第473話 世界の危機
「……いい加減に帰りたいっす!」
「俺だってそうだよ!」
鬱蒼とした森林で、嘆きの声を上げる橙竜に言い返す。
例のジャングルに入って、かれこれ数日以上が経過したと思うが未だに最深部が見当たらない。
……それどころか、次の層へも辿り着けない。
ただただ、深い森の中を突っ走っている。
「少し休憩するっす!
竜形態でひたすら、真っ直ぐ森を直線で移動しているんすよ?
そろそろ、世界一周するくらいの距離のはずっす!」
「仕切り直しか?
……そうだな」
幾らダンジョンが亜空間だと言ってもこの広さは異常だと思う。
故に、状況を整理しようとするロッティの言葉に賛同し、探索を中断。
人化して久し振りの地面へ……。
「まず、状況の考察っす!
オープン型のダンジョン自体が珍しいっすけど、私が知っている奴は層の範囲を越えると階層スタートラインへ戻されるのが基本っす!」
「……確かに」
俺とテイファがやらかした結果誕生した"傀儡師の隠れ家"も同じシステムだった。
対して、今いるジャングルは……。
「一応確認っすけど、探査能力はフルで回しているんすよね?」
「ああ。
先日の蜘蛛の件もあるしな……」
「っすよね。
どう考えても異常っす」
周囲の魔力反応をフル探査しながら、飛行していたのは間違いない。
「……ダンジョンってのは核から放射されたエネルギーにより変質した空間っす。
だから、少なくとも核を中心とした円形に展開すると言う大原則は外れないはず……」
「それを考えて、直進していたんだよな?
なのに……」
「違う層にすら到達しないってのは……」
……嫌な予感しかしない。
そういえば、
「1番最初に戦った蜘蛛。
あれが入り口付近の魔物の強さか?」
「……」
ダンジョンの場合は、奥へ行くほど魔力が濃くなる。
故に誕生する魔物も強くなるのだが……。
「と、飛ぶっす!
全力で木々の上まで!」
「……なるほど」
羽休めもそこそこに再度竜化し、上に向かって飛翔する橙竜に続く形で、俺も再竜化。
ロッティが蹴散らした枝を追いかけて、森の上に辿り着く。
……辿り着いてしまった。
「……まだっす!
森の端が見える高さまで!」
「……ああ!」
沸き上がる不安を書き消すように叫ぶロッティに続いて、上空を目指す。
森の端が視界に収まるよりも早く、押し戻される現象があれば、まだチャンスは……。
しかし、無情にも数百メートル上昇したところで、森の全容が見渡せる。
「……まだっす!
成層圏まで行けなければ!」
「……そうだな!」
成層圏って言葉が出ている時点で、今の境遇に思い当たる点がある証拠だが、俺も諦めてはいない。
ロッティを追いかけつつ、しばらく飛び続けた先。
不意にロッティの飛行が、高速上昇からホバリングへ変わる。
「終わったっす……。
これ、別世界っす!」
「…………」
地表方向を向くロッティに、釣られるように視線を下に向けると、俺達のいた森の北には山々。
東の方には、海のような物が見える。
「どうしてこうなった……」
「……多分っすけど、歪みに巻き込まれた膨大な情報とエネルギーを安定化させるのに、ダンジョン程度の力場では足りなかっただけ。
だと思いたいっすけど……」
「……だと良いんだがな」
希望的な考察を口にするロッティに同意しつつ、その場合の労力と、
「だが、そうなるとこの世界の同定に掛かる時間は膨大だ」
「そうっすね……。
違うことを確認するなら簡単なんすけど……」
未知の物質があれば、自分達が元いた世界に近似の他の世界が癒着しただけだとすぐに判明する。
もちろん、あちらで発見されていなかった可能性も考慮しなくてはならんが、そこは悠久を生きてきた竜達の知識が使える。
だが、此処が元々の世界と同じだとすれば、違う物質がないこと・・・・を証明しなくてはならない。
100同じでも101番目に異なる物が出てこない可能性を否定する材料にはならないから……。
「けど、此処が自分等に巻き込まれた異世界だとすると……」
「……2つの世界の均衡を保つ手段を確立する必要があるっすね」
遠い目をするロッティに内心同意しつつ、どうすれば良いかを考え始める。
単純に世界同士が表層でくっついているだけであれば毎度お馴染みの隔離で良いが、どちらかの核のようなモノが相手世界に取り込まれた状態で、それを行えば片方の世界の消滅。
もう一方にもどんな影響が出るかわからない。
更に、今こうしている間にも世界崩壊の危機が迫っていない保証がない。
「……さてトルシェに会いに行こう」
「そうっすね……」
間違いなく怒られるけど、人海戦術と言う意味で、最も頼りになるのが次女様である。
加えて、
「他の眷属にも助力を頼まないと不味いっすね。
……姉上のことバレるっすよ?」
「……上手く誤魔化せんか?」
「無理っす!
他の姉妹でも起こせないような大事やらかしておいて、そんな都合良く行くわけないっすから!」
ロッティの怒声を聞きながら、ですよね、と心中で呟き項垂れるしかない俺であった。
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