【企画】混沌(カオティック)鉄道 #リプで来た要素を全部詰め込んだ小説を書く

HiroSAMA

第1話

※作者注

 この作品には途中で作者の注釈が入りますが、気にせずお楽しみください。


   ◆◇◆◇◆◇◆


 火星の赤い大地は、人類を招き入れ二百年の歳月を過ぎてなお乾き続けていた。


 その大地からは『マナ』と呼ばれる力がわき上がり、地球では為し得なかった『魔術』と呼ばれる新技術が使用可能となっている。


 火星でのみマナが発生する理由については、未だ究明されていない。

 だが、その恩恵は数々の奇跡的産物を産み出していた。


 彼女・・の乗る『火星鉄道』もそのひとつである。


 殺風景な地に平行に引かれたネオミスリルの線路。その上を走る古びた黒色の列車はレールと車輪を経由してマナを取り込み、巨大なタービンを回転させている。

 その出力は火星バッファロー3000匹分にも相当し、都市間の輸送を一手に引き受けていた。


 車内にはいているのをいいことに、横になる十代半ばの少女と、少女を膝枕で支えるメイド服の美女の姿がある。


 一見すると姉妹のようでもあるが、ふたりに血縁はなく、それどころか一方は人類ですらない。


 寝転がっている少女の名前はラン。

 薄い茶髪を赤い野球帽カープキャップに収めている。

 成長期の訪れを感じさせない体躯はいまだ細く、半ズボンをはいた姿は少年のようである。


 優しげな微笑をたずさえた美女の名はメーン。

 青味を帯びた銀髪ととがった耳先は、彼女が人類ではないという符丁である。

 メーンは科学と魔術の混血児である火星アンドロイドだ。

 メイド服に収められた凹凸豊かなボディは、人類のものに酷似しているが、その中には一滴の血液も流れてはいない。

 だがしかし、美麗を極めた容姿には、銀縁のメガネが加えられ、彼女の神性をより高めていた。


 ふたりは仕事をひとつ終え、火星東京マーズトウキョウへの帰路の途中である。


「なぁメーン、いつんなったら着くんだ?」

「順当にいけば一時間といったところですね」


 高性能火星アンドロイドは、記憶した鉄道の時刻表から時間を割り出し答える。


 外の景色は赤い岩と大地ばかりが繰り返されている。少女が暇をもてあますのも仕方のないことだ。

 また、火星の地はマナの影響から電波状態が悪く、暇つぶしとなる映像娯楽を得ることができない。そのことも影響している。


 情報を正確に伝えた主人は「それじゃギリだな」と忌々しそうに呟くと、極上の弾力を備えた腿から頭を離す。

 そして、腰に差したネオミスリル製の銃の位置を直すと、進行方向へと進み始めた。


ご主人様マスターどちらへ?」

「野暮用だ」


「トイレなら最後尾ですよ?」

「知ってるっての」


「では、なにをしに行くのですか?」

「ちょっと到着を早めるよう相談にだ」


「いったいなんでそんなことを? お姉ちゃんオコしちゃいますよ?」

「誰がお姉ちゃんだ」

 時間通りに運行している列車を乱そうとする主人をメーンがいさめようとする。


 だが、それよりも先に、突如車内を襲った。

 それまで一定速度で流れていた風景が停止する。


「なんだ!?」

「機関部でなにかあったようです」


「俺はなにもしてねーぞ」

「知ってます」


 言いながらもふたりは、窓から身体をのりだし、先頭車両の様子を確認する。

 すると列車を引く先頭の機関車両が頑丈なレールから外れ、動きを止めている様子がみえた。


 魔術と科学の結晶たる火星機関車は恐ろしく丈夫に作られている。

 ネオミスリル製であるレールも同様であるが、それでも脱線しては動きようがない。


 そして、火星機関車が脱線することなど、通常の運行ではありえないことだ。


「ひゃっぽーい!」

 そんな雄叫びが大気を振るわせる。

 目をやるとそこには、そこには赤い大地に、火星バイクを走らせる上半身裸の男たちの姿があった。


火星山賊マーズバンディット……だな」


 人類が火星に移住して二百年。

 にも関わらず、いまだ文明を根付かせた場所が限られているのには理由がある。

 それは、法よりも暴力を信仰する者たちが、火星のあちこちで徒党を組み、己の信じる自由を掲げ生きているからである。

 そしてそのひとつが火星山賊マーズバンディットである。


「どうなさいますか?」

「ぶっつぶす!」


 ランは旅程を妨害する者たちに無慈悲な裁定を下すと、ホルスターから愛銃を取り出し構える。


 引き金を合図に、魔術銃はマガジン内に収められた弾丸を弾き出す。

 それは火星の薄い大気を難なく突き破ると、自由を謳歌する火星山賊マーズバンディットの額に着弾。そしてハイテンションな運転手を問答無用でバイクから転がり落とした。


 本来であれば、火星バイクに施された魔術迷彩が正確な射撃を拒む。

 だが、最上級の力を持つ魔術師には、火星山賊マーズバンディットが使う程度の魔術迷彩は子供だましでしかない。

 ランの放った弾丸は、次々と火星山賊マーズバンディットをバイクから転がり落としていく。

 弾が切れると、メーンから予備の弾倉を受け取り入れ替える。そしてまた火星山賊マーズバンディットの額へと弾丸をめり込ませるのだった。


「くそっ、上級魔術師ハイソーサラーがいやがる。アレを出せ!」

 ようやく相手の脅威に気づいたリーダー格の男が、部下に向かって指示を飛ばす。

 すると一緒に走っていた火星型トレーラーの荷台から、大きな人型の影が姿を現した。


 ずんぐりとした人型のそれは、全高五メートルはあろう火星式人型装甲車である。

 鋼鉄の腕に握られたマシンガンの口径は人間用のものの五倍だ。人間に向けられる火器としては過剰もいいところだ。

 人型装甲車はトレーラーから降りると、地面の数十センチ上をホバーで滑るように移動する。


 その数は三機。

 一介の山賊風情が持つには過剰な戦力である。


 ランの放つ銃弾も、さすがに戦車の分厚い装甲までは貫けない。


 それを確認すると火星山賊マーズバンディットは勝ち誇ったように告げる。


「このクソガキ、相手が悪かったな」

「ハダカで土下座すれば許してやらんこともないぞ」

「もちろん、そっちのねーちゃんも一緒になぁ」

 火星山賊マーズバンディットたちの嘲笑が木霊する。


 そんな状況下でランは大きくため息をつく。

 だが、それは敗北を受け入れたものではなかった。


「テメーらどこの組織のもんだ」

「俺たちゃ、モンゴリアンチョップだ」


「新参の組織か」

「いまは新参でも、俺たちゃ火星マフィアのトップに立つんだ」


「なるほど、列車の資材を奪って資金稼ぎか。だがなひとつ良いことを教えておいてやる」

「なんだ、貴様の開発した新型の土下座か?」


「いいや、火星にゃ絶対逆らっちゃいけない相手がいるってことさ。いくぞメーン」

了解ラジャ


 主の指示に従うと、メーンはメイド服の裾をつまむ。

 その優雅な所為は、荒くれ者どもの視線を集めた。

 そしてそれを更に強めるように、内側の純白の布地をさらけだす。


「おお、白だ!」

「イカス!」

「トレビア~ン」


 狂喜する火星山賊マーズバンディットたちの視線を気にせず、ラーンは股間を突き出すように跳躍する。

 すると身体のアチコチに亀裂が走った。

 部位のアチコチが変形し、内部機構をさらしながら人型を崩していく。

 やがてそれは、スーパーオリハルコンの地金を晒した大型機関銃へと変わり果てた。


 機関銃がランの手の内に収まると、野太い声が機関銃から発せられる。


『ハッスルするぜ!』

メーンおまえ、いちいちうるせぇ」


 手の銃にだまるように指示すると、自らを囲う火星山賊マーズバンディットどもを銃弾でなぎ払う。


 無数に放たれた弾丸は、まばゆい黄金色を帯びて目標を捕らえる。それは火星式人型装甲車の装甲すらも容易く撃ち破り、行動不能とした。


 そこで火星山賊マーズバンディットたちの顔色が変わる。


「まさかその銃、金の鼻くそを生む男メーン・ライング・ゴールドブーガーなのか!?」

「ってことは、まさかあの小僧が『火星のナイアルラトホテップ』だってのか!?」


 火星のナイアルラトホテップそれは火星に存在する三大勢力のひとつ『ビタミンC』に所属するガンマンのふたつ名である。

 少年のような見た目に反して、その腕前は火星一で、なおかつ、とんでもないことをしでかす災厄として悪名を轟かせている。


 突然の大物出現に、モンゴリアンチョップ一行は混乱に陥った。

 だが、ランにそれを考慮する気は一切なかった。


「俺をその名で呼ぶんじゃねぇ!」


 自らの悪評をふりはらうように、黄金色の弾丸をまき散らす。

 突如現れた災害級ガンマンではあったが、それでも相手は生身である。火星式人型装甲戦車たちは己の愛機を信じ、その首級をあげんと挑んだ。


******************


※作者注

 かっこいい銃撃戦をご想像ください。


******************


「高い授業料だったな」

 火星式人型層降雨戦車の駆逐を完了したランが、倒れた火星山賊マーズバンディットの頭を踏みつける。


 すでに彼女以外に大地に立つものはいなかったが、それでも死者は出ていなかった。

 メーンから放たれた金色の魔術弾丸は、ネオミスリルを容易に破壊しながらも、人体を一切傷つけない特別な仕様となっているのだ。

 そしてそれこそがメーンにつけられた『金の鼻くそを生む男メーン・ライング・ゴールドブーガー』の名の由来である。


 火星の大地では簡単に人は死ぬ。

 それ故に、ランは無駄な殺生はしないことにしている。


 火星の地から人間が消えてしまえば、彼女らが奪うものもなくなってしまう。それを考えれば当然の選択とも言えた。


「ところでご主人様マスター、よろしいのですか?」

「なにがだ?」


「いえ、お時間を気にしてらしたようだったので」

「しまった、火星●リキュア(二〇二期)の放送時間が!?」


「いまからでは間に合いませんねぇ」

「……おっ、おまえらのせいだ!!」


 その後、マジギレしたランに火星山賊マーズバンディットは、さらにボコボコにされたのだった。


〈了〉



■使用お題

 1 ガチギレ

 2 ガンアクション

 3 悪の組織に所属する主人公

 4 金の鼻くそを生み出す男

 5 鉄道

 6 姉属性メガネっ娘

 7 作中に作者登場

 8 ご主人様

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