第31話:5合目

進んでいくにつれて背の高い木が減っていく。低木が多くなり、歩きやすくなってきた。

「樹海は抜けられたみたいだ。少し休んでから登ろうか」

「そうですね。1戦しかしてないとはいえ流石に疲れました」

手ごろな大きさの岩の上に腰を下ろす。山頂を眺めると、上の方は雪が被っているらしい。頂上までは岩だらけの獣道が続いている。所々にモンスターの姿が見える。ここのモンスターは土属性が多そうだ。岩の塊のようなモンスターや、ゴーレムと言われる人型のモンスターが見えている。

「いつもは見ないようなモンスターが多いな」

「そうですね。こんな状態で鉱石とかって取れるんですかね?」

「まあレベルが低いと少ししか刀に使えないからそんなに大量にはいらないんだよね」

「そうなんですか」

香音は岩から腰を上げ、こちらに顔を向ける。

「それならすぐ登ってすぐ採ってすぐ帰りましょう!」

「そうだな。補助は任せるね」

昼間の時間で残り千メートル以上の高度だと、普通では宿泊するケースが多いらしい。下山の時間を考えると、一度宿泊してから早朝に行動開始して登頂、その後下山という流れになるらしい。だが、この世界ならダンジョンを踏破するとワープで戻ることができる。今から行っても間に合うだろう。

ステータスに任せて、通常では疲労を感じるところを休みなしで登っていく。足場が悪いが歩けないほどではない。

「先輩!横から何か来ます!」

香音の忠告を受けて右を見ると1匹のイノシシが走ってくる。見た目はイノシシだが、背中の上部は岩の鎧を纏ったかのようにゴツゴツとした皮に覆われている。

「まだ硬いものは切れないんだよな。属性的には氷とかでいいのかな?【エンチャント・氷】」

刀が冷気を纏う。周囲の空気が冷え、水色の刀身に変わる。近距離までイノシシが迫り、牙を振り回そうとしてきたタイミングで下から上に向かって刀を振る。傷口から瞬時に凍り付き、氷によってイノシシが拘束される。

「あんまり使ってなかったけど氷も強いな」

とりあえずイノシシは使えそうな牙だけ採集して先に進む。皮も使えそうだったが、既に凍ってしまったので採集は諦めた。

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高度で言えば6合目より少し手前くらいまで上ってきた。今まで特に動きが無かった頂上から轟音が鳴る。認識が遅れたが、確実に何かの鳴き声だ。おそらくは鳥類。直後、凄まじい風圧と共に、山頂から巨大な鷹が飛び立つ。足にはなぜかナスを持っている。

「あれって前見たでかい鷹か!?隠れよう!」

俺は香音の手を引いて斜面にできた窪みに逃げ込む。鳴き声は続き、徐々に別の音も聞こえ出す。音は頂上から高速で斜面を滑り降り、同時に雪が流れてくる。

「雪崩だ!あの鷹の声で起きたんだ!」

「これ大丈夫なんですか!?遭難しませんか!?」

「一応魔法があるから雪は溶かせるはず。少し待つしかないかな」

雪崩が収まるまで数分かかった。

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β版MMORPGの世界でテストプレイヤーになりました 冷奴太郎 @hiyayakkotarou

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