い能力バトルロワイヤル
滝杉こげお
“意”中の人
首が飛んだ。
銃声に続き
そして、遠く離れた樹木の陰に身を潜め男を撃ち殺した
簡単に人が死んでいく。私はビルの陰に隠れ、震えながらその様子を覗き見る。
“生き残った優勝者はなんでも一つだけ願いを叶えてもらえる”なんて、小学生ですら馬鹿らしく思う賞品を掲げたバトルロワイヤル。招待状が渡されたのは、私が病院から帰る道中でのことだった。
全身を白で覆われた大男から何も言わずに渡された黒い封筒。中に入った手紙には会場と、私に与えられた“い能”の力の詳細が書かれていた。
……勘違いしないでいただきたいのは、私が“異能”の“異”の字も書けない偏差値10の人間ではないということだ。
“い能力”。それが私達に与えられた力の名称。参加者はそれぞれ“い”を読みに持つ漢字一字を割り振られ、その漢字にちなんだ能力を与えられる。
「
かけられる声により私は回想から意識を戻す。
彼は私の同盟者。利害関係が一致するため、こうして個人戦のバトルロワイヤルを共に戦っているパートナーだ。
私のい能力。それは
私はその能力で利害が一致する同盟者を見つけ、ここまで生き残ってきた。
思考が読めるのは顔を知っている人間だけだ。しかし私は睡眠薬を投与され半ば拉致される形で連れられたスタート位置で他の参加者全員を確認している。つまり、相手の姿が視認できていなくとも任意のタイミングで相手の思考を読むことができる。視覚情報を得ればその参加者の位置を把握できるし、死亡すれば思考が消えるため生存者の確認も可能だ。
「残りは
「それはうまいね。これで残る二人がつぶし合ってくれれば御の字なんだけど……」
「上です!」
私は
「あれ~? 俺の攻撃、避けられちゃった。君は勘が鋭いね」
空振りした日本刀を肩に担ぎあげながら忍者衣装の男は軽い口調でこちらに話しかけてきた。
「っ、
私は
「あはは。もしかして君は
確かに私は喧嘩なんてしたことがない。いくら思考が読めて、攻撃のタイミングが分かってもそれに反撃できるだけの身体能力は無い。武器があれば相打ちは狙えるがあいにくと丸腰だ。彼のいう様に私一人じゃ彼を倒せない。
「だから僕がいるんだ」
逃げる際に握ったままだった
「きゃあ!」
走る鋭い痛み。
「大丈夫か、
倒れゆく身体を
そして――
「なっ!? 君ら、いったい何、を……」
地面には
「あなたが倒れているのは私の力だよ。そして、君には劇薬を処方させてもらった」
注射器を刺した瞬間にピクンと跳ねる身体。もう聞こえていないだろう
私たちはこの会場に連れられてきたとき睡眠薬で眠らされた。つまり、私が文字通り手引きし、触れさせさえすれば
「これで残すは
「はい。必ず勝ちましょう。そして、あなたが勝ったら私の妹を治してもらいますからね」
私の向ける決意の目に、けれども
「本当に……君は最後に、死ぬつもりなのかい」
「はい。それが私の決意ですから」
これがバトルロワイヤルである以上優勝者は一人きりだ。私の願い、それは難病に侵されている妹を治療すること。そして
私のい能力がもし、戦闘向きの力であったのなら私はきっと自力での優勝を目指していただろう。しかし、相手の思考を読めるだけのこの能力では最後の二人になるまで逃げ続けられても優勝することはできない。この
「私の力では死んだものを生き返らせることはできない。私も医者だ。向かってくる相手には正当防衛として戦えても、君のような人を殺すのは良心が咎める」
「なら、その良心で私の妹を救ってください。それが私の何よりの望みなんです」
両親が死んだ私に肉親は妹しかいない。その妹も二年前から病床に伏している。日に日に弱っていく妹の姿に私はこのバトルロワイヤルに命を懸けることを決意したのだ。死ぬのは怖いけれど、妹を失うなんて考えられない。
私たちは最後の戦いに臨むため移動を開始した。
「嘘、でしょ」
移動途中。私の
「どうした?」
「参加者が、生き返ってる」
「まさか、開始直後に思考が読めなくなった
取り乱した私の思考が加速する。
だが、彼女が憑依できるのは生きている者だけのはずだし、一度に操れる対象は一人だけ。つまり
「
私が思考する間にも
「危ない!」
突き飛ばされる。訳も分からず地面に突っ伏す形となった私は
「逃げろ!」
刀傷を受けた
**
「何とか、逃げ切ったか?」
「死体相手では
「僕の
注意深く辺りを確認する。願いを叶えるためなら何でもすると覚悟を決めたのに、最後の最後で油断した。
仮に追いつかれたとしたら逃げる途中で拾ったこの
しかし幸運だったのは
「これでウチの勝ちだ!」
無防備に背中を向ける
**
「クフ、クフフフフ、クフフフフフフ」
私はスタート地点からすぐ近くの民家の中で目を覚ます。これで
でもでも、勝ったんだからそんなことどうでもいいわ。さあ、願いはなににしようかしら。クフフ、クフフフフ。
「
ポンと叩かれる肩。驚いて振り返るとそこには
「えっ、なんであなたが」
聞きながらも意識が遠のいていくのを感じる。これが
「あの爆弾は僕の力で無効化させてもらった」
「そんな、あなたの力は生体にしか効果が無いはず」
「ああ、その通りだ。だけど僕の力は生体になら無制限で作用する。爆発の衝撃を受けたそばから治すことだってできるんだ」
「なっ、ましゃか
ダメだ、舌が、回らない。
「君は
くそ、ウチが、利用していた、はずなのに。
薄れゆく意識の中、ウチは
い能力バトルロワイヤル 滝杉こげお @takisugikogeo
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