第471話 頭を抱える国王 その3
「どうすれば良いんじゃ……」
「「「……」」」
謁見の間で頭を抱える国王に集まった臣下は、誰もが視線を余所へ向ける。
ケロック伯爵家の独立と協調することで、ケランド王国は、アガーム王国との賭けに勝ち、停戦による平和を手に入れるはずだった。
実際、その試みは上手く進み、アガーム王国から停戦の使者が遣わされた。
その時点では、互いに健闘を讃え合っていた貴族、官僚達。
しかし、停戦に際し、一切合切の交流を絶つことを求めたアガーム王国。
つまり、不法占拠者として攻撃はしない。
だが、国としても認めない。
と、玉虫色の扱いをすると言う明言である。
ユーリス達のサザーラントへの対応を参考にした形。
それは、武力衝突が互いのメンツと土地を目的としてきたこの世界では、行われなかった対応。
故にケランド王国の首脳陣は大いに混乱することとなった。
しかも、
「ラロル帝国も、我が国との交流を控えると言うし……」
これまで後ろ楯となっていたラロル帝国もアガーム王国に倣う対応を取ると言い出した。
これは予期出来たことなのだ。
マウントホーク家によって、ファーラシア王都とアガーム王都が直線で結ばれた今、ミーティアからラロルへ抜ける小国群の街道が寂れる危険性が出てきた。
しかし、アガーム王国から海へ出る海岸線が閉ざされれば、小国群を通る街道は必須。
当然、ラロル帝国内陸部の貴族達はこちらの政策を推す。
対抗馬であるはずの港町を治める貴族達は、シーサーペント被害で力を落としているので、ラロル帝国の世情が、ケランド無視へ傾くのも自明。
……総じて、ユーリスのせいである。
「……どちらにしろ、ラロル帝国からの交易船は期待出来ません。
かと言って、我が国の船舶数も心許ない状況です」
「サザーラント出征に輸送船を大量に送り出したのが、今更響いてくるか……」
宰相の身も蓋もない言葉に、肩を落とすケランド国王。
軍艦を殆んど持っていなかったケランド王国だが、ラロル帝国のサザーラント出征には、どうにか1枚噛みたかった。
強国であるアガーム王国に四方を囲まれているケランド王国が国力を増すには、ラロル帝国へ協力して、旧サザーラント帝国領の一部でも貰わなければ、衰退が目に見えていたのだ。
だが、ラロル帝国海軍に比べれば、規模も練度も足元にも及ばない海軍を出すのは、逆に不評を買うと輸送船を提供した。
遠征軍の指令が感謝するほど気前良く。
しかし、提供した輸送船も遠征軍の指令も戻ってこなかった今、ラロル帝国からは相手にもしてもらえない。
「……陛下。
約定を結んでおりますケロック王国に助力を仰がれては?
背に腹は代えられませんぞ?」
「既に断られた。
あちらも物資の不足が深刻故、逆に支援してほしいと申しておる」
貴族の1人が意を決して申し出る。
ケランド王国の国政に関わる者として、これ以上、ケロック側に借りを造るのは避けたい所だが、そんなことを言っていたら干上がってしまう。
しかし、ケランド王の返答は不可能である。
と言う物。
何せ、ない袖は振れないのだ。
「「「……」」」
「……1つ。
これはマーキル王国の行った一手ですが、民を守る手段が御座います」
より一層重苦しくなる謁見の間で、宰相が苦い顔で告げる。
それは、
「どういう方法だ?」
「このまま、戦争を続けると言う選択肢を取るだけです」
「何?」
現状の複雑な事態を打開する手段としては、あまりにシンプルな一手であった。
「戦争を継続するなら、アガーム王国は我が国を攻め滅ぼすしかありません。
そうなれば、占拠した土地の庇護者はアガーム王国となります。
無論、そこに住まう民を守るのも……」
「「「……」」」
それは、まさしくマーキル王国の行った一手。
ファーラシア王国は、それにより多大な労力を掛けて、旧マーキル王国地方を統治しているのも事実。
しかし、
「それは我々の首を差し出す代わりに民を生かしてもらうと言うことか?」
「……はい。
マーキル王国でも、ファーラシア側に付かなかった貴族の主だった当主は処刑や病死を迎えております」
一部、何処かの辺境伯が誘拐して、配下に取り込んでいるが、世間の認識は大半の当主が何らかの処分をされていると言うもの。
だが、
「しかし、我々の祖先は1度その手を使って、オドース侯爵家を騙しております。
それを赦されるとは……」
「はい。
ケランド王家の血を継ぐ者の排除は必須でしょう。
そうでなければ、降伏は認められないかと……」
つまり、それは王族は当然。
王家の血が入っている貴族の子女も処刑対象になるだろうと言う厳しい現実。
「「「……」」」
その事実に、更に重い空気纏う王侯貴族達。
ケランド王国は、繋ぎ止めのために王族と貴族の婚姻を頻繁に行ったのだ。
この場にいる者達の大半は王家の血が入っている。
これは家族と民を天秤に懸けろと言う厳しい言葉。
「……何でこんな目に」
1人の貴族が、ガクリと膝を付く。
自分や家族を守るために、国や民を護ってきたのに、それを護るために自分達が犠牲になる絶望的な選択。
それを強制させられようとしている彼らは心が折れつつあるのだった。
……なお、ケランド王国が幾ら挑発したところで、自軍の糧食が心許ないアガーム王国が、攻めてくるはずもなく、ケランド王国は多くの餓死者を出しながら存続する羽目となる。
これも海に面していたため、漁で飢えを凌いだ幾つかの街が残った影響に過ぎないのだが……。
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