第2話 解離性同一性障害

遊兎ゆうと……?え、今寝たのに……」




 訳が分からない、夢が続いてる?どういうこと?遊兎ゆうとが準備を終えて車に乗ったが、あえてあたしは後部座席に初春ういはと座った。小声で初春ういはに聞く。




初春ういは、これってどういうこと……?夢だったんだよね、でも、今日起きた時、初春《ういは》にもらったメモ持ってたんよ、やから番号登録しといたけど……」




 初春ういはも少し困った顔をしている。もし、ここが平行世界、所謂パラレルワールドというならば、あたしがいない、現実世界(あたしの居るべき世界)に居る時、この世界の時間はどうなっていたんだろう?




 眠ると平行世界に来るとして、全員が同じ時間に寝て同じ時間に起きる訳ではない、初春ういははあたしが起きた後、どうなっていたんだろう?




 小声で初春ういはは答えた。




「あのね、空新そあらちゃんが起きた後、私は突然視界が真っ暗闇になって自分が起きるまでその暗闇を歩き続けたの。こんなことは実は平行世界に来た初日からあったから、もしかしたら他にも平行世界だとわかっている人がいるのかも…。」




 ということは何人、何十人といるかもしれないこの世界の中で空新そあらはたまたま1番最初に目が覚めたのだろうか?




 もし他にもあの【質問】を受けた人がいたのなら、「仲間はいらない」と選択した人は目に見えないのだろうか?




 相手も、こちらに気付くことも無いのだろうか?




 仮にこの先ずっと眠るとこの平行世界に来ることになってしまうのなら、自分の選択は間違いでは無かったのかなと、あたしは考えていた。




 すると初春ういはの住むマンションに着いた。二階建ての黄色に塗られた壁に、紺色の手すりや階段、いつも車で通りかかる場所だった。




「こんな近くに住んでたんや……現実世界でも、会いに来れるやん、起きてからもこの世界について少し話し合わん?」




 もちろんいいよ、と言い、初春ういは遊兎ゆうとにお礼を言うと202号室に入っていった。その時だった、「時々出てくる」遊兎ゆうとが話しかけてきた。




「ねぇ、外出んなっつっただろ?お前の行動全てが迷惑、何回言えばわかんの?友達なんか作るなって言ったやろ?次無許可で外に出たら、帰ってくる前に俺が出ていくから。」




 時々、遊兎ゆうとは知らない人になる。遊兎ゆうとからしてみればあたしも同じなのかもしれないが、遊兎ゆうとは酷い。何人いるのか分からない。




 こうやってあたしを嫌って存在を否定し、監禁する遊兎ゆうともいれば、仕事の休憩中にメールを送ってきて買い物を頼む遊兎ゆうともいる。




 普段通り可愛い声で自分のことを名前で呼ぶ女の子みたいな、「本当の」遊兎ゆうとだと思っても突然泣き出したりする。




「本当の」遊兎ゆうとは、完璧主義で、すこしでも出来ない、出来るかわからないと思うことに挑戦したり、努力することは無駄で、才能だけで生きてきた人だ。




 出来ない事は多いかもしれない、コミュニケーション能力は高いとは言えないし、普通の人の真似をして生きてきたから社交辞令しか出来ない。友達もほとんど居ない。




 あたしの中にも、もう一人の女の子がいる。




 遊兎ゆうとと知り合う前に付き合っていた男の暴力暴言から逃れるために記憶を断絶するかのように生まれたその子は「瑠愛るな」と名乗っているらしく、あたしとは正反対の活発ですぐに突っかかってくる女子高生らしい。




 だから遊兎ゆうとが何人も人格を作り自分を守るようになってしまったのはあたしは自分のせいだと思っている。




 自分が中途半端に仕事を始めたり辞めたり、突然大きな買い物をしたり、衝動が抑えられなくて、遊兎ゆうとに言われた約束も他のことに気が向いていると忘れてしまって、どんどん遊兎ゆうとにストレスを与え続けて……。




 優しい遊兎ゆうとは我慢していたけれど、限界が来てこうなってしまったと思っている。




 しかし、解離性同一性障害というのはたしかに強いストレスからなる病気だが、あたしと知り合う以前からそうだったのかもしれないのに、あたしは自分を責める事をやめられない。




「ごめんなさい……もう、出ません……。」




 家までは車の中で無言だった遊兎ゆうとだが、駐車場を出てマンションに戻ると本物に戻っていた。




「ねぇ、今日は楽しかったから寝るの少し遅くなっちゃうけど映画観てから寝ない?そうしよ?」




 怖かった、だって毎時間、枚分ごとに人が入れ替わるから。でも、あたしはそんな遊兎ゆうとを見ても、全ての人格が遊兎ゆうとに変わりない、そう思って愛してやまなかった。

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ワケあり専業自宅警備員と平行世界 7792 @__7792__

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