第37話 戦いの地
あれからもうすぐ二年が経つ。
東の夜空から迫りくる惑星ガルムシアは、日に日に近付いてきて、もう家庭用望遠鏡でもその姿がハッキリ見える程だ。
街からは人の姿が消え、閑散としている。ほとんどの人がシェルターに引っ越していったからだ。
残ったのはガルムシアの魔王軍と戦うと決めた人か、その人たち相手に商売をしている人たちだけだ。
ミアキス公国との転移魔法が開通してすぐ、日本政府を端緒に、各国政府がガルムシア魔王軍に地球が狙われていると公表した。
地球中が政府の説明に瞠目し、動揺し、更にガルムシア魔王軍がその気になれば、地球の軍隊なんて直ぐに蹴散らせる戦力を有している事が知れると、絶望した。
二年後には地球人類が絶滅させられると知った人々の行動は様々で、自殺者数、犯罪者数ともに数倍に増加したが、大半の人は今までと変わらない生活を営んでいた。二年後の事などピンときていなかったのかも知れない。
そんな中で世界各国は連名で強化人間プロジェクトを始動。広く世界に魔王軍と戦う勇敢な者を募集した。
ナノマシンを使って身体能力を数十倍に、更に魔法まで使えるようになる。との触れ込みだったが、当初は各国の軍、警察関係者のみの応募に留まり、一般から応募しようという者は皆無だった。
それが一変したのが、俺が出演した映像だった。どこから流出したのか、あるいは意図的に世に放されたのかは知らないが、ネットで俺が一度日本に戻ってきた時にやった身体検査の映像が拡散されると、世界各国で応募者が増加していったそうだ。
応募者は随時ミアキス公国へと転移魔法で送られ、ナノマシンの入り込んだ彼らは、魔王軍と対抗するために日夜戦闘訓練を行っている。
もちろんミアキス公国、アイテールの事は機密事項で、外部の人間にバラす事は出来ない。勇気くん、アルネンさんが話せないように魔法を使って封じているので、まず無理だろう。
聞けば俺や勇気くんの親に催眠術を施したのもアルネンさんだったらしい。
各国からの応募者が順調に戦闘訓練に勤しんでいる中、地球ではシェルターの建設が急ピッチで行われていた。
ガルムシア魔王軍との戦争がどれくらいの期間続くか分からない現状、半年から一年間はシェルター内で生活する事が望まれる。
建設は大手から中小零細に至る建設会社が手を組み合い、行われる国家事業となった。
そして日本だけで各都道府県に3~10の巨大地下シェルターが完成した頃、東の夜空のガルムシアは、肉眼でも視認出来る程大きくなっていた。
そしてその日はやって来た。
惑星ガルムシアは肉眼で月とほぼ同径となった所で進行を停止した。ガルムシアの直径は地球よりやや小さい程度なので、月より遠い場所で停止した事になる。
「とうとう、本格的に侵攻を開始するつもりだな」
俺は部屋に取り付けられたモニターを見ながら、独り言のようにゴチる。
それに頷き返してくれたのは生口さんだ。部屋には他に勇気くん、駒場さん、アルネンさんに生口さんと一緒にガルムシアで勇者をしていた六人、それにこの二年間の戦闘訓練で優秀な成績を残してこのチームに入った20人の、合計31人が、その時がくるのを待ち続けていた。既に全員戦闘服に着替え、準備万端だ。
そしてその時がやって来た。惑星ガルムシアを映していたモニターが軍服を着た女性に差し替わる。
「……アメリカ・ニューヨーク、フランス・パリ、日本・東京、オーストラリア・シドニー、各国主要都市部に一斉に魔方陣が出現し、ガルムシア魔王軍と思われる存在が突如出現。各国で破壊活動を始めています」
「きたか」
俺たちは立ち上がると、互いに目を合わせて頷き合い、そしてその視線はアルネンさんで止まる。
「アルネンさん、お願いします」
俺に言われたアルネンさんが床を木の杖で叩くと、魔方陣が発現し俺たちは光に包まれていく。次の瞬間には、俺たちは暗い空の下、強風の吹き荒ぶ廃墟街にいた。
「ここがガルムシア……?」
「ええ」
俺の言葉に首肯するアルネンさん。ガルムシアの勇者たちも、かつての姿を重ねているのだろう、沈痛な面持ちをしている。
「魔王ドゥルドゥームの居城は、ここから近いんですか?」
「ええ。ドゥルドゥームが居を移していなければ、それほど遠くはないはずです。今の私たちなら、走って一時間と言った所ですね」
成程。なら、とアルネンさんを先導に走りです俺たち。
俺たち31人は各国から選りすぐられた精鋭部隊と言う事になっている。そしてその目的は魔王ドゥルドゥームの討伐。これを速やかに実行する事で、この戦争を早期に決着させるのが狙いだ。
魔王ドゥルドゥームを倒せるのかは分からない。だがこれに賭けるしか、俺たち地球人が生き残る可能性は低いのだ。俺たちの働きに地球の存亡が懸かっているかと思うと身震いするが、このミッションやり遂げてみせる。
Humble Ramble 〜謙虚な少年は異世界を彷徨す〜 西順 @nisijun624
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます