復讐の夜明け
セラは玄関の扉にもたれかかり、庭の芝生を眺めていた。頭の中で前回の夜の出来事を思い出す。書斎で3人の男たちを殺した後、急いで玄関の方へ回ろうとしたが、ニワタリと名乗る男が4人の男たちを撃ち殺していた。結果として屋敷のみんなは誰一人死ぬことは無かった。
雨がパラパラと降り始めた。例の男はそろそろこの屋敷にやってくるはずだ。きっとニワタリは私の敵ではない。確信はできないが、ニワタリが影についてなにか知っているのであれば聞いておいて損はない。奴が本当に何者であるかを知る必要がある。ただ不安なのはこれからニワタリが来てくれるかだ。
「あっ」
来た。雨の中、和服姿で庭に入ってきて、左腕で頭を守り、走りながら屋敷へ向かってくる。
「やぁ、今回は迎えに来てくれたんだね。セラちゃん」
ニワタリとセラは向き合う。
「あなたはいったい何者?前回ここに来たことも覚えているようだし、なにをしにここに来たの?」
「そりゃぁもちろん~」
ニワタリはセラを軽く抱擁しながら言う。
「君を助けに来たんだ。つらかっただろう?遅くなってすまなかった」
「・・・・・・服が濡れるので離してください」
「すまん・・・・・・」
セラの自室。ニワタリはセラからタオルをもらい、髪を拭きながら、セラの質問に答えようとしていた。
「聞きたいことはたくさんあります。まずあなたはどうやってここに?」
「俺は、現代から君の作り出した異空間に侵入した。この銃で」
ニワタリは懐から右手に握ったリボルバーを取り出す。
「俺の先祖は昔から、異空間に飲み込まれてしまった人を助ける仕事をしていてな、神の子探しって言われている。神隠しにあった人を探すってまんまの意味でな。この銃には不思議な力があってな、これ使ってお嬢ちゃんがいる空間に穴をあけて侵入したのさ」
「にわかには信じられせんね・・・・・・」
「まぁ、みんなはじめはそう言うのさ」
「ここは現実ではなく、異空間といいましたね。現実のお嬢様やこの屋敷はどうなっているのですか」
セラは覚悟してニワタリに質問する。火に包まれた屋敷に、血まみれのお嬢様。あの光景から導き出される屋敷の未来は良いものではない。
「悪いな・・・・・・異空間にいる人に現実の話はできないんだ」
「なぜ・・・・・・ですか?」
「この世界から出るためには、この弾をお嬢ちゃんの脳に打ち込む必要がある」
ニワタリは透明なケースに入った銀色の弾丸を見せる。
「だけど、現実に戻るためには、現実に戻りたいという思いが必要だ。昔、俺の先祖が無理やこの弾を撃ち込んだ結果、その人は植物状態となって現実に帰ってきてしまった。精神だけが異空間の闇に置いていかれるのさ」
「異空間の闇・・・・・・」
「現実の話をすることはリスクが高いんだ。すまない」
「いえ。なんとなく理解できました」
この男は現実から来た。それなら、この屋敷に起きた事件のその後もある程度知っているのだろう。お嬢様が生きているのであれば、正直に話した方が得であるあはず、言わないということは・・・・・・。
「そういえば、影のことについていっていましたね。たしかバク・・・・・・とおっしゃっていましたね。それは一体?」
「あぁ、その前にまず、異空間を作り出してしまう原因について簡単に説明しないとな。地球に住んでいる人々は基本的に異空間なんて作ろうと思っても作れない。だが、想像力の強い子どもや脳構造の変異を起こした人は異空間を作ることができてしまう。ごくごく稀だがな。大体それが原因なんだがそれ以外に異空間をつくることができる奴らがいる」
「奴ら?」
セラは意識が遠くなりそうなのをこらえて必死に話を聞く。
「異世界の連中さ」
「異世界?」
「あぁ、この世界のパラレル的な奴もあれば、めちゃくちゃファンタジーな世界もある。数えきれないほどだ。そのファンタジーな奴らが俺たちにちょっかいをかけてくることがあって、その代表が前に話した影、バクだ」
「ちょっとまって。異世界?嘘よね?信じられない」
この状況を説明するのにはきっと異世界だとかスーパーパワーが必要になるのは理解できる。だけど、あまりにも話が飛び過ぎて頭が混乱してしまいそうだ。
「信じてくれ。俺の話していることは真実なんだ。現在、俺はバクによって異空間に閉じ込められた人達を助けることを主にしている。だが、バク本人はまだ見つかっていない。奴がつくる異空間は特別で、俺は夢と呼んでいる。バクに願ったことがそのまま異空間として現れ、願った本人は夢のような時間を過ごす。だが、お嬢さんの知っているように夢に終わりはない。ずっと繰り返される。それが楽しいものならいいが、お嬢さんのように苦しい願いを繰り返すのはただ、精神をむしばむだけだ」
「・・・・・・」
セラスカートをぎゅっと握る。この夢の辛さは身に染みていたからだ。
「早いとこ、この夢から覚めることをお勧めする。バクの作り出す夢は本当にたちが悪いというか、人が望む夢ばかりを叶える。夢に長く居続けるほど奴は力を付けるからな・・・・・・。お嬢さんの準備が今すぐにやるが・・・・・・どうする?」
「・・・・・・すこし、時間をください。現実世界に戻ってしまったらもう会えない人もいるんですよね」
「・・・・・・詳しくは言えないが、そうだな」
「皆に、お別れの挨拶をしてきます」
セラはメイドたちの休憩室へ行く。昼過ぎの早い時間帯なら彼女たちは
この部屋に集まっていることを、セラはとっくに知っている。
「あぁセラ。お疲れ。あのお客さんは?」
「ブルース様に合わせてきました」
「お疲れ~」
モルガン、キャミイ、バーバラはいつもと変わらない雰囲気でこの部屋にいる。
「今あの思い違い野郎の話で盛り上がってたんだ。セラも気をつけなよ」
モルガンは相変わらずちょけている。
「どうして・・・・・・私が気をつけなければならないんですか?」
「あんた、鈍感だからさ~。知らないうちに男をその気にさせちゃって襲われちゃうとかあるかもよ」
「そうですね・・・・・・」
「納得しちゃうのかい」
バーバラは微笑しながら、織物をしている。
「本当に~ダンテさんが悪者なんでしょうか~信じられないです」
キャミイはクッキーを頬張りながら、言う。
「好きな子の気に入ってる猫を殺して埋める男よりは絶対にましよ」
こういう異常事態でも変わらずいれるモルガンの性格がうらやましいとセラは心から思った。
「第一、ロンってやつは全然ダンテ様のことを知らないだろ?妄想だよ。お嬢様を取られそうになったからむきになったんだろうよ」
「うえ~」
キャミイが突然泣き出す。
「おい、急にどうした」
モルガンはおどおどする。セラはすっとハンカチをキャミイに。キャミイはそのハンカチを受け取り涙を拭く。
「オリビアちゃんのことを思い出しちゃったぁ・・・・・・うぇ~」
「なんだ。あんたってホント涙もろいわね・・・・・・ってセラ!なんであんたも泣いてんのよ!」
「ははっなんででしょうね・・・・・・」
本当に優しい人たち、私はこの人たちに会えてよかった。
「皆さん。聞いてください」
「ん?」
モルガン、キャミイはセラの方を向く。バーバラは織物を止める。
「どうしたんだい?セラ」
「いえ、特に深い意味はありませんが・・・・・・今まで本当にありがとうございました。皆さんと過ごした時間は絶対に忘れることはありません」
「はぁ?」
モルガンはずれたメガネをくいっと上げる。
「どうしちゃったの急にっ!」
セラはモルガンをハグ。突然のことにモルガンは顔を赤らめる。
「なっなんだよ・・・・・・」
続いてキャミイをハグ。キャミイは半べそだったが、笑顔でセラを受け入れる。
「へへ~セラちゃんどうしたの?頭がおかしくなっちゃったのかな?」
「ふふっそうかもね」
最後にバーバラ。
「恥ずかしいじゃないか。こうやってハグをするのはいつぶりだろうね~」
「ふふっ」
呆然としているメイドたちを部屋に残し、セラは笑顔でブルースの書斎へ向かう。
てっきり、ブルースと話し込んでいると思ったが、ニワタリはそこに居なかった。
「あれ、あの男は?」
「ニワタリ君かね。自己紹介をしたら部屋から出て行ってしまったよ。せっかくだからもっと話がしたかったのだがね。きっとロビーにいるはずだ」
「そうですか」
セラは机に座っているブルースの正面に立つ。
「ブルース様。私を、その・・・・・・暗い所から救っていただきありがとうございます」
「おっおう。急にどうしたのかね」
「いえ、今こうしてたくさんの方に会い、幸せに生きてこれたのはブルース様のおかげです。感謝してもしきれないほどです」
ブルースは席をたち、セラの額に手を当てる。
「熱でもあるんじゃないか?」
ブルースは自分の額にも手を当てながら言う。セラはこの瞬間。いままで夢の中でやってみたいと思っていたが、恥ずかしくて実行できなかったことをやろうと思った。それは・・・・・・
「ブルース様、少しご無礼を働いてもよろしいでしょうか」
「ん?なにかね」
セラはブルースのガタイの良い体に抱き着く。顔をおなかにうずめて言う。
「お父さん・・・・・・」
夕方になり、セラはエミリーの部屋へ。エミリーはフカフカなベットの上で毛布をかぶりうずくまっていた。
「セラ?・・・・・・」
「左様です」
エミリーの部屋のカーテンを閉め、床に落ちている物を片付ける。
「よく眠れましたか?体調の方はどうですか?」
「うん。オリビアの夢を見てたの・・・・・・」
鼻をすする音。布団の下でも彼女はまだ泣いているのだろうか。
「みんなに、心配かけてごめんね・・・・・・」
「別に謝る必要はないですよ。私がもしお嬢様の立場だったら、むしろ泣けないかもしれません」
「どうして?」
エミリーは布団からひょこっと顔をだす。
「私は甘えさせてもらった経験をしたことがありません。売りに出されていた頃、泣いていたらうるさいと怒鳴られましたし、笑うものが全くない環境で過ごしてきましたから・・・・・・今でも感情を出すのは苦手です」
「・・・・・・」
私は何度も繰り返したこの夢を思い出す。私という性格は荒みかけていたが、それでも正気を失わずに入れたのはエミリーのおかげでもあった。今、やっとこの場所で普通の少女になり始めている。
「それに比べて、お嬢様はうらやましいです。愛してくれるお父様がいて、それに協力してくれるもの達がいる。お嬢様が、泣きたいように泣き、笑いたい時に笑う。それを見て屋敷の者たちは気分が変わる。まるでお嬢様はお日様のようですね」
「そう?」
セラはベットに腰掛け、エミリーの頭に手をのせ、くしゃくしゃと撫でる。
「オリビアはきっとどこかで元気に暮らしています。もしかしたら、市場にいた愛しの猫と駆け落ちしたのかもしれません」
「えっ?うふふっそれって冗談でしょ」
「ええ、冗談です。でも可能性はあります」
エミリーはガバッと布団から飛び起き、セラの横にぼふんっと座る。
「そうね。いつか子どもを連れて帰ってくるかもね!それまで私も元気にしてなくちゃ!」
「えぇ」
「私はみんなの太陽ぉ~!」
あはははっと二人は笑い、ベットに寝転がる。セラはぎゅっとエミリーを抱きしめ、守りつづけたいと願った。
だがそれは叶わない。でも私が彼女を覚えている。この屋敷が存在していたことを永遠に忘れない。忘れるものか。
「よう。準備はできたかお嬢ちゃん」
「お嬢ちゃんはやめてください。セラでいいです」
ニワタリはロビーでゆったりとソファーに座っていた。ニワタリの服がまた濡れている。きっとロン達を追い払ってきてくれたのだろう。
「てっきり、もっと時間がかかると思って余計なことしちまったな~」
「ありがとうございます。でも、やり残したことはありません」
「そうか。それじゃ、やるか」
ニワタリはリボルバーに例の銀色の弾を込める。カチッカチッと発射に向けての準備が整っていく。
「痛い・・・・・ですか?」
「それはわからねぇ。自分で撃ったことないからな」
「あなたは一体どうなるのです?」
「夢の中心であるセラが消えることで、この夢、空間は崩壊する。そんで俺は強制的に現世に戻される。まぁ、もし変なところに追い出されたとしてもこの銃で現世まで戻ってこれるから心配することないさ」
ニワタリは右腕を伸ばし、セラの頭へ向ける。セラは手をぎゅっと握る。銃を向けられてよかった記憶はない。だけど、それとは違う緊張、不安。これから私はどうなってしまうのか分からないという緊張だった。
「さぁセラ。目覚めの時間だ」
ニワタリは銃のトリガーを引く。
バキィィン!とまばゆい光と同時に一筋の光がセラの頭へ伸びてくる。その光はセラの頭を貫いた。
「ハッ!」
セラは目を覚ます。しかし、目の覚ました場所は、ロビーでも休憩室のソファでもなく、自分の部屋でもなかった。
ただ、真っ暗で冷たい風が流れている空間。不思議と自分の姿と目の前で不気味にうごめいている物体ははっきりと見える。セラは体を起こし、自分の体にはなにも異常がないことを確認する。
「ニワタリ!」
ニワタリもこの場所におらず、どうやら私だけがここにいるようだ。もしかして失敗した?それとも、私はあの男に騙された?セラは恐怖を感じ始めた。すると奥でうごめいている物体が体の向きを変えこちらを向いた。体からは無数の触手が伸びていて、数えるは不可能。
「ついに・・・・・・壊されてしまったか。実に心地よい夢だったのに・・・・・・」
その物体はセラにずるずると体を引きずるように近づく。
「セラよ・・・・・・本当によいのか?現実にはつらいことばかりだ」
「くっ!」
しまった。足元には奴の触手が伸びてきていてロングスカートごと縛られてしまった。これでは下がることは出来ない。
「やめなさい!あなたは一体!」
「我はバク・・・・・・夢を与えしもの」
「!」
ニワタリから聞いた名前だ。まずい、このまま捕まっていて良いことは絶対にない。セラは足に巻き付いた触手をちぎろうとする。しかし、それをやめさせるように新たな触手がセラの腕をつかむ。
「離しなさいっ!」
「なぜ、目を覚まそうとする?そうか・・・・・・現実のことを知らないのだな・・・・・・ならばおしえてやろう」
バクという化け物はセラの体を浮かせ、自分の方へ近づける。
「うう!」
「エミリーは死んだ。バーバラも死んだ。ブルースも。あのメイドたちもひどい心の傷を負った。屋敷は焼け、二度とあそこに誰も近寄らないのだ・・・・・・お前を救えるものは我以外におらぬ!」
バクはセラの首に触手を回し、ぎりぎりと締め上げ始める。
「やめ・・・・・・て」
「夢が気に入らなかったか・・・・・・ならば、契約し直そう。屋敷は襲われず、エミリー、ブルース、バーバラは死なない世界にしよう。ついでにダンテという男がエミリーと結婚する世界にしておこう。時間は無制限だ。君が望む楽しい時間を私が提供してあげよう・・・・・・どうだ?」
それもいいかもしれない、という思考がセラの頭を横切る。ニワタリは頑なに言わないが、きっと私が帰るところには私の愛したものは何もないのだろう。私が住んでいた屋敷は無くなり、愛した人達も死んでいる。それは殺されたこともあるが、たとえ生きていたとしても寿命という問題で死んでいるのだろう。時代はかわり、きっと私は時代に取り残される。なら私はどこに行けばいい。どこで生きればいい。それなら・・・・・・いっそ。
「よろしい、ならば契約をしよう。ここに血を・・・・・・」
バクは触手まみれの体の中から、細くなった手を伸ばす。人間の手だ。
「でも・・・・・・でも・・・・・・」
セラは抵抗する。妥協してしまいそうな弱い自分を何度もたたき直す。夢でしかない。それは、死んでしまったみんなを冒涜することになるはずだ。私だけが良い思いをするのは違うはずだ。
「はやくするのだ!」
「あ・・・・・・う」
さらに首に巻き付いた触手がきつくなる。このままでは死んでしまう。だけど、私は何度も人を殺した・・・・・・助けてなんて言葉は死んでも言えない。
セラは、意識が遠のいていくのを感じた。このまま首を絞められて死ぬのだと。
すると、化け物の背後からまばゆい光が差し込んでくる。
パァン!
その銃声はこの暗い空間を振動させ、化け物の触手を引っ込ませた。
「きゃっ!」
セラはその場に落とされる。
「ぐぁぁぁ!眩しい!痛いぃぃ!」
バクはうなり声をあげる。さっきの銃弾はバクの背中に命中したようだ。
「すまねぇが、触手プレイはすきじゃねえんだわ!」
「ニワタリ・・・・・・」
光が差す方向に着物を着た男が立っていた。リボルバーを構えている彼の足元には一匹の白い猫がいた。
「セラ!こっちに来るんだ!」
「!」
セラは、ニワタリがいる光の元へ駆け出した。
「いくな!あと少しで・・・・・・私は・・・・・・」
パァン! バクの言葉を遮るように、ニワタリは銃を撃つ。
「ぎゃぁぁぁぁ痛い、痛い!」
バクは触手を伸ばし、セラを捕まえようとする。
「はぁっ!はあっ!嫌あ!」
「そうはさせない!」
パァン!パァン!
「ぐぉぉ!」
ニワタリの目にも止まらぬ連射で、セラに近づく触手は粉々に砕かれていく。
セラはついに、光の元へたどり着き、ニワタリの体にしがみつく。
「まてぇ!」
後ろからバクの声が聞こえる。ニワタリと猫とセラは、光の隙間に入り込む。
全員が入り込むと隙間は閉じ、バクの声は聞こえなくなった。
「はぁはぁ・・・・・・」
真っ白で何もない空間でセラは座り込み、息を整える。。
「あれが、バク・・・・・・」
「あぁ、あぶないところだった。だけど間に合ってよかったよ、この子のおかげだ」
「オリビア?・・・・・・いや、違う」
猫はセラ達のいるところから、遠く離れていく。段々とその姿は人の形となり少女の姿となる。屋敷にいた少女の姿に。少女は振り返り、セラを見る。
「・・・・・・お嬢様」
「頑張ったねセラ」
「お嬢様!」
セラはエミリーに近づこうと立ち上がる。
「セラ駄目よ!こっちに来ては」
「!」
セラは足を止める。
「残念だけど、私はもう長くはここにいられないの」
「お嬢様・・・・・・」
「そんな悲しそうな顔をしないで」
エミリーは笑顔で、目から涙がこぼれているセラに話しかけた。
「ずっと見ていたよ、セラが私たちのために一生懸命頑張っていてくれたのを。なんでかオリビアの体になっちゃってたけど、それでも、セラが苦しそうにしていた時は、私がセラのお日様になってあげようと思って頑張ってたんだよ!うふふっ」
エミリーは後ろで手を組み、体を前後に揺らしながらさらに後ずさる。
「前に、セラは私のことをお日様って言ってくれたよね」
「えぇ・・・・・・」
「それなら、セラはみんなが眠っているのを優しく見守ってあげるお月様だよねって思うの。誰かがつらい思いをしているなら、静かにその話を聞いてあげて、暗い道で怖がっている人に安心を与えてあげる。今のセラにぴったりだと思うの」
エミリーの体は光に包まれ始め、足元が見えなくなり始める。
「嫌ですお嬢様!お願いです、私を一人にしないでください!」
「セラは一人じゃないよ。みんなで優しく見守っていてあげる!お日様の私とお月様のセラ。うふふっ!なんだがロマンチックじゃない!?」
「お嬢様!」
「ありがとうセラ。私を大切に思ってくれて・・・・・・」
エミリーの体が光の粒となって完全に消えてしまったのと同時に、この光の空間は消え、セラとニワタリは現実へ飛ばされていった。
「~年に起こった襲撃事件のあと、当時の村の住民とエミリーを愛していたダンテがこの屋敷を立て直したのです。その後ダンテはブルースの意思を継ぎ~」
セラはロビーに置いてあるソファーの上に寝ていた。その前にはロープが張ってあり、張り紙には、手を触れないでくださいという文字が書かれてあった。
「ちょっと、お嬢さん!このソファーは使っちゃだめだよ!」
警備員だろうか、セラの体を揺らす。セラは体を揺らされ目を覚ます。
「あれ?ここは・・・・・・」
「大事な展示品のソファーだよ!メイドさん。さあどきな」
状況は読み込めず、セラはソファーから立ち上がる。その時にやっとセラは周りに大勢の人がいることに気づく。
「メイドさんだ~」
幼い少女がセラを指さし、うれしそうに跳ねる。
「こらやめなさい」
「さっき見た当時のメイド服そっくりだ。完成度たか!」
「写真撮らせてもらってもいいですか!」
「えっえと・・・・・・」
見たことのない服装の人たち。そして小型のカメラだろうか?パシャパシャと音が鳴っている。周りを見る。屋敷の造りは同じだが、老朽化が進んでいるようで、天井には少しヒビがある。バーバラが生けていた花瓶もなく、ブルースがコレクションしていた絵もない。
「ソーリ、ソーリ」
どこかで聞いたことのある声がした。小さなカメラを持った男たちをかき分け、あの着物を着た男が出てきた。
「ニワタリ!」
ニワタリは手をくぃくぃっと招き、セラはそれについていく。
「ねぇ、ニワタリ。これは一体どいう状況?」
人気のいない物陰にセラとニワタリは来ていた。ニワタリは返事をせず、セラに青い携帯電話を渡す。ちなみにガラケー。
ニワタリも自分の黒い携帯を耳に当てる。セラが戸惑っていたため、ニワタリはこうするのだマネをしろという感じで腕をグイっと動かす。
「あ~もしもし」
「これは何ですか?」
「悪いなセラ。俺は日本語以外は話せないんだ」
「ん?」
セラは携帯から耳を離し、直接ニワタリに言う。
「わざわざ、これを通して会話する意味はありますか?」
ニワタリはおどおどとし、もう一度耳につけろという仕草をする。
「それに、さっきまで普通に話してたじゃないですか!」
「おう・・・・・・おう・・・・・・」
ニワタリから返事がもらえないため、しぶしぶ携帯を元の位置に戻した。
「悪い、説明がまだだったな。異空間では言葉という概念はない。あの夢の中ではセラが使用している言語で統一され、俺も言葉が通じるようになる」
「そうなのね」
「ちなみに、今会話出来ているのはこの携帯に翻訳機能が付いているからだ」
「携帯・・・・・・。ニワタリ、私の知らないものや服がいっぱいだわ。それに、なんで屋敷があるの?」
「君にとっては最近のことのように感じるかもしれないが、現実世界では約110年前の話だ。事件のあと、爆発に気づいた町の人々が駆け付け、消火活動と人命救助をしたらしい。食事に誘われていたダンテっていう人も数時間後に駆け付けたらしい。そこで、エミリーちゃんとブルースさんの亡骸を見て泣いたそうだ」
「110年前・・・・・・」
そんなにも長い間、私は夢にいたのか。
「だけど、キャミイちゃんとモルガンちゃんは命に別状はなかった。運よく爆破に巻き込まれなかったそうだ。まぁ、モルガンちゃんが爆弾を投げさえしなければそもそも屋敷に火はつかなかったんだけどね。ダンテは残ったメイドとブルースさんを慕う町の人たちと協力して、またここに屋敷を立てたってわけだ」
「キャミイさんとモルガンさんは生きていたのですね!」
「あぁ、仕事をしながら結婚して幸せに暮らしたそうだ」
「よかった・・・・・・」
「でだ。ダンテはブルースさんの意思をついで、新しく会社を立ち上げた。さすがに大富豪とまではいかなかったが、生活するのには困らない程度に成績はよかったらしい。貧しい村への寄付をたくさん行って、町の人々に感謝されながら亡くなった」
みんな前を向いて、たくましく生きていったのですね。
「さて、これからの話だが」
「はい」
「セラはどうする?俺は日本に帰るが、ついてくるか?強制はしない。だってここは夢の世界じゃないんだからな」
「そうですね・・・・・・」
セラは携帯を耳から外し音を拾わないように、手で覆う。そしてニワタリの目をまっすぐ見つめて言う。
「あなたとずっと一緒にいたいです」
「どうしたんだ?ぼーっとして」
「いえ、昔のことを思い出しまして」
セラはニワタリの屋敷で庭の花に水をやっている途中だった。屋敷といってもそんなブルースの屋敷のような豪華さではない。古くからある日本様式の一階建ての家で、木造。庭も芝生なんかではなく苔がいっぱいなイメージだ。走り回るほど大きくはないが、縄跳びや星を見るのには十分のスペースだ。
「疲れてるなら休憩しなよ。お嬢さん」
「だから、お嬢さんはやめてください。実際、私はあなたより年上なんですよ」
「それは言わないでくれ。悲しくなる」
この屋敷にも優しい雰囲気が流れる。ほほえましい二人の掛け合いを見守るかのようにお日様の優しい光が差し込んでいた。
何十年もの間、お嬢様を殺した悪人どもを殺し続けてきましたが、私の心は限界を迎えようとしています。 白い黒子 @shiroi_hokulo
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