第4話 準備
ラギは鼻歌を歌いながら旅の準備を始めた。
セルナはすまなそうな表情でラギに近寄った。
「ラギさん私たちにできることはありませんか?」
私たちってもしかして俺も加わっているのか?
ラギはしばらく考えて微笑を浮かべると、向かい側の店を指した。
「多分食料と水分が足りなくなるだろうから買ってきてくれるかしら」
セルナは任せてと言わんばかりに胸を張り、僕の手を取ると、向かい側の店へと向かった。
やっぱり僕も行く羽目になってしまった。
向かい側の店は一週間前に開かれている。この町の中で一番新しい店なのだ。
新しい店だからなのか店の品も、他の店にはない珍しいものが多く並んでいる。こんな田舎の町にそんなものがあっていいのだろうかと思ってしまうほど評判の良い店なのだ。
僕はこの店の中に入るのは初めてで、入ったとたんに花のいい香りが漂ってきた。
「いらっしゃいませ」と丸眼鏡をかけた弱々しそうな姿の店長がコツコツと足音を立てながら近寄ってきた。
「いろいろなものがありますよ」
僕はセルナの手を振りほどいて、花の匂いのする方へと足を運んだ。
すると花の形をした木造が目に映った。これがにおいを発しているのだろうか。
後をついてきていた店長が微笑を浮かべて木造を持った。
「これは花のにおいを噴出するからくりです」
「はい、どういう仕組みか詳しく教えることはできませんが、中にある花の匂いがする袋をからくりで中から外へと吹き出させているんです」
僕は小首をかしげて、その木造に花を近付けてみた。
すると花のきつい匂いが鼻を刺してきた。
僕が鼻を押さえていると、後を追ってきたセルナがクスクスと笑っていた。そして僕を睨んだ。
「ロナさん、勝手に移動されては困ります。必要な物だけを買わないと」
ここに来た理由を思い出して僕は苦笑した。
確か買うものは食料と水分。
店長にいいものがないか訊くと、店長は即座僕たちを連れて四つ角の隅に向かった。
そこにはS字に曲がった筒といろいろな色をした立方体の入った袋が所狭しと並んでいた。
「この二つだけあまり売れていなかったから助かるよ。たくさん持って行ってくれ」
セルナが怪しいものでも見るような目で袋を見た。
「この袋の中身は何ですか?」
店長は一つの袋を開けると、中から鮮やかな緑色をした立方体をつまみ上げた。
「いろんな食べ物を魔法で立方体にしたんだ。例えばこの緑色はサラダ。食べてみたらわかるよ」
セルナは店長にもらうと、恐る恐る口の中に入れた。
シャキッとレタスが刻まれたような音がしたとたんにセルナは目を見開いた。
「ほんとだ、サラダです。中に入っていたゴマドレッシングと合います」
店長は嬉しそうに目を細めた。
「それと、この筒はどんなに汚い水でも人が飲めるくらい清い水に変えることができる。でも弱点があって三四度使用したら壊れてしまうんだ」
この二つの品がなぜ売れないのか分かった。
まず袋の方は見た目が悪い。そして筒の方は直ぐに壊れてしまう。
まあ便利そうだし買ってみようか。
「値段はいくらですか?」
「セットで金十個くらいなんだけど……」
店長は苦笑いを浮かべた。
売れない理由が値段にもあったのか。
僕は値段を下げてもらえるように頼んでみた。
「そうだ。筒を抜かそう。そうすると値段は銀貨五つ。」
僕は微笑を浮かべて金をズボンのポケットから取り出した。銀貨なら何枚でも持っている。最低でも十個は買おう。
店長は僕の渡した金を受け取ると、十袋を僕とセルナに渡してくれた。
「そしてサービス」
店長は倉庫に行き、戻って来ると先ほど見た筒よりも丈夫そうなU型の筒を持ってきた。
「都会から届いたばかりの品。あの筒よりも丈夫で、何度でも使えるはず。金は要らないよ」
僕は例を何度もしてその筒を貰った。
何かとんでもない高級品を貰ったような気がする。
そして僕らはラギの下に帰った。
ラギはもう準備ができているようで、僕らの持ってきた食料と水分を取るための筒を荷車に積めると、馬に乗った。
「さあ、出発しよう!」
「おお!」
セルナは乗り気だった。乗り気じゃないのは僕だけ……。
セルナが荷車に乗ると、僕はそれに続いて荷車の端に座った。
荷車の床にマットが敷かれていて、思ったよりも座り心地は良かった。
「それじゃあレッツゴー!」
セルナが嬉しそうに続いて「おー!」と声を出す。町の皆が見ている中で、僕らを乗せた馬車は走り始めた。
この二人のせいでめっちゃ恥ずかしい……。
下僕勇者 夜鳶 @4578
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