己を怒らせるという事がどれ程の"悪事"であるか教え込もう、否、刻んで滅ぼしてやる。

その怒りだけで星を幾度滅ぼせようか、と憤るこの宇宙最大の怪物が吠える。

咆哮だけで星を震わせ──そのまま眼前に迫りくる灰色の光を寸前で躱す。




「おや、舐めちまったか」



蛇は自分の眼前に一番最初に自身の矜持を傷つけた人間が現れた事までを見逃しはしなかった。

蛇の慢心はこの戦いで晴れる事は無い──だがあの二匹の人間を前に無視をするという低能も起こす気はない。

驕った意識はそのままに蛇は二匹の人間を見下して怒る。

自身に痛みを与え、矜持に傷を与えた。

貴様らに希望等欠片も与えない。





このまま打ちのめし──その間に尾で他の人間を虐殺してやる



人には分からぬ蛇独自の下卑た笑いを浮かべる。

蛇は知識という意味ではそう多くを知るわけではないが……人間が群体である癖に個を無駄に大事にする意味不明な性質を持っている事くらいは知っている。

善性という概念を蛇は知らないが、そういう風に他の人間を潰せば何故か別の人間が絶望の表情を浮かべると言うのを経験則で知っている。

だからそれをこいつらに見せつける。





勇者を気取る塵共に貴様らの価値は無であると知らしめるのは──なんと甘美な響きだろうか




見据えながらも見下し、舌なめずりをしながらその瞬間を蛇は待ち焦がれる。

事実、気付かなければ蛇が考える通りの結末を迎えるだろう。

この二人は人のまま人を越えた超人の部類ではあるが、だからといって全ての概念や法則を超越したわけではない。

距離と速さという概念がある以上、必ず時間という概念を消費しなければいけない。

故に蛇の考え方は何も間違っていない──ただ前提の気付かなければ、という条件が守られていれば、だが。




※※※



惑星サームにて唯一人が住む街は阿鼻叫喚の悲鳴が上がっていた。

度重なる地震に咆哮。

普段見ないように意識していても、ここまで暴れまわったら人は原因の怪物を反射的に見てしまう。

そうして気付く。




自分達はこんな怪物を目と鼻の先に存在させていたのか、と



そうすれば崩壊するのは人間の理性だ。

あっという間に人々は恐怖の叫びと同時に怒りの叫びをあげる。

恐怖は当然生き延びたいと思う生存欲求から。

怒りはそれとは別の恐怖から逃げる為のものだ。

その矛先は当然蛇──ではなく蛇が暴走する原因となった星海から来た人間に向けられた。

何故厄災を自ら叩き起こすと人々は怒りを叫ぶが、賽が投げられた以上意味がない事を彼らは気付けない。

恐怖で逃げ惑う事の方が合理的である状態の中、ある種当然と言うべきか。

力強く自分の意志で行動出来ない一人の小さな少女が泣き叫んでいる。




「ママぁ……!」



まだ5.6才頃の年頃の少女の鳴き声は逸れてしまった母親を泣きながら探しているのだがその小さな背と泣きながらの声では恐怖と怒りに支配されている人達の怒号や大きさに打ち勝つことが出来ない。

精々がその母親に買って貰ったと思われる少女の体には少し大きいクマのぬいぐるみにしがみつくくらいしか己を保つ手段がない。

その拙い自衛も直ぐ様取り上げられることになる。




「あっ……!?」



逃げ惑う人々にぶつかった少女の体はあっという間に撥ね飛ばされ両手に抱えていたぬいぐるみが放り出される。

飛ばされた位置はほんの少し先だ。

少女の体格でも一歩踏み込んで手を出せば拾える位置。

しかし今の状況と少女の体格ではそれは永遠にも等しい距離だ。




「……ぅ」



今まで縋りつくという行為によって保っていた少女の理性が決壊していく。

瞳からはあっという間に涙が浮かび、3秒後には零れ、泣き叫ぶだろう。

それを止める手段は少女には当然ない。

そして周りにいるのは絶望に憑りつかれて狂乱する人達だけだ。

優しくするという行為は余裕か、あるいは希望がある人間が出来る事だ。

巨大な蛇に対して畏怖と絶望しか抱けなかったサームの人間には耐える事等出来ない以上、少女はこのまま泣き叫ぶしかなく──




「──はい、お嬢ちゃん。くまさんよ」



なのに、少女に安堵を届ける存在が居た。

無意識に受け取った少女を大きな目をぱちくりと開き、自分にクマの人形を届けてくれた人物をまじまじと見る。

子供心というフィルターを入れた感想だととても綺麗なお姉ちゃん、と言うべきだろう。

ふわふわ、とした栗色の長髪を背中で波立たせ、整った顔で笑みを浮かべる姿は惑星サームには無いが、どこかのテレビのスターみたいなイメージを他人に刻ませるだろう。

スタイルも非常に優れており、顔に胸、腹に足腰、その他全てがパーフェクトとしか言えないような女性だ。

状況さえまともであれば男女問わずに思わず振り返ってしまう程の絶世の美女だ。

そんな美女が状況を無視して少女にクマの人形を手渡していた。




「あ、ありがとうおねえちゃん……!」



年幼い少女には当然それに対する反応よりも自分の心の支えとなってくれたクマの人形が戻ってきた事にこそ関心が集中する。

手元に戻ってきた人形をぎゅうっと抱き締め、戻ってきた事を実感する。

そうしてホッとするのも束の間、直ぐに少女は縋りつきたい母親が居ない事を思い出して呆然としそうになり




「よいしょっと」


「あ……!」



クマの人形を拾ってくれた女性に肩車された。

唐突な高さに少し恐怖を感じたが、その恐怖も高さを得た事によって得た視界の広さによって見つけられた




「ママぁ!!」



必死の顔を浮かべてい周りを探っていた母が自分の姿を見つけて心底からの安堵と共にこちらに走ってくる。

人波に何度ぶつかっても押しのけて娘の傍に走ってくる光景に少女もまた安堵の表情を浮かべ……肩車をして少女から見えない女性は心の底から慈愛を浮かべていた。

やがて




「ママぁ……!」


「ああ、本当に……本当に良かった……!!」



離れ離れになっていた少女と母親が抱き合う。

……娘の方はともかく母親の方は今の状況を理解していた。

例え今、巡り合えたとしても数秒か、数分か、あるいは数時間後に自分達は地面の染みになる結末を待っている事を。

自分達が待ち受けている結末は悲劇のみ。

それを考えれば今、娘を見つけても意味が無い事なのだが……理屈よりも親としての感情が動けと自分の肉体に命じたのだ。





──その儚い家族愛に女は微笑んだ。それで十分だ、と




「あ、あの……ありが」



娘を抱き締めたまま振り返り、娘を見つけれてくれた女性に声を掛けようとして途切れる。

礼を途切れさせたのは単純な理由──礼を言う相手が居なければ意味が無いからだ。




※※※



『ちょっと船長にディエン。もうちょっと丁寧に戦えないのかしらぁ?』


『しょうがないだろ。この蛇、ちょっと殴っただけでビービー泣くんだぞ』


『その上暴れまわるという。どうしようもないとはいえ甘やかされた生物としての特徴をほぼコンプリートしてますしね。そのお陰で殴る度に非常にスッキリするのですが──あぁ? おいこら爬虫類擬きが! くねらせてんじゃねえぞ気色悪いんだよ……!!』



通信からチンピラモードのディエンの叫び声と共にまた地響きと蛇の叫び声が聞こえるから、とりあえずテンション高くて何よりである。

あの蛇を確殺するのは確定事項なのだから別にいいのだけど



『子供が泣いているのよねぇ』


『うっぐ……』



今の一言でしっかりと二人に効く分まだマシ。

……まぁ、だとしても蛇を殺さないといけない以上、こちらが油断するわけにはいかないし蛇の動き全てを止める事も難しいのは分かっている。

つまるところ必要なのは短期決戦。




『結構いいの入っているみたいだけど……自己再生系?』


『そうなのでしょう。でなければ幾ら巨体とはいえ病気や長時間の行動に弊害が起きるでしょうしね……それでもただデカいだけで済んだだけマシです。これでアリアン様やシーリィ様みたいに固有法則を持たれたら面倒この上ない』


『俺とシーリィは特殊事例だけどな──どちらにしろそっちの街は頼む五月』


『手早く頼むわぁ』



散歩気分で街の外まで出歩くとようやくオリアスによって生み出された影から外に出る。

街中は暴動の嵐。

かと言って外に出ると蛇によって蹂躙される以上、人々は外に出る事は難しいだろう。

つまり、守るにはここだけを守ればいい──と同時に攻撃するならここだけを攻撃すればいいという事になる。

解りやすいわねぇ、と苦笑していると別の画面が表示される。



『五月姉ー。そっち、変わらず尾っぽが行っているみたいだからよろしくぅー』


『五月さん! お願いします!』



それ二人で言う意味ないんじゃないの? って微笑して目の前を向く。

何時の間にか自分は再び影に覆われている。

オリアスが移動したわけでも無ければ自分が再び影に戻ったわけではない。

単に頭上に新たに太陽を遮る物が生まれただけという酷く当たり前の理由だ。




「大きいわねぇ」



言うまでもなく巨大なそれは蛇の尻尾に当たる物だ……と思う。

断定出来ないのはデカすぎて視界に入り切らないのだ。

なのでオリアスとエレムの情報を信じるしか無いのである。

まぁ、そうは言ってもオリアスの防御フィールドを使えばのだろうけどオリアスに負担をかけさせ続けるのもいけないだろう。

ナガルさんに叱られる。




「しょうがないわねぇ。いい女は仕事は多い物だしね」



それに丁度いい物も見つけられたのだ。

アレなら少しは緊張感を解す事が出来るだろうと思い──実行した。






※※※



「おい……何だあれは……」



最初に声を出した男にあるのは理解を拒絶したが故の震えであった。

世界の滅びに直面した人々は最初は無視している者が多かったが……気付く人間が増える事によってその声が指し示す方を見る人間が増え、そして直面する。

を見る人間が最初に浮かべた表情は冗談だろ、という理解を拒んだことによって浮かぶ引き攣った笑みだ。

もしも、だが。

この状況をこの宇宙に住む人々の常識を以て第三者の立場で意見を言えるのならば無理も無いだろう、と告げるだろう。

惑星サームにおける成長法則を無視した生物である蛇が暴れ回っている事、そんな蛇に対して自分達と姿形が変わらないように見える人間がただの拳や剣を以て挑み、

そのどれもがこの星の人達からしたら出鱈目だと叫ぶ事であり、常識という名の法則を完全無視した行いだ。

アリアン達を仮に味方だと評するにしても埒外過ぎるのだ。




だからこそ次の光景も彼らには受け入れられる物では無かった




ずんぐりむっくりな姿に茶色の毛皮らしき物で全身を覆った姿。

更にデフォルメされた造形はこの星に住む人でも理解が及ぶ物ではあった。





『くま~~~!』




わざとらしく愛らしい? 叫び声を上げて混乱して気付かなかった蛇の尾を迎撃する熊──の人形の巨大な姿。

──それこそが住民にとってとどめの一撃に等しかった。

積もりに積もったストレスは皆の心を統一させ……一言、





「ふっっざけんなーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」





※※※



『あ、あれ? おかしいわね……ここで余りの愛らしい熊さんの登場で皆の心が癒される筈じゃないかしら!?』


『住民からしたらもしかして家にある熊が突如巨大化して暴れまわったとか思っているんじゃないか?』


『我々はこんな恐ろしい物に囲まれていたのか……!!? 中々ホラー煽る展開ですね』


『こら! そこの男子共! 冷静にツッコミ入れるのは後よ! ──今、必要なのはこの巨大熊を受け入れて貰う為のラブリー名言よ! 急遽募集するからはいソッコ!!』



※※※



サームの住民達は巨大な熊から酷く場違いな愛らしい声で次の言葉を聞いた。




『悪い奴は皆殺しだクマーーーーー!!!』



エコーしてから数秒後程に住民たちは酷く分かりやすいリアクションをした。




「うわーー!! もう駄目だ……!! 蛇の次はクマが俺達を虐殺する気だ……!!」




※※※



『解せないわね! ここの悲観主義共は! 愛らしい熊の名言に心を動かさないなんて……! 魂の枯れ具合がマッハ超えてライトニングよ! 後、この名言考えた船長は後で説教よ! ディアラに頼んで!!』


『ディアラが説教か……甘美過ぎて死にぽっ! ──いかん! 1ミスして無限残機が一つ減ったじゃないか! 一体どうしてくれるんだディアラ! 君の魅力が素敵過ぎて脳が……蕩ける……!』


『単にバグが起きて脳に欠陥を抱えただけではありませんか?』


『元からの機能不全はバグじゃなくて馬鹿の証じゃなぁい?』


『ちょっとちょっと。人の旦那に好き勝手言い過ぎよ──単に死に過ぎて唐突に私に性的興奮を抱いただけよきっと。でも死んだから一人で発散してね』


『色々とダイレクト過ぎだぞ!!?』



※※※




嫁の辛口なツッコミに流石だ……! と脳内で親指を立てている最中に今度は

勿論、比喩ではない。

文字通りアリアンという名前を付けられた肉体全てが吹き飛んだという意味だ。

肉を構成している素材全てが吹き飛び、どんなに甘く見繕っても粉微塵の状態に陥った。

惑星サーム……否、大多数の人間体の知性体と同じであるならば間違いなく即死だ。

問答の余地すら介入しない文句無しの即死。




故にそこからのは人智からはみ出た行為であった




飛び散り砕け散った肉片が数秒もせずに一か所に集まり、固まり、再生していく。

手足から胴体、最後に頭部が揃い




「──」



アリアンという人間は復活を成し遂げた。

ただその結果に普通の人間なら生き返ったと喜ぶかもしれないが……本人は酷く冷めた吐息を吐いて剣を構え直すだけであった。

今は自分の肉体について考える時ではない。

必要なのは手を動かす為の肉体と蛇を切り裂く剣だ。

再度自分の肉体を圧し潰そうと迫りくる巨大な蛇の体に今、自分が使える力の全てを使って剣を振り切る。

それだけで目の前で壁の如く立ち塞がる蛇の肉体に亀裂を生み、滝の如き出血を零す。

その度に煩い悲鳴が聞こえるわけだが




「……成程ねぇ」



出血含め傷口がかなりの勢いで再生されていく。

巨大化に加え自己再生も長けているとは実に憎らしい。

まぁ、そうではにと巨大な体を維持するのは難しいと考えればある意味現実的なのだが、既に法則を突破している癖に今更"現実味"を気にするというのもまた変な話だ。




「やだなぁ。現在進行形で法則突破しているとかないだろうな」



世界法則を覆すには? と問いかけられても突破している本人ですらさぁ? としか言えないものなのだ。



常識外の技能を獲得した者

強靭な意思の力をを持つ者

生まれた時から持ち得た者



才能による物なのかと思えばそうでもない者も居る以上、そういう物と認識するしかないのだ。




「まさか死なないなんて言うわけじゃ無いだろうなぁ」



自分の口で言っておきながら言葉には冗談半分というのがありありと浮かんでいた。

何せ自分がよく知っている──不死なんて馬鹿げたモノはそれ相応の格が無いと不可能だ。

漫画やアニメでは普通に設定として生やされるものだからレア度は無いが、命という観念だけは未だに宇宙を渡り歩いても解き明かせぬ神秘であるのだ。

命に手を出せれるのは命という神秘を解き明かした者による越権行為。





つまり■という憎くて憎くて仕方がない唾棄すべき概念──




一つ、大きな心音が鳴り響く。

視界が真っ赤に染まる。

前を見ればそこにはあの憎らしい■が……!!




『──アリアン』


「……ん? なんだディアラ?」



突如かけられた声に即座に言葉を返す。

今度は声だけではなく映像も含めて送られており、そこには分かりやすいくらいこちらを心配する妻の顔が映っている。

はて? そこまで不安にさせるような事をした覚えはないがと、とりあえず今はそんな場合ではない事を考え、敢えて見当違いな事を問う。



「シーリィの準備が済んだ?」


『……ええ。本人から伝言よ。"がんばります!"だって』


「……全く。血生臭い事を頼んでばっかりだ」


『あの娘もあの娘として戦う理由があるんですもの。それに傷付いて傷付けるのは女の子の方がしっかりとしているものよ』


「男も見栄を張るのが大変だ」



クスリと二人で笑い──その間に落ちて来た空のような蛇の体に拳を叩き込む。

轟音なんて生温い音が大地を砕き、蛇の体を押しのけ、破裂する。

空がはじけ飛ぶような光景と共に落ちてくる血液の濁流が酷く懐かしい。

別の宇宙である以上、様々な部分で違いはあるだろうにどうにも血の味だけはどこでも変わらないように思える。

懐かしさすら覚える血の雨の感触に反吐を吐く気分で唇を歪ませる。

漏れ出る憎悪の奔流が恥知らずの灰の聖剣を少しずつ闇に染め始める。

その度に少年が放つ一撃は重く、深く……怨念の如き形に変貌しつつある事に少年は気付かない。

今はただ蛇を打ちのめす。

それだけを考えているが故に、今はそこで止まれた。





故に状況を打開するのは次の槍だ





※※※



蛇の蠕動運動を目の前で見ながら幼い少女は心臓を落ち着かせるために深呼吸を行っていた。




「頑張るんだ……」



肩辺りまで伸ばした金の髪を括り、将来必ず花開くであろうと周りが思う可憐さを残した少女は自分自身に覚悟を迫っていた。

他の皆と違って私は凄くない。

アリアンお兄ちゃんはどんな相手にも怯まないし、助けてくれる。

ディアラお姉ちゃんは何時も優しくて、よその子である筈の自分にすら笑みを以て安心をくれる。

ディエンお兄ちゃんも五月お姉ちゃんもオリアスお兄ちゃんもナガルさんもエレムお姉ちゃんもミリルお婆ちゃんも皆凄い。

だから自分も皆に胸を張れる自分になるのだ。




「……ごめんね」



その為に私は私の呪いを悪用する。

文字通りの呪い。

実は祝福だったとか、上手く扱えば人を救える力になるとは欠片も思えない。

そう思いながらも彼女は呪いを晒す──呪いを受けた両の手を覆った手袋を取る事で。

現れたのはやはり少女に相応の両の手だ。

特に異形であるとか色が違うとか大きくなっているとかはない。

しかし勘の鋭い人間がその手を見れば特大な危機感知の警鐘をけたたましく鳴らしていただろう。





この両手は悪魔の情愛の結晶

誰一人として触れる事は出来ぬ破滅の両手



それを今、私は使う。

これを以て人助けになるのであれば……私は今、破壊を寿ぐ。

偽善も承知の独善を以て、私が正しいと思った事をするのだ。




「……だから……ごめんなさい………!!」



目の前には大地の如き蛇の巨体。

この蛇が性悪である事は蛇本人の口から聞かされているが、それでも生きている命である事には変わりない。

故に私の好悪で滅ぼす事に謝りつつも手を止めない。




「やぁ…!!」



身体を魔力で強化し、アリアンお兄ちゃんやディエンお兄ちゃん程では無いが超人の身体へと変貌し、そのまま何の策も無く両手で触れ






蛇の肉体は言うに及ばず血液や内臓等諸々全てが細胞の一欠けらも残らず破壊していく。

一切の例外なくシーリィと呼ばれた少女が触れる物全てが破壊していく。

更には破壊は触れた所のみならず、直接触れた箇所よりはゆっくりではあるか次々と感染していく。




森羅万象あらゆるものを崩壊させる悪魔の手の平



シンプル故に悪辣な呪いが巨大なる蛇の半身を崩壊させていく。

大きさ故に時間はかかるが、シーリィもまたそこで半端な事はしない。




「やぁぁぁーーーーー……!!」



一声と共に両の手を押し付けるようにして蛇の肉体を駆けて両手を押し付ける。

あくまで呪いは両手にしかない為、上体を下げて手の平を地面となっている蛇に触るようにしているが、恐るべきはそれだけで次々と肉体が破壊していく事だろう。

これだけの図体故に直ぐに引き千切れる事は無いが、少女の両手で触れられた箇所は再生も始まらないのだ。

それ故に、破局は止まらず、全身があっという間に引き裂かれていく。

例え肉自体は繋がっていても、肉体が裂かれつつある状態で肉体を上手く動かせる筈も無ければ、仮に動かしてもそれはより崩壊が進むだけだ。

如何なる存在よりも巨大であった蛇の図体は、しかしそれは全身を持っていた時だ。





肉体の8割程の部分で引き千切られたら星を覆うとはとても言えなくなるのだから






※※※



『………ギィ!!』



蛇は全身が正に引き裂かれる痛みを知覚した瞬間に、自分の万能感を支えていた肉体の半分以上の喪失をようやく知覚した。

厳密に言えばまだ繋がってはいるが、それでも着々と自分の体が引き裂かれている事が理解出来る。

初めて感じる恐怖。

いや、むしろ恐怖を感じるには遅すぎたと言えるであろう。

だが、認められなかったのだ。






その驕りは今、次々と自分の体が引き裂かれ、叩かれ、壊されていくという現実に繋がってしまった。

ぶちぶちと引き裂かれていく自分が俗に言う"死"に近付いていると感じ、ぞっとする。

恐怖から体を動かしたいが、そうするとより悲惨な結果に繋がるのではないかと思うとおいそれと動かせない。

死に対する不安と恐怖に苛まれる中




「ゲームセット、だ。大蛇野郎」



最初に己を殴り倒した人間が自分の眼前に立った。

無論、立ったとはいえ自分からしたら雲の下の大地に立っているので無理矢理に見下ろさなければいけない場所だが……何故か蛇はこの人間が眼前に合っているような錯覚を得ている。




「幾ら何でも慢心が過ぎたな。お前みたいに常識を覆す蛇がいるんだ。そりゃ人間にも常識を覆す奴が居てもおかしくないだろ」



己という例外が居たのだからどこかに他の例外が現れてもおかしくない、と人間は呟く。

……苛立ちは一瞬で怒りなった。




『──ふざケルな!! キサまラのようナカとウなそんざイが……!!』



蛇は最強最大だ。

例えどれだけ追い詰められたとしてもその自信が崩れる事は無い。

慢心で目が曇っているがあながち間違いでも無い。

星海から来たこの星においては異常な能力を持つ存在に対して今もこうして抗えているという事は蛇もまた一つの例外存在である事の証明だ。

故に蛇の死ぬ最後まで驕りを消す事は出来ずに人間を見下す。




『クダラぬカトうドもがさえずルナ……! せいぞンスルタめにタヤスくどうぞくヲうリハラウようナムシケラが……!!』



ただ見下す理由は驕慢である事だけではない。

何故なら蛇は人間という物を見て来たからだ。

蛇の知っている人間は今までも散々言っているように下等な存在だ。




この惑星にて人間と自分による生存戦争がかつて行われた。



最も蛇からしたら小蠅を大量に叩き潰した程度の認識ではあるが。

その大戦は当然人類の大敗北で終えた。

その気になればその時点で蛇は人類を滅ぼす事が出来たが……気紛れでこう告げてみたのだ。




端的に言えば生贄を差し出せば生かし続けてやる、と



当時の蛇はその発言に自ら嘲笑した。

何せこんな言葉に何の意味がある。

大戦で街所か幾つも国を滅ぼし、蛇からしたらほんの少しの土地で塵のように生きるしか出来なくなった人類からしたら何一つ信じる要素も無ければ、同族を差し出してまで生き残っても滅びが少しだけ伸びるだけでしかないだろう。

なのに、なのにだ。

馬鹿げた事に人間は自分の戯言に応じたのだ。




その時ばかりは蛇は人間を凝視したものだ───新手の塵か何かか、と



まさか自分が戯言を守ると思い込んでいるのか?

気紛れで適当に世界を滅ぼした自分が、生贄を差し出し続けていたら守ると? 馬鹿か? 阿呆か? 脳に何か別のガラクタでも詰まっているのか? 

あるいは……そんな下等な生き方をするのが人類という事なのか、と。




なんとまぁ……無様なモノだ、と嘲るしか無かった




関心は消え失せたが代わりに暇潰しに使い潰すかと決め、今まで生存させ続けた。

つまり、人間とは蛇の意志如何で容易く潰される程度の石ころだ。

だというのにその石ころが今更担って反抗してくる。

これを裏切りと言わず何と言う。




あれだけの膨大な命を捨てておいて今更取り返そうとするなど余りにも傲慢過ぎるではないか……!!



その苛立ちを人間らしい小さな体をした白髪の少年にぶつける。

音に加え、蛇が持つ図体という威圧は間違いなく人間にとっては死に値する物である筈なのに……少年は蛇の憤りに対して肩を竦めて苦笑した。

蛇が告げた言葉を否定するわけでも無ければ、怒りを押し隠す様子もない。

蛇はその様に自身の言葉を全て無視しているのかとより深い怒りを燃やすが……



※※※



少年もまた蛇の言葉には深く同意する

人間とは正しくそういう物だ、と生存に対する執着と自己を優先する余り他を蹴落とす野生ですらない合理と感情による業。

人間とは醜くて下らない。

その一点に対しては蛇とは話が合うとさえ言える───ただ少年はそれに対して嘲笑する気がないだけだ。




自分が人間であるからだ、とかではなく……醜さに手を染め、下らなさに落ちながらも、気紛れに望みを繋げる様もまた真実であると知っているから。



同意はする。

人間とはそういう物だ……けど、そういう物だけではないと知っているからアリアンはただ肩を竦めるだけであった。





『クワレたむしケラドももコッケいきわまりナイ!! ツギのホショくまでのジカンカせぎでしかナイトイウのに!! ドイツモこいツモニゲナいとは! よくキタエラれたどれいこんジョウのもちヌシバカりであったわ! ああ、そうダ!! きさまラハカチのないごミクずのシュウダんであっタワ……!!』




だからその言葉だけは見逃せなかった。




※※※



アイナは軋む様に振動していた大地と蛇の叫び声が同時に止まるのを感じ取った。




「……え?」



街に戻る事も出来ず、かと言って前に進むわけず所在なさげに立っていたのだが、この星に於いて鳴り響き続けいた二つの異音が止まった事に困惑する。

あり得ない事の連続が起きているが……予感があった。

その予感は降って湧いた物の癖に、それは空を見上げないという不文律を破るくらいには強烈だったらしく……だから、私は───空を見上げた。




「───は?」



するとそこには



空を割かんばかりの灰色の剣は地上から生まれ、星海にまで剣先を伸ばしているように思えた。

その中途に───あの巨大な蛇の口腔を切り裂いていた。




「──────あ、は」



誇大妄想の塊。

これが物語であるなら、やり過ぎ無駄過ぎと言われてもしょうがない程の圧倒的な光景。




───ここまで来たらもう爽快と言うしかないじゃない



口元に浮かぶ笑みを隠せない。

絶望の象徴であった蛇の口から洩れる血液が何と子気味良い事!

何度……何度何十何百何千何万何億何兆何計この光景を夢見た事でしょう!

正しく夢見た光景に目を輝かせていると



「はぁい、お姫様」



気さくに声を掛けて来た人は……また綺麗な女の人だった。

整った顔は勿論の事、栗色のウェーブの髪を腰まで伸ばし、更には




で、でか……



中々に突き出た女性の象徴に危うく自分のを条件反射で抱えそうになるのを必死に押しとどめる。

ともあれこの奇抜さ……間違いなくアリアンさんの仲間だろう。

というか空を飛翔していた時に途中で割り込んできた女性と同じ声だ。

警戒する事は止めれないし、本当はもう少し空を見たかったが……そのまま答える事にした。




「……なんでしょうか?」



女性は返事しなかった。

ただそのまま先程アリアンさんが開いていた空間に映る画面を渡してきた。

咄嗟に手を差し出すが、掴む……前に自分の手の上で浮き上がるからどういった技術なんでしょう……と本当に首を傾げてしまう。

ただこれが渡されたという事は見ろ、という事だろうと思い、画面を見ると……そこには件の少年が巨大な剣を片手で持っている光景であった。

何度見ても驚くが、つまりこれは今の彼を映し出しているんだろうと推察し、見ていると





『───他人の生を嗤うのはいいさ。無様な奴は無様だし、醜い奴は醜い。好悪もそれぞれだから俺が美しいと思う物がお前の美しいと思う物とは限らないしな』




※※※


善こそ尊いという人間も居れば悪こそ我が道と考える者が居る。

あるいは善悪等無視して別の事柄こそを美しい、あるいは醜いと考える者がいる。

故に蛇が人間を醜悪だと嗤う事を止める権利はアリアンには無い。

そもそもアリアンとて思うのだ。



人間は美しくない



美しい人間が居るだけで、全体を見れば人間を素敵だ、とは口が裂けてようやく言える綺麗事であると認識している。

だから蛇が人間を塵屑の塊と言うのは構わないだろう。

……だが




「他人の死を嗤うにはお互い出来た生涯を送ってないだろ」



灰色に輝く恥知らずの聖剣に自分の顔を映しながら自嘲する。

別に他人の死を嗤う権利等誰にも無いとは言わない。

様々な事情からそういう事もあるだろうとは思う。

だけど、それはその人の死に対して胸を張って受け止めれる人間だけだ。




俺やお前がするには恥知らず過ぎるだろう




「大体、お前を今、破滅させたのは塵と侮った人達いのちだ。命で遊ぶから俺達が辿り着いてしまった」



そう。今回の破滅の原因は俺達ではない。

最初から最後まで蛇の自業自得だ。

悪逆非道を貫いたから。

人間を嬲り尽くしていたから。

慢心を拭いきれなかったから。

他者を塵と蔑むから絶望なんてクソだと考える俺達に追い付かれてしまった。





「悪いな蛇野郎。八つ当たりしか出来ない俺に見つかったのが運の尽きだと思って───宙に飛んで行きな」



そのまま俺は

腕にかかる重量は中々だが別に

無限に比べれば遥かに軽い。

聖剣の光がより深く、強く輝く。

光に応じて己が超強化されるのを感じ取りながら刺さった蛇事剣を振り上げて行く。




「これぞ蛇腹剣……!!」



出任せを思いっ切り叫びながら蛇の体が地上から離されていく。

その事実に蛇は流石に激痛だとかなんだとかを考える余裕が無かったのか、刺さったままの口から剣を無理矢理引き抜こうと試みるが





「………!!」



口からの咆哮と共に恥知らずの聖剣の光が更に輝く。

灰色の剣が持ち主の狂気に寄り添い、彼の体にの強化を掛ける。

既に蛇の体を持ち上げれる程強化された体に対しての強化だ。

彼を支える大地がまるで隕石の直撃を受けたのではないかと思う程のクレーターを刻む。

人間一人の力を支えたとはとてもじゃないが思えない異常な強化の中、少年はそのまま剣を振り上げた。

の蛇にはそれに抗う事も出来ず





「───!!!」



音にもならない絶叫と共に宙に投げ出された。

なまじ頑丈である故に喉に剣が刺さっても死ななかった蛇は星空に投げ出された。

あれ程巨大であった蛇をまるで飲み込む様に星の海は蛇の巨体を許容する。





「じゃあな蛇野郎。それでも生き残れたなら次は生きる努力をしておけよ」



届かない言葉故に自己満足でしかないし、宇宙に吹き飛ばされた直後に適応するのは流石に法則を突破している蛇にもほぼ不可能事だ。

可能性があるならそもそも最初から宇宙にも適応していた種であった、という可能性に懸けるだけだが……流石にそこまで面倒を見る気はない、

とそこまで思考して苦笑する。




「何て上から目線だ」



資格も価値も無い俺の傲慢さに思わず白旗を上げる。

愚者なのはお互い様。

精々違いがあるとすれば地獄に行くのが後か先かの違いしかない。

小石に躓いたか、躓いていないかの差でしかない。

そう考えれば自分の行いはIFの自分を殺戮しているのかな、と思うと───ちょっとだけ笑いが込み上がる。

下らない戯言に少し笑いながら、空から視線を切る。

戯言は放っておくとしても例え蛇が生き残っていたとしても流石にそこまでは面倒は見切れない。

自分がした事は決して正義ではない。

あくまで己の感情を優先させた自儘な悪徳だ。




悪が栄えた試し無し、なんて言葉はもう古臭いのだ



後はこの宇宙の人達がどうにかするに任せると放り投げ、一言。




「これにて一時落着ってな」



一件落着ではなく一時の落着。

あらゆる宇宙に寄り付かないはぐれの存在である自分達に解決出来る問題は無い。

精々一時の安静のみを与えて気儘に去るくらいだ。

故に俺達と出会った奴はこうツッコめばいい。




この無責任共がって



勿論、そのツッコミへの返答もこちらは一つだけだ。

すなわち───知った事か、である。





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Rebellion to despair 悪役 @akuyaku

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