第21話 変えられるのは自分だけ
翌日から、私は感謝と応援をテーマに自分の行動を見つめ直すことにした。感謝できることはないか、応援できることはないかと探してみた。
相変わらず、集められたプリントが乱雑におかれている。ところが、安田さんは自分の班のプリントを集め、きちんと角をそろえ、教卓に置いてくれたのだった。
思わず、「あっ、みんなの分を集めてくれてありがと!」と聞こえるか、聞こえないかのか細い声でつぶやいた。一瞬視線が重なると不思議そうな目でこちらを見て、自分の席へと戻っていった。
朝の読書の時間になっても座ろうとしない子どもたち。いつもなら怒鳴るところを、努めて穏やかに「朝の読書の時間ですよ」と声かけをしてみた。すると、田中くんが周囲の男子に「おい、座るぞ」と声をかけてくれているのが聞こえてきた。それで、「田中くん、声をかけてくれてありがとうね」と、今度はさっきより大きな声で伝えた。彼も不思議そうな顔をしたあと、はにかむ笑顔を見せてくれた。
「なんか、今日の先生、変じゃない?」そんな声も聞こえてきた。今は変で結構。でもね、いつかこれが普通になったらいいと思う。
愛されたければ、愛すればいい。
大切にされたければ、大切にすればいい。
応援されたければ、応援すればいい。
世の中は鏡のようなものだから。ようやく私は、一人前の先生になるための道を歩み始めたのだと感じた。
子どもたちの素敵なところを見つけるたびに感謝を伝えた。がんばっている子どもたちを見かけるたびに、応援した。すると、不思議なことが起こった。
子どもたちの素敵なところやがんばっているところばかりが目に入ってくるのだ。以前の私は、子どもたちの足りないところにばかり目を奪われていた。不思議なものだ。
すると、子どもたちの様子も変わってきた。「先生、手伝いましょうか?」と言ってくれる子が現れたので。それも、一人や二人じゃない。互いに声をかけ合う姿も見られた。もちろん、急には変わらないけれど、少しずつ水面に波紋が広がるように、伝わってきているのを感じた。
「教室の空気が変わりましたね」
ある日のこと、そう声をかけられて振り返ると、ハテンコー先生がいた。
「変えられるのは、いつだって自分だけです。子どもを変えようなんて傲慢です。いつだって、時代や子どもたちに合わせて、僕ら自身が変化や進化を遂げなければなりません。それを怠るとね、ガラパゴス諸島のガラパゴス先生になってしまいますよね」
私は黙って、あたたかい言葉に耳を傾けていた。
「あの…、ハテンコー先生。私、ハッピーな先生になれるでしょうか?」
思わず、ハテンコー先生と呼んでしまい、顔を赤らめてしまった。
「なれますよ。変えられるのは自分だけです。自分でそうありたいと願ったならば、必ずそうなるようにできています」
私は、胸の奥が熱くなるのを感じた。
「はい、がんばります!」
そう口にすると、満面の笑みで教室に足を踏み入れた。
ハテンコー先生の「子どもに愛される先生」になるための教員研修 くればやし ひろあき @hiroakikurebayashi
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