加藤恵はおとされたい(後編)

「行くぞ……?」


 倫也はちょっとだけ戸惑ったような顔をしながら、恵に確認する。

『めちゃくちゃにしてもいいんだな?』という意味を込めて。


「ん…………」


 恵はそれに対して、そんなの当たり前と言わんばかりにこくりとうなずいた。

 倫也はその返事にごくりと喉をならす。倫也は押さえつけていた恵の手首を放して、恵が着ているパーカーのファスナーをゆっくりと下ろしていく。先程のキスのやり取りですでに半分近くまで下りていたジッパーを全部下ろすのはあっという間だった。続いて、インナーで着ているキャミソールの裾を掴んでたくし上げていく。恵はそれに対して、特に抵抗することもなく、倫也の動きを待ち焦がれるような赤く染まった表情で見ているだけだった。

 ゆっくりとキャミソールが上がっていき、双丘のすそ野が現れ、頂点へと近づいていく。そして、布地がその頂点に僅かに引っかかって柔らかな胸が揺れる。


「んんっ……!」


 それによって胸を起点にしてぞくりと快感が全身に響き、思わず甘い声が漏れる。

 先程までのキスによって徹底的に倫也に弄ばれていたせいで、恵の胸の先端はすでに固く膨らんでいた。布地が擦れるといったそんなちょっとした刺激でさえも、恵の体は快感に包まれてしまう。


「あ……………………」

(脱がされてる……)


 そして、恵の柔らかな双丘が露わになり、空気のひんやりとした感じが肌を通して伝わってくる。その感覚が嫌でも胸が露わになっているという事実を突きつけてくるが、そんなに恥ずかしいとは思わなかった。服を脱がされているという恥ずかしさよりも、倫也にえっちなことをされる悦びの方が圧倒的に上だった。


「恵、服、押さえてて」

「う……ん…………」


 恵は倫也に言われるがまま、胸を弄って欲しいと言わんばかりに、たくし上げられたキャミソールがずり落ちてこないよう胸の上で押さえておく。

 倫也は、今度は手首を押さえつけるのではなく、両肘を恵の両脇の横に置くようにして、倫也は再び恵に覆いかぶさる。そして、倫也はそのまま恵の硬くなった乳首に吸い付いた。


「やあぁっ!!」


 急に襲いかかってくる快感に思わず大きな声が出てしまう。身体を反らすように大きくびくっと跳ねる。さっきまでのじんわりとした快楽とは全く別次元の強烈な快感に声が全く抑えられない。


「やぁ……んうっ…………ふあぁぁ……!」


 今までだって何度も身体を重ねている。乳首を吸われることだっていつものことだ。でも今日はさっきまでのキス責めのせいで、恵の感覚はいつもより一層敏感になっていた。だから、ほんの少し吸われただけでも全身に強い快感の電流が走るようになっていた。


「ああっ……!やぁ……んっ……!んふうぅぅ…………!」


 口に乳首を吸われたまま、舌先でコロコロと優しく転がされる。乳輪をなぞったり、乳頭の先端を突いてきたりと最初の一撃に比べて落ち着いた刺激ではあった。しかし、恵の口から嬌声を漏らさせるには十分な刺激だった。

 そして、この優しい愛撫は最初だけだった。


「はあぁ……んっ……!!ああんっ!!」


 倫也の舌愛撫は次第にギアを上げていく。乳首を強く吸い上げて口腔内に閉じ込め、固く尖らせた舌先で激しく縦横無尽にこねくり回す。強く弾く。

 硬く尖った乳首を何度も連続で強く弾かれると、ぞくぞくと快感が全身を駆け巡る。

 そして、乳首を甘噛みされる。


「ーーーーっ!!!」


 これが一番強烈だった。乳首を摘まれるのとは異なり、吸い上げられながらに乳首を甘噛みされる刺激はあまりにも強烈だった。恵の身体がビクンっと跳ねるように仰け反り、思わず声の無い叫びが漏れる。

 さらに、空いていたもう片方の胸にも倫也の手が伸びる。


「んああうぅっ!!」


 親指と人差し指で硬くなった乳首を強くきゅっと摘まれ、襲い来る快感に体がまたびくっと震える。


「あっ……!やあぁっ…………はぁん……っ……!」


 掌全体で回し捏ねるように胸を揉まれながら、時折、乳首を指先で転がされ、きゅっと摘ままれる。まだ胸しか弄られていないのに、恵の体は絶頂に向かってどんどん追い詰められていく。

 事前のキス責めで随分と性感を昂ぶらされていたせいなのか、いつもよりも快感のレベルが高くて、ちょっと苦しいくらいだった。

 でもその苦しさは全然嫌じゃないかった。むしろ、すごく心地よかった。


 暫くして、倫也は手を止める。恵の体は強い快感の責めから開放されてくたっと脱力する。胸を責められていただけなのに恵の表情は緩みっぱなしで、口は半開きで目にも涙を浮かべていた。

 快楽により思考力の低下が止まらなくて、気持ちよくされたいという快楽への欲望がどんどんと侵食していく。


「恵、脱がすよ?」


 そう言って、恵の思考を読んだかのように、倫也は恵のショートパンツに手を伸ばした。


「ん…………」


 恵は了承の返事の代わりに倫也が脱がせやすいように自分から腰を上げた。

 倫也はショートパンツだけでなくそのまま下着も掴んでいたようで、服が臀部を通り抜けると同時に、自分の秘部がひんやりとした外気に触れ、顕になったことを認識させられる。

 そのひんやりとした感じ方はいつもと違っていた。秘部だけではなく、その周辺も広く濡れてるのを感じてしまう。

 それと同時に『うわ……』と倫也が驚いたように呟くのが聞こえる。何がとは言われなくても、感覚で理解してしまう。

 それに、見えてしまった。下着を脱がされる瞬間に、自分の下着と秘部の間に愛液の粘糸が繋がっていたのを。

 ここまで自分の秘部がここまで濡れてしまったことに恵の顔が羞恥で思わず熱くなる。

 そのまま足先まで脱がされたショートパンツと下着はベッドの脇に置かれる。

 そして、倫也は恵の両膝裏を掴んで両脚を大きく開かせる。

 否が応でも秘部が表に出てくることになる。恥ずかしい格好にまたさらに顔が熱くなる。

 でも、恵への羞恥責は止まらない。

 倫也は恵の両膝裏を持ったまま、恵の秘部に顔を近づけてくる。


(えっ…………う……そ…………!?)


 秘部が丸見えになっているこの体勢だけで恥ずかしいのに、さらにそれを間近で見られてしまう恥ずかしさは耐え難いものがあった。

 その距離は倫也の吐息が感じられるくらいで、その吐息が恵の秘部に触れて、恵の体がびくっと震える。

 倫也はその反応を見て、


「恵のここ、めちゃくちゃ濡れてて、すごく欲しそうにしてる」


 さらに倫也は恵の羞恥心を煽るように、愛液でドロドロに濡れた秘部の状況を詳細に伝えてくる。

 恵は恥ずかしさに耐えきれず、思わず倫也から熱くなった顔を逸らす。きゅっとキャミソールを掴む力を強める。


 れろぉ…………


「ああぁっ!!!」


 一瞬、意識が飛んでしまうのではないかと思うような快感が秘部を起点に全身を駆け巡る。

 倫也が恵の秘部を割れ目に沿って舐めあげていたからだ。目を逸して完全に無防備になっていた体は、その強烈な快感によって背筋を大きく反らせてしまう。


「やあっ、それっ、だめっ!」


 ひと舐めされるたびに、えも言われぬ快感が全身に響き、その強い快感にビクビクと体が震える。


「そこっ…………汚いから、だめっ……ぇっ……!!」


 恵は倫也の頭を押さえて秘部から引きか剥がそうとする。しかし、舐められるたびに快感が恵を襲い、抵抗する力を奪っていって、全く引き剥がすことができない。

 濡れに濡れた恵の秘部を倫也が舐めるたびに、部屋中にぴちゃぴちゃと淫靡な水音が響く。特にひと舐めの最後に陰核を舐め上げられるのが特に気持ち良くて、それだけで、目の奥がチカチカと明滅する。

 そして、次第に恥ずかしいという感覚は薄れていき、その快感をさらに求めるようになっていく。


 ちゅっ……ちゅ……ちゅうっ……

「ああっ!!んううっ!!ううんっ!!」


 倫也は陰核を触ったときの恵の反応がいいことに気がついたようで、そこを重点的に責めてくる。

 倫也が恵の陰核を吸い上げるようにちゅっと音を立てながら一定のリズムで吸い上げる。そのリズムと違わぬリズムで恵の体もビクビクと跳ねる。最初に舐められたときの程の快感ではないにしろ、それでも強い快感に、悲鳴のような嬌声が出てしまう。そして、どんどん恵の官能が高まっていく。どんどん絶頂に向かって追い詰められていくのがわかる。

 まだ倫也の陰茎が挿入されてもいないのに、すぐにでもイってしまいそうだった。


 しばらくして、倫也は恵の秘部から一度顔を離す。

 ようやく快楽から開放されたと思ったのも束の間、倫也は両手で恵の秘部の上部を押さえ、ゆっくりと恵の陰核の包皮を剥いてくる。


「ひっ…………!」


 陰核を剥いたときの刺激と外気に晒されたことによる刺激で思わず声が出てしまう。そして、倫也は剥き出しになった恵の陰核に舌を出したままゆっくりと顔を近づける。


「だっ、だめっ!!」


 恵はこれ以上の刺激はまずいと判断する。顕わになってしまうだけでも刺激を感じてしまうのに、そんな危険なところを倫也は責めようとしてくる、今まで以上の刺激が来ることに少し恐怖を感じてしまう。

 でも、それと同時に期待感もあった。そんなところを責められてどこまで気持ちよくなってしまうのかという肉欲があった。

 だから、否定の言葉を上げるだけで、身体は全く動かず倫也が近づいてくるのを見ているだけだった。


 はむ……


「ああぁぁぁっっ!!」


 剥き出しになった陰核を唇で包まれ、強烈過ぎる刺激が全身を駆けた。快感に耐えられず腰が大きく跳ねて身震いする。


「だめっ、……それ……ぇ…………だっ、め……んうっ!!」


 その上で、倫也は恵の一番弱い場所を舌先でコロコロと転がしてくる。


「ああっ!くあぁっ……!んぅうっ!!……あああっ!!」


 優しく軽く触れるだけの強さでゆっくりと陰核を舐められる。そんなに激しくされていないはずなのに、恵の身体は初めて陰核を舐められる刺激に、襲い来る快感によって、絶頂に向かって一気に引っ張られていくようだった。その刺激に耐えることなんて全くできなかった。


「ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁっっ…………!!」


 ビクッ、ビクッ、と身体を激しく震わせ、身体を反らせながら恵は絶頂を迎えた。いつもよりもずっと強烈な絶頂で、恵に襲いかかる快感の強さも、その時間の長さも違っていた。何度も痙攣で身体を跳ねさせたあとは絶頂後の激しい疲労感でぐったりとするしかなかった。そんな状態がしばらく続いてようやく体が落ち着いてきて、息を整えようとする。


 ちゅ……


「ひゃぁんっ!」


 恵はまたしても強烈な快感に襲われる。

 恵が快感の発生源に目を向けると、倫也が再び恵の陰核に吸い付いていた。絶頂を迎えたばかりで過敏になっている恵の身体にその刺激は強過ぎて、苦痛に近いぐらいだった。

 でも、倫也は全く容赦しない。先程よりもさらに強く陰核を責めようと、唇で吸い上げてくる。


「やだっ……あっ!!……んんっ!!だめっ、それっ、だめっ!!」


 陰核を吸い上げられるだけで、十分にさっきより激しい責めなのに、倫也はそれ以上の行為をしてくる。固く尖らせた舌先で、さっきよりも速い速度で陰核を蹂躙される。縦横無尽に陰核をひたすらに転がされまくった。


「だめっ……!!ああぁっ!!…………んああああっ!!!」


 恵を気持ちよくさせるというよりも、恵をイカせたい、めちゃくちゃしたいといったのが伝わってくるようだった。そんな強烈な刺激に敏感になっている恵の体が耐えられるわけがない。

 凄く気持ちいいのが凄く苦しくて、苦しいのに腰が跳ねてしまう。それによって体が弓なりになり、逃げたいはずなのに逆に倫也に秘部を押し付ける形になってしまう。


「ああああああああぁぁぁぁぁっっっ!!!!」


 倫也が再び恵を責め始めて、絶頂を迎えるまではあっという間だった。

 先程よりも長く激しい痙攣が続き、絶頂の高みからなかなか戻ってくることができない。意識が飛んでしまいそうなくらいの全身を襲う絶頂の快感に悶えながら、荒い呼吸でなんとか酸素を取り込み、必死に身体を落ち着かせようとする。激しい連続絶頂によって全身に力が入らずベッドと一体となってしまうような感覚まで覚えたところで、呼吸が整い始めて意識が戻ってくる。

 そのときには足元にいたはずの倫也はいつの間にか恵の横にいて、愛玩動物を愛でるように恵の頭を優しく撫でていた。絶頂で意識がほとんど飛んでいるうちに倫也が移動していたようだった。


「ひどいよ……倫也くん。…………だめって、言ったのに」


 恵はたえだえの呼吸で倫也に睨むが、当の本人はその抗議を全く聞いていなさそうで、逆に苦しそうな恵を見てなんとなく満足そうな顔をしていた。


「だって言ったじゃん?『めちゃくちゃにされたい』って」

「言ったけどさぁ、もうちょっと、優しくしてくれても、いいんじゃないかなぁ?」


 恵は不満そうにむすっとした顔を浮かべながら、倫也に抗議の声を上げる。倫也はその言葉を聞いて一度きょとんとした顔をした後、意地の悪そうな笑顔を浮かべた。

 そして、また恵にキスをする。唇を重ねるだけの、ちゅっ、ちゅっと唇を啄むような優しいキス。


「んっ……ちょっ……とぉ……んはぁ……」


 再度の倫也の予想外のキスに、絶頂の余韻から動きが鈍っている恵にとって抵抗することなどできる訳がない。加えて、先程のキスを思い出して恵はまた体が熱くなる。

 さっきのような舌を強引に入れたりするディープキスではなく、唇に触れるだけのキス。倫也はそれを何度も何度も繰り返し、キスの雨を降らせていく。


「んっ……ふぅん…………」


 倫也はキスをしながらも、意地の悪そうな笑顔を崩さず、倫也は不機嫌になった子供をあやすようにずっと頭を撫でていた。

 そして、しばらくしてから唇を離すと、


「よし。じゃあ次は、もっと優しくめちゃくちゃにすればいいんだな?」

「…………は?」


 恵の言葉は倫也にとてつもなく都合のいいように曲解されていて、その曲解の仕方に思わず素っ頓狂な声が出てしまう。


「ちっ、違……っ、んんっ…………」


 そんなつもりなど毛頭ない恵は慌てて否定しようとするが、その前にまた倫也の唇で口を塞がれる。恵が抗議の声を上げようとしても、そんな隙を与えないようにと倫也は恵へ止めどなくキスをする。

 先ほどと同じように啄むようなキスを続けた後、また恵の口腔内に舌を侵入させてくる。


「んふぅ…………やぁ…………はぁ……ん……」


 さっきのキス責めと比較してそんなに激しくはなかったが、二度の絶頂で理性が飛びかけていた恵の頭を蕩けさせるには十分だった。そんなとろとろの状況の恵に倫也はもう一押しと、言葉責めを仕掛けてくる。


「恵の感じてるときの顔、すっごく可愛い」

「うぅっ…………」


 ちゅっと音を立てながら触れるだけのキスをしてくる。

 さっきまではあんなに簡単に聞き流せていた『上げる言葉』は、いとも簡単に恵の心を、体を崩していく。


「キスしてるときの顔もすごくかわいい」

「や、やめて……よぉ…………」


 もう一度キスをしてくる。

 恵の背筋からぞくぞくとした微弱電流が発生しそれが全身に回っていく。

 倫也の発する言葉に、倫也の恵を見つめる瞳によって、恵の体はぞくぞくさせられてしまっていた。


「その、『やめてよぉ』っていうのも、めちゃくちゃかわいい。……かわいくて、めちゃくちゃにされたいって顔してる」

「もぉ…………、それ……卑怯……」


 でも、そんなことを言いつつも、恵は自分自身が、自分の体がもっとめちゃくちゃにされたいと思っていることを感じていた。倫也の『上げる言葉』が恵の官能を刺激してきて、思わずドキドキさせられてしまう。

 頭を撫でていた手がそのまま頬に降りてきて、さらに触れるか触れないかのフェザータッチでゆっくりと首筋を撫でていく。


「っ…………んぅ…………!」


 触られた部分からまたぞくぞくと恵の愛欲を呼び覚ませるようなじんわりとした快感が全身を巡る。さらには下腹部を起点に熱が身体中に広まっていき、あれほど激しい絶頂を二度も経験したばかりなのに、体はまたそれを感じたくてどんどんと熱くなっていく。


「やぁ……っ……」


 倫也は恵の弱い部分を見透かしているようで、キスとわずかな愛撫だけでも恵の体は簡単に出来上がってしまっていた。

 初めてえっちをしてから僅かひと月で、いつの間にか恵の方ばかり、一方的に弱いところを見つけられてしまっていた。しかも、えっちするたびにどこが弱いか見つけられてしまう。それはなんとなく悔しく感じていたが、でも、弱いところを責められると快感に流されてしまって、倫也の弱いところを探す余裕なんて全くない。結局ひたすら倫也に体を弄くり回されて終わるのがいつものことだった。


 そして、倫也は恵から手を離す。

 キスや頭を撫でるといった優しい愛撫によって、すでに恵の身体は再び熱くなってきていた。倫也にまためちゃくちゃにされたいと思わされてしまっていた。


「恵、四つん這いになって」

「ん…………」


 倫也に言われるがままに恵は四つん這いになり、倫也は恵の後ろに回り込む。もうすでに二回もイカされている恵は手をついて体を支えるのは体力的に苦しくて、前腕で体を支える体勢になった。

 動物のように倫也に向ってお尻を突き出すという姿勢に恥ずかしいという思いは全くなく、熱くなった体は気持ちよくされることを渇望していた。

 それを表すように、


「すごく濡れてる」


 倫也は恵の割れ目をゆっくりとなぞる。それによってくちゅっ、と粘つく卑猥な水音が響く。


「んんっ……!」


 触られたところを起点にぞくぞくとした快感が全身に伝わっていき、思わず腰が震える。恵はその刺激に眉根を寄せ、目を細めて、切なそうな表情を浮かべる。


 くちゅっ…………くちゃっ…………

「あっ……はぁ……ん…………っ…………!」


 倫也は焦らすように指先だけで入り口付近ばかりをなぞってくる。あまり奥には入れず、恵の秘部が濡れていることを、恵の身体が倫也を求めていることを恵にわからせるようにわざとらしく音を立てる。

 何度も割れ目をなぞられたあと、愛液で濡れた指で陰核を指の腹で優しく撫でられる。


「はあぁぁ…………っ……、んうぅぅっ…………!」


 緩やかな快感から急な快感へのギアチェンジにびくびくと腰が跳ねて、背中を反らせてしまう。それでも、さっきまで強烈な責めとは違って、心地よい程度の快感にちょっとだけ倫也の優しさを感じてしまう。

 そんな倫也の優しい愛撫に新たな愛液が生成されて溢れ出てきており、溢れた愛液は早く入れて欲しいと言わんばかりに内股を伝って垂れてくる。


「恵、入れるよ」

「う、ん……」


 ようやく倫也の肉棒が挿入される瞬間が訪れるという期待感で、恵は秘部が熱くなるような感覚を覚える。

 そして、倫也は左手で恵の腰を掴みながら、右手で自身の陰茎を支えて、恵の秘部に先端を当てる。


 くちゅっ……

「ひ…………っ………………」


 粘着性のある水音が聞こえ、それと同時に倫也の肉茎の熱さが秘部を通して恵に伝わり、ぞくりと快感が背筋を駆ける。

 そして、倫也の肉茎はゆっくりと恵の膣中へと侵入していく。


「ああぁっ…………くぅ……んああっ……!」


 ゆっくりと、だが確実に倫也の肉槍が恵の膣肉を押し広げながら入って来る。肉槍が恵の膣壁を擦ることで、新たな快感となって恵を襲い、思わず恵の頭は真っ白になって腰が震えてしまう。


(何だかいつもより…………大きい……?)


 恵の膣内に侵入してくる倫也の肉茎はなぜかいつもよりも大きく感じられて、恵の膣壁が擦られる快感もより強く感じていた。


「ふうぅぅっっ……んっ!く……はぁぁぁ……っ!!」


 その快感で恵の頭の中はまた真っ白になる。目の前にあった枕をぎゅっと抱くようにして、襲い来る快感に必死に抗う。まだ、入れたばかりなのにそれだけでイってしまいそうになるのを必死に堪えていた。


「ふ……ぅ…………奥まで、入ったぞ……」

「う…………んんっ……!!」


 数秒をかけて倫也の肉槍は恵の膣肉に包み込まれた。びくびくと恵の身体が震えるたびにきゅうきゅうと膣肉が肉を締め上げる。そして、そんな肉槍を締め上げた状態で倫也はゆっくりとピストン運動を開始する。


 ぐちゅっ…………ずちゅっ…………にちゅっ…………ぐぢゅっ…………

「あああぁぁっっ…………!!んくううぅぅ…………!!あああっ…………!!んふああっ…………!!」


 溢れる愛液が潤滑液となって陰茎と膣肉が絡まり卑猥な水音が部屋に響く。腰を掴まれているせいで一回のストロークで膣の奥深くまで突かれることになり、子宮口に肉茎の先端が当たり、その衝撃が全身に快感となって響く。


「ああっ……!!んんっ…………!!ふああぁぁっ!!」


 膨張した肉棒が出し入れされるたびに恵の口から甘美の声が漏れ、同時に全身に快感という名の電流が走る。特にゆっくりと引き抜かれるのが気持ち良くて。ごりごりとカリ首で膣壁を擦られるのがすごく気持ちいい。しかも、


「やあぁ…………、うあぁっ、なに……これ……ぇ!?」


 倫也は一突きごとに恵の気持ちいいところを探るように微妙に腰の位置をずらしてくる。恵を襲う快感の質も量もランダムで、毎回違った快楽が恵を襲っていた。

 そして、気持ちよくなっているのは恵だけじゃなかった。


「う…………く……ぁ……」


 背後から倫也の呻くような声が聞こえてくる。それは苦しさからではなく恵と同じように襲い掛かる快楽に耐えているように聞こえた。


(倫也くんも、気持ち良さそう…………)


 後背位で突かれているため、倫也の表情など全く見えない。でも、倫也のその気持ち良さで漏れる声を聞いて恵は嬉しくなってしまう。

 本当は恵だって倫也をもっと気持ちよくさせたい。でも、倫也を気持ちよくさせるような動きをする余裕なんて微塵もなかった。

 それに加えて、


「ここ……、かな?」

「ひうぅっっ!!」


 しばらく何度も突き込んでくるうちに、倫也は恵の弱い部分を探り当てていて、そこを徹底的に突いてくる。


「やぁあっ……!!そこっ……だめっ…………んふぅうっ…………!!」


 そうやって、恵の方だけが絶頂への高みにどんどん追い詰められていく。容赦なく襲い来る強烈な快感にどんどん力が抜けていき、次第に前腕だけでは体を支えられなくて、抱いていた枕に頭を擦り付けるようになる。

 さらに、倫也は恵に覆いかぶさるように体勢を変えて、腹部に手を回す。そして、その手をゆっくりと撫でまわすように胸へと伸ばしていった。

 そうやって撫でられるだけなのに、これまでとは別の部分を倫也に触れられた、さらには敏感な部分に近づいているという刺激だけで、また新たな快感として恵を襲う。


「んふううっ……、ひあぁぁっ……やああっ…………かはっ…………!」


 そして、その手はあっという間に胸に到達し、恵の胸柔肉を優しく、だがしっかりと快感を与えるように捏ねるように揉みほぐす。膣肉を擦られるだけでも十分に強烈だったのに、そこに胸への愛撫が加わることで恵の絶頂感がさらに高まっていく。


「ふああぁぁっ!だっ、めぇ…………!それ、良すぎて……ぇっ……!」


 そして、倫也の責めは容赦なくさらに激しくなる。覆い被さるようになったことで、恵の頭のすぐ上に倫也の頭がある状態になっていて、その位置関係でひと突き毎に、耳元で優しく言い聞かせるように囁く。


「恵、好きだ」

「んあああっ!」


 甘い言葉を耳元で囁き、その上でズンッと一気に膣奥まで肉槍を叩き込んでくる。恵はその一連の責めに悲鳴に近いような嬌声を上げる。


「恵の気持ちよくなってるときの声がかわいい」

「やぁああっっ!」


 恵への責めはそれだけでは済まなかった。倫也は腰を掴んでいたもう片方の手を恵の下腹部にゆっくりと撫でるように伸ばしていく。そして、恵の身体の一番敏感な場所である陰核に指を這わせ、指の腹で優しく撫でる。


「世界一、かわいい」

「あああぁぁっっ!」


 膣奥を突かれ、胸を揉みしだかれ、陰核を撫でられ、言葉で蕩けさせられ、恵の身体はあらゆる方法で快楽を与え続けられる。それはあまりにも気持ち良すぎて、身体だけでなく頭もぐちゃぐちゃにされていく。


 ぐじゅっ、ずじゅっ、ずちゅっ、じゅぷっ、

「ああんっ!ふううぅんっ!ああっ!やあああっ!!」


 大好きな倫也に気持ちよくされながら、『世界一かわいい』などという甘言で恵の体は気持ちよさとともにどんどん幸せに包まれていく。

 そのせいで漏れる嬌声がさらに大きく、甲高くなっていった。


「俺の世界一かわいい

 メインヒロインだから」

「あああぁぁぁっ…………あっ……あぁ…………!」


 そして、倫也は仕上げと言わんばかりに、ぎりぎりまで肉槍を恵の膣肉からぎりぎりまで引き抜き、


「だから、

 かわいく、

 気持ちよく、

 激しく、イって」


 そう言って恵の陰核と乳首を同時にきゅっ、と摘まみながら、強く腰を恵に打ち付け、肉槍を恵の奥底に突き込んだ。


「んんうあああああああああああぁぁぁぁぁっ!!!!!」


 ものの見事に、倫也に手のひらの上で転がされるように恵は絶頂を迎えさせられた。大きな嬌声を上げながら、弓なりに背筋を激しく反らせながらびくっびくっと身体を震わせる。恵は精神が焼き付いてしまいそうなほどの、全身を駆け回る絶頂の快感に必死に耐えていた。

 そうやって、恵が絶頂に震え続けている間も倫也は乳首を、陰核を指先で転がし続ける。肉槍も打ち込み続ける。快楽から逃さないように、絶頂から降りてこられないように、本気で恵をめちゃくちゃにしようとする意思が伝わってくるようだった。


「ああぅ…………ん…………ふ……ぅ…………」


 そして、恵が何度も何度も激しく腰を震わせた後、ようやく絶頂の快感から解放されることができた。もう身体を支えるのも億劫で、腕からも力が抜けてしまって、上半身をベッドに投げ出すように倒れ込む。絶頂後の極度の疲労感から何も考えることができず、ただ必死に呼吸をすることしかできなかった。

 でも、下半身は膝を立ててお尻を倫也に突き出したままだった。それは、倫也が恵の腰を掴んで離さなかったからだ。

 倫也はやっぱりやめてくれなくて、恵の絶頂による痙攣が収まると、また倫也はピストン運動を再開する。


 ずちゅうぅっ…………ぐちゅぅっ…………

「んうぅぅっ……もう…………やぁ……っ…………」


 先ほどと同じようにゆっくりと、恵の弱い部分を責めてくる。恵を再び絶頂へと誘おうとする。

 もうすでに三回も絶頂を迎えさせられて恵の体力もほぼ限界に近かった。

 一回の行為で何度もイかされたことはあっても、それはもっとゆっくりと、こんなに激しい絶頂ではなかった。今回のように短時間でしかもここまで強烈な絶頂を何度も迎えさせられるのは経験がなくて、体への負担は想像以上だった。

 めちゃくちゃにされたいと言ったのは恵自身で、実際にこうやってめちゃめちゃくされること自体も、別に全然嫌じゃなかった。むしろ、心まで蕩けてしまうほどの快楽に満足していた。

 ……でも、心の片隅ではあるモヤモヤが溜まっていた。


「やだ……ぁ…………んあああぁっ……!!」

「っ…………」


 その恵の苦しそうな拒絶の声に、はっ、と倫也の動きが止まる。そして、心配そうに恵に声をかけた。


「ご、ごめん、恵……、苦しいなら、もうやめとく?」

「やだぁ……やめない……でぇ」

「えっ…………」


 恵の言葉が予想外だったようで、倫也から驚いたような声が出た。


「違っ……うぅ…………わたしばっかり……イって、ともや、くぅ……んが、全然イってないの……やだぁ……ぅ……!」

「恵……」

「倫也くんにも、イって欲しいの……ぉ」


 倫也がまだ一度もイってない。めちゃくちゃにされたいと言ったけど、やっぱり自分だけ気持ち良くさせられるのは嫌だった。自分だけが気持ち良くされてばかりで、恵はそれが心苦しかった。何とかしたかった。倫也をイかせられなくても、少しでも気持ちよくなってほしかった。だから恵は重く気だるい身体に鞭打って、体を捻らせて背後にいる倫也の方に顔を向ける。


「お願い……キスして……、……倫也くんとキスしながら……したい」


 いつも、えっちするときは倫也にされるばかりで、倫也がどうすれば気持ちよくなるのかはよくわかってない。しかも、後背位という今の体勢ではできることはほとんどない。

 それでも、倫也に少しでも気持ち良くなって欲しくて。恵が知っている、倫也を気持ちよくさせる数少ない方法のひとつ。

 それは、倫也とのキス。

 倫也もそれを受け入れるように、顔を近づけてくる。そして、二人の唇が重なり、お互いを求めるように舌を伸ばす。


「んっ……、はあぁ…………ちゅ……ぅ、とも、や……くん…………す、きぃ…………んはぁ…………っ……」

「はっ…………う、ぁ…………めぐみ…………っう…………」


 お互いの舌を激しく絡め合わせるわけではなかった。無理な体勢をしているために、思ったように舌を絡めることができず、唇を重ねて舌を触れ合う程度のキスだった。

 でも、お互いの舌が触れ合う度に、恵の膣中に刺さった倫也の肉棒がびくびくと反応しているのがはっきりと感じられた。


「あは……ぁ、倫也くん、中で、びくっ……てぇ、……んむぅ……して、んふぅ……」

「くぅっ……、あっ……ぅ……!」


 それが嬉しくて、思わず口元が緩んでしまう。もっと激しくキスをしたいと思ってしまう。


 ちゅぷ…………んちゅ…………ふ……ぅん…………


 唾液が絡み合う音が頭の中に再び響く。それに合わせて倫也の肉が震えて、そして大きくなっていくのを感じる。


「倫也、くん……、わたしの、中で……ぇ…………んぅぅ……おっきく、なってる……ぅふん…………」


 恵はそれが嬉しくて、自然と妖艶な笑みを浮かべ、ついそんなえっちな言葉を口にしてしまう。


「しょうが……ないだろ……、恵とのキスが……ぁ、気持ち……いいんだから」


 さっきまで余裕ぶっていたはずが倫也が、いつの間にか逆に追い詰められているような表情を浮かべていた。さらに、恵とのキスが気持ちいいとはっきりと言われて、恵の嬉しさが跳ね上がる。きゅうっと倫也の肉を締めつけた。


「うあっ……締めっ……っ!」


 倫也がその締め付けに、快楽に悶えていた。


「いい、よ、動いて……んぅ、もっと、気持ちよくなって……それで、わたしのこと、また、めちゃくちゃに、して……」


 恵がそう言うと、倫也は腰が再びゆっくりと動かし始めた。


 ぬちゅっ……ずちゅ…………ぐちゅ…………

「ああっ……んぅ……ちゅ……はあぁん……」


 倫也が動き始めるとその振動でうまくキスすることできなかった。ただ、ひたすら舌を触れ合わせるだけ。それでも、ざらざらとした舌同士が擦れる感覚が心地よく、頭が蕩けそうになる。

 さらに倫也の腰の動きが激しくなって、振動で口の位置をすら合わせることも難しくなり、口の端から自然と涎が溢れ落ちる。


「うぁっ…………くぅっ…………!」


 キスをしながら倫也からうめくような声が漏れる。膣中でときどきびくっびくっと倫也の肉棒が大きく跳ねる。それが恵の膣肉を刺激し、恵に快楽を強制的に与えていく。

 本当はこのままキスを続けたかったが、さすがに無理に体をひねる体勢は辛くて耐えられず、口惜しくもキスを中断せざるを得なかった。唇を離すと名残惜しそうに、お互いの唇に太い唾液の糸が紡がれていた。

 恵は再びベッドに倒れ込む。でも、そのおかげで、倫也は動きに集中することができたようで、次第に腰の動き速く激しくなっていく。


「んううっ!んんっ!ああっ!!ああんっ!!」


 ひと突きごとに膣奥に肉槍が叩きつけられ、また新たな快感を呼ぶ。しかも、先ほど見つけた恵の弱いところを上手い具合に突いてくる。


「恵っ、すげぇ、くあっ、気持いいっ!」

「ああんぅっ!いいっ……よぉ、……ふあぁっ!わたしもっ……きもちいいっ!」


 恵自身が気持ちいいのに加えて倫也も気持ちよくて、どんどん膨れていく肉棒がさらに膣の抵抗を大きくして、より快感を恵に与え続ける。


 嬉しい。

 嬉しい。

 嬉しい。


 めちゃくちゃになってしまっている恵の頭の中では自分が気持ちよくて、倫也が気持ちよくなっていて、それだけでもう嬉しさが止まらなかった。

 膣肉が嬉しさを表すように倫也の肉をキュンキュンと強く締め付ける。


「うあっ……それっ、締められるの、きもちいいっ!」

「ともや、くん……っ、んうぅっ!ともやくんっ……ああっんっ!」


 締め付けることで、さらに倫也の陰茎が強く擦れて、さらに快感が恵を襲う。その快感がまた倫也の肉を締め付けると言ったスパイラルが生まれ、二人はどんどんと絶頂へと近づいていく。


「うあっ……恵、そろそろ、出そう……だ…………」


 倫也の言葉とともに倫也のピストンの速度も早くなり、肉茎も固くなってきていて、もうそろそろ倫也がイきそうになっているのだとわかる。

 そして、恵はふと思い返す。


(あれ?……倫也くん、あれ、着けてたっけ?)


 恵は四つん這いになっていたせいで、挿入の瞬間を見ていないから倫也がコンドームをつけていたのかがわからなかったし、もしかしたらコンドームをしていない可能性だってあった。そしてもし、コンドームをしていなかったら……?


「んあああっ!あああっ!んううぅっ!あああっ!」


 でも、恵の頭からそんな理性的な思考をする余裕なんて微塵もなかった。倫也のひと突きひと突きが恵に快感を与え続け、理性的な思考の邪魔をする。


「いいっ……よ……!出してっ……!中で……全部出してぇっ!」

「あぁっ……!恵っ……!!全部出すぞっ……!!」


 だから、口から出たのはストレートな本能から来る欲望だった。

 倫也に気持ちよくなって欲しくて、そのためにはこのまま自分の膣内でイってほしくて。さらに言えば、自分だって中に出して欲しいと思っていた。倫也の精液を倫也の全てを受け止めたい、膣中で出して欲しいと思ってしまっていた。


 倫也の動きも絶頂を早く迎えたそうに、激しく、大きく、速く腰を動かす。

 さっきみたいな恵をイかせようとするような動きなどではなく、倫也自身が気持ち良くなろうとするだけの動きだった。

 それでも、恵にとってはやっぱり嬉しかった。倫也が自分の中でイキたがってくれて。

 そして、一瞬大きくなる肉径が大きく膨れたと思った瞬間、


「でるっ……!!ぅうああああぁぁぁっっ…………!!くうあぁ…………!!ああぅっ…………!!」


 びゅるううっ!びくっ!びくぅっ!びゅくぅっ!!


 恵の膣奥で倫也の肉系が大きくビクン、ビクンと跳ね、精液が恵の一番奥底で吐出される。


「ああっ!!あああああああぁぁああああああっっ!!!!」


 それと同時に、恵の身体も大きく背筋を反らし、全身を駆け巡る快感に震えながら絶頂を迎えた。

 

「うああっ……くあぁっ……うぅっ、くぅ……」


 倫也も絶頂の余韻が収まらないようで、恵の膣内で何度も何度も肉系がびくっと跳ねては、快感を堪えるように呻く声が聞こえてくる。


「あっ……ぅ…………はぁ…………んっ…………」


 それに合わせて恵の身体もびくびくと快感に打ち震える。

 そうして十数秒ほどその絶頂の余韻を共有した後、ようやく、絶頂の快楽から二人は解放される。倫也は肉棒をゆっくりと引き抜いていく。


「う……ぁ…………」


 絶頂直後で敏感になっていた恵の身体は陰茎を引き抜くだけでも、その強い刺激に声が漏れてしまう。それは倫也も同じようで、引き抜く瞬間に呻くような声を上げていた。

 そして、倫也は陰茎を引き抜くと同時にもう限界と言わんばかりに、荒い呼吸でベッドに倒れ込んだ。恵も体力の限界に達していて、枕に頭を埋めてベッドに倒れ込む。

 もう、これ以上の快感はないんじゃないだろうかというくらいに本当に気持ちよかった。それは身体だけではなく心も含めてだった。

 そんな快感の余韻に身を委ねていると、あっという間に睡魔が現れて恵を心地よい眠りに誘おうとしていく。恵はもうちょっとこの心地よさの余韻を味わっていたたかった。

 すると、倫也に背後から抱きしめられる。倫也に後ろから抱きしめられると、全身から倫也の体温が伝わって、そこから倫也の幸せも伝わってくるようで、それが恵の心地よさをさらに増幅させていく。


(こういうの、いいなぁ…………)


 絶頂後の脱力感、そして大好きな倫也に中で出してもらえた嬉しさ、ぎゅっと抱き締められる幸福感、あらゆる感覚や感情が絡み合い、恵の意識は闇に落ちていく。


 快楽に溺れさせられて、幸せの奥底に落とされていく感覚は


 本当に最高だった。



 * * * * *



「ん…………」


 わたしは重いまぶたをゆっくりと開く。目の前には、倫也くんの顔があった。

 倫也くんの片腕がわたしを抱くように、そして、わたしの片腕も倫也くんを抱くように、お互いを抱き合うようにして眠っていたようだった。

 倫也くんは今も完全に熟睡しているようで、喉元を見ても寝た振りをしている様子は全くなかった。


(そう言えば、倫也くん、徹夜だったっけ……)


 わたしは人差し指で倫也くんの頬を軽く突っつく。突っついた部分が凹んで、なんだか不細工な顔になって、思わず笑みがこぼれてしまう。


「……『優しく』めちゃくちゃにしてくれるんじゃなかったのかな?」


 はっきり言って、全然優しくされた感じなんてなくて、最初から最後までひたすらめちゃくちゃにされたようにしか感じなかった。


(でも、気持ち良かったなあ……)


 先程の行為を思い返すと、すっごく恥ずかしいことをされたし、それで何回もイってしまったし、思わず顔が熱くなるけど、まとめてしまうとその一言に落ち着いてしまう。……体力的には凄く辛いので毎回は無理だけど、たまにはいいかなって思ってしまった。

 そして、わたしはいろいろ思い返しているうちに、ひとつとんでもないことを思い出した。


(中で出された!)


 真っ赤で熱くなっていた身体が一瞬にして血の気が引いて氷点下まで凍り付く。焦りから心拍数が跳ね上がる。慌てて飛び起きた瞬間、あるものがベッドの上に置いてあるのが目に入った。


 それは、口を縛られた使用済みコンドームだった。


(……ちゃんと着けてたんだ)


 倫也くんも付けてないような言い方をしていたから、わたしも着けていないものだと思っていた。それを見てわたしは安堵のあまりに身体から力が抜けてしまって、再びベッドに倒れ込んだ。

 それと同時に、その時の自分の発言を思い出して、恥ずかしさから冷えた身体がまた熱くなっていく。


(いくらなんでも『中で出して』はだめだよねぇ……)


 そのときは頭が回っていなかったとは言え、コンドームを着けていない可能性がある状況でその発言は良くない。妊娠して、子供ができてしまったら、倫也くんにだって迷惑がかかる。

 ふと、倫也くんの方に顔を向けると、ぐっすりと幸せそうに眠っていた。


「ちゃんと考えないとだめだよね」


 大きく溜息を付きながら、自分の言動について反省する。

 その溜息によって何度もイってしまった体の疲労感が一気に襲い掛かってくる。疲れきった体を動かすのは億劫で、このまま倫也くんと一緒に朝まで眠りに落ちてしまおうかと思ったけど、激しい行為での汗でベタベタになってしまった体をそのままにしておくのは気持ちが悪かった。だから、もう一度シャワーを浴びようと、 ベッド脇に置かれていたショートパンツと下着を身に着けて、洗面所に移動する。

 そして、ふと自分の姿を鏡で見てしまった。


「え……?」


 思わず呆けた声が漏れてしまう。

 身体を鏡に近づけて、しっかりと自分の身体を凝視する。


(何…………これ…………?)


 首筋から胸元にかけて、大量の真っ赤な痕、いわゆるキスマークが大量についていた。慌てて、今着ているパーカーのファスナーを全部上げてみたが、首筋のキスマークを隠すことなんて全然できなくて。このパーカーで隠せないとなると、明日のために用意している服で隠せるはずもない。


(……………………うん。とりあえず、シャワー浴びよう)


 いくら考えても、答えなどでるはずもなく。わたしは考えるのを放棄して、シャワーを浴びて汗でべたついた体とともに頭もスッキリさせようとする。でも、シャワーを浴びたところでいいアイデアなんて出るわけもなく。体力的に疲れていた体がさらに重くなっていく。

 重い足取りで、部屋に戻ってみると相変わらず倫也くんはぐっすりと幸せそうに眠ってて。思わずほっぺをきゅうっと抓ってしまう。


「……いくら何でもこれはないんじゃないかなぁ?」


 眉間に皺を寄せながらそんな愚痴を零してみても、当の本人はぐっすりと眠ったまま。コンドームをちゃんとしてくれるのはいいことなんだけれども、だからってこんな外から見える位置にキスマークを容赦なく付けていいわけがない。

 こんなモヤモヤした気分で一緒に寝るのは何となく嫌だったし、調子に乗った倫也くんが寝起きにまた襲ってきそうな気がして、床に布団を敷いて寝ることにした。


 そして、翌朝。

 朝起きたらキスマークが消えていないかな、と淡い期待を抱いて洗面所の鏡に映った自分の姿を見てみるが、キスマークなんてそんな簡単に消えるはずもなく。

 昨日の睦事で疲れた体に精神的ショックが積み重なる。深くため息を吐きながら、重い足取りで部屋に戻る。まだまだ幸せそうにぐっすり寝ている倫也を見て、再びため息をついた。


「……こんな風にめちゃくちゃにしていいとは言ってないんだけど?」

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冴えない彼女の育てかた 短編集 Depth @Depth

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