第30話:富士樹海ダンジョン③
どうにか合流しようと考えた結果、合図を送りつつ先へ進む方法を思いついた。
「気づいてくれるといいけど……」
俺は右腕から刀の先まで【エンチャント・光】を纏う。全身に掛けて移動したときは大ダメージを負ったが、腕くらいならまだましだろう。頭の中で飛ぶ斬撃をイメージして刀を構える。香音の身長は150センチくらいだったはずだから地上から160センチのところで横一文字に斬る。一瞬、腕に激痛が走るが、最後まで刀を振りぬく。刀身の通り道から白銀色の斬撃が飛ぶ。正面の木々を切り倒し、100メートルほどの葉に覆われない明るい道ができる。
「思ったより肩に負荷がかかるな。筋肉痛の状態異常になった」
《新スキル【飛燕】を取得しました》
「なんかかっこいい技名のスキル覚えたけど負荷がかかるから今はそんなに使えないな。レベルを上げなくては」
刀を鞘に納め、一昨日の準備で買っておいた湿布(筋肉痛を治す効果のアイテム)を張っておく。ふと、後ろから茂みをかき分けるような音がする。
「香音?」
振り返りながら名前を呼ぶが、返事はない。直後、茂みからハエトリグサが出てくる。
「なっ!?コイツ移動できるのか!?」
筋肉痛が治るまで2分。作った通路が元に戻るまで30秒。香音が通路の終点に来てくれることに賭けて走る。後ろからはツルを振り回しながら接近してくる。15秒経過。通路の終点まで到着する。ステータスの力は偉大だと思うが、筋肉痛状態はきつい。残り1分半ほどは最下級魔法で誤魔化しながら戦うしかない。
30秒が経過し、切り倒した木が復活する。1分で相手も全回復するので筋肉痛の時間も考えるともう2回復活が挟まれてから本格的に攻撃をするべきだろう。
回避に専念するために全身に【エンチャント・水】を掛ける。初めて使うが、滑らかな動きが出来そうな気がするという理由で選んだ。入り組んでいる森の中では素早い風より滑らかな水の方ができるかもしれない。検証のような感じだがうまくいく気がする。
ツルが木々の合間を縫って鞭のように襲い掛かる。無理矢理上体を反らしてツルを回避する。なんとなく体が柔らかくなっている感覚になる。普段ではできない動きが出来ている。しなやかに動く関節が回避を助ける。木を足場にし、枝を掴み、立体的な動きで敵を翻弄する。足場にした枝が何本か折れるが、少しして復活する。
残り1分耐えて反撃する。そのためにアイテムポーチから魔力結晶を取り出し、地面にたたきつける。水色のミストが発生し、魔力が満タンになる。反撃の準備は整った。後は残り少しの時間を耐えるだけだ。
「先輩!」
横から香音が飛び出してくる。無事だったようだ。
「香音!今は下がって!」
「はい!頑張ってください先輩!」
香音は補助魔法を全力で掛けてから木の後ろに隠れる。弓を構えているようなのでアシストをしてくれるようだ。
香音がかき分けてきた茂みが元の形に戻る。
「反撃の時間だ!」
俺はエンチャントを刀に掛ける。属性は風。水のしなやかさと風の速さ。樹海では使いやすい動きだ。抜刀、直後に強く踏み込む。制限時間は1分。襲いかかるツルを香音が横から打ち落としてくれる。接近して、頭の部分につながる茎を切り落とす。そのまま素早さを活用して連撃を決める。細かく切り刻んだところに【ファイア】を叩き込んだところで素材を残して消滅する。
「うあ、倒し……た……?」
「先輩!よかった!」
香音が目に涙を浮かべながら寄って来る。相当不安だったんだろう。
「大丈夫か?」
「はい、でも少し休みましょう?」
樹海の出口はすぐそこまで近づいていた。
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