第472話 蟲
「……昔な。
ジャングルを探検する人間が、様々な危険に出会う。
と言うやらせで人気が出た番組があるんだ」
「やらせ、つまりはフェイクっすね?」
「ああ。
そういうのは良くないって、此処に来るまでは思っていた」
「……そうっすね」
鬱蒼としてジャングルの中。
黒竜の状態で巨大な蜘蛛の死骸を踏みつける俺に、遠い目で同意する橙色の竜。
彼女の足元にも同じような蜘蛛が朽ち果て、緑色の体液がロッティの足を濡らしている。
「ぶっちゃけ、巨大な虫とかこんな面倒だとはな……」
「自分もビックリっす。
少し身体に穴を空けた程度じゃ動きも鈍らないとは……」
お互いに、先ほどの戦闘を思い出す。
トルシェに命じられてダンジョン化した森へ入り込んだ俺達は、数時間ほどジャングル内を一直線に進んだ……。
文字通り。
目の前に木があれば木を切り倒し、岩があれば砕いて、視界を確保しながらの荒々しい行軍をしていた。
そんな俺達へ向かってくる魔物は少なく、順調に中心部へ向かっていた。
……と思う。
だが、さすがに一筋縄ではいかないのがダンジョンであり、順調に進んでいた俺達2人に上から粘り付く何かが降り注いだ。
大量に降り注いだそれが何かは気にしないで、速やかに避けた。
此処がダンジョンである以上、侵入者に不都合な何かなのは間違いないのだから。
「キッシャー!」
しかし、それがダンジョン側の者からしたら、気に入らないのも当然。
奇妙な声を上げながら、大地へ降り立ったのは巨大な蜘蛛。
俺達の数十倍はありそうな……。
それらが俺とロッティ、双方の前に降り立ったわけだが、まあ特に感想はない。
たかが蜘蛛だと互いの得物を一閃して。
……殺せなかった。
身体の半分近くを切り裂かれた俺の相手も、上半身がぺちゃんこなロッティの相手も元気一杯に向かってくる状況。
「さすが蜘蛛はしぶといな」
「相手したことあるんすか?」
「もちろんない。
だが虫は頭を軽く潰された程度じゃ動くからな!」
小さい虫ですら頭を潰されて、しばらくは動く。
神経節と言う補助機関が付いているせいだが、それが巨大化するとなると本当に厄介だ。
「確かにそうっすね!
……グラァァ!」
「なるほど!
……ガァァ!」
同意しつつ、竜化を行うロッティを真似る。
巨体を用いた押し潰しの方が効果的だろうし!
しかし、
「気持ち悪!」
「ギュチョギュチョっすね……」
竜化しての押し潰しは思った以上に気持ち悪かった。
巨体ではあるが、構造はほぼ通常の虫と一緒なのか、踏み潰すと硬い殻を突き抜けた途端に粘度のある中途半端な固さの内部が脚に絡みつくのだ。
擬音で表すなら、グチャグチャとベチャベチャの両方が混ざった感じ。
ギュチョギュチョと言うのが程よい表現に思える。
そんなこんなで、今に至る。
「……まあ、一応死んだようで何より」
「……っすね。
けど……」
「……ああ。
これは人に対応出来る類いのダンジョンじゃない」
ロッティの言葉を引き継ぎつつ、遠い目をする。
虫、特に甲虫類や多足類と言うのは基本的な身体スペック比率において、哺乳類を凌駕する。
同じ大きさであれば、絶対に虫が勝つと言っても良い。
エネルギーを作り出すための酸素は直接各器官へ運び込まれるため、エネルギー効率が良く、作り出した体積に不釣り合いな大量のエネルギーをリミッター無視で、利用しても身体が壊れないように護る外骨格。
脊椎動物がパワードスーツを着て行えるレベルの身体スペックを素で発揮できるのが虫である。
そんな虫がうろちょろしているジャングルを、人間が探索するのは自殺行為だ。
「……まあ、俺達には関係ないけどな」
「……そうっすね」
そのまま竜形態で、探索を再開する。
先程よりも派手に環境破壊を繰り返しながら……。
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