第474話 身内に謝罪
「……お父様を見ていると、世界征服を企む魔王がどれだけ安全な存在かと思い知らされます」
「はい……」
向こうの世界で世界の危機を自覚した俺達は、直ぐ様、境界を通ってこちらに戻り、そのままミーティアへ。
上空から破壊の痕跡を辿ればあっさりと境界線まで戻れたし、山脈地帯も空を飛んでしまえば、あっという間にマウントホーク家ミーティア別邸に着く。
しかし、マナに事情説明しに行った所までしか、トルシェの行き先を知らぬ以上、マナに次の行き先を訊ねるしかなく、しかも、急ぎとなれば更なるトラブルを呼んだと詰問されるのが当然だった。
無論、下手な隠し立ては出来ない。
……そんなことをすれば、後が怖すぎる。
そして、出来る限り正しく説明した結果が、魔王よりも質が悪いと言う返答であった。
確かに、世界征服を企むと言うことは、支配と隷属の関係が成立すると言うことの裏返しであり、交渉の余地があると言うことである。
対して、悪意もなく世界を滅ぼされたら交渉の余地すらない。
他人事であれば俺だって同じ感想を抱いたはずだが、
「しかしな。
今回は不可抗力の上の不可抗力だぞ?
スキル付与施設なんて僅かな情報も残しておけないから、完全破壊は必須。
その結果、世界崩壊の危機が訪れて、それに対処したら、こうなった……」
俺の感覚としては、近所にあんな危険施設は遺しとけなかった。
故に正当な行為であり、これは不幸な事故だと主張する。
「1番最初が間違っています!
正直な話、山脈の南側からあの山奥の施設跡まで辿り着けるのなんて、冒険者でもトップクラスの実力者ですよね?
海側を封鎖すれば済んだ話でしょ?」
それなりの反論を用意していたのだが、あっさり打ち破られた。
確かにこちらからあの施設へ徒歩で向かうのは、なかなか時間が掛かるし、ミーティアやフォロンズへの魔物の大量流入から見て、山脈内は意外と魔物の多い危険地帯であり、海側からの侵入ばかりだったようだが……。
「だがな?
グリフォンのような飛行能力を持つ連中や霊狐達のような実力のある連中なら余裕で辿り着ける。
それは大問題だ」
あの施設の情報が明るみに出た時、スキル付与を最も狙うのは、眷属クラスの竜達。
連中にとって、容易に力を得られる施設は喉から手が出るほど欲しいはず。
竜族の基準は力の強さであり、独立するには力及ばずに眷属に甘んじている連中も多いはず。
そんな弱小の竜達だが、腐っても竜族である。
あの程度の山脈踏破は容易い。
……と言うのが、ロッティの受け売り。
同様に、
「力を求める竜の中には、同族食いに走る阿呆さえいるらしい。
連中なら地中深く埋めても掘り起こしかねない」
「……」
姉妹の中で1番同族に詳しいのが、ロッティである。
一部の強者を除き触らぬ神扱いのセフィア。
そこまでは行かずとも、恐れられていたテイファ。
内弁慶のトージェンに、中途半端な強さから絡まれやすく極力関わりを避けていたリースリッテ。
そんな面倒な姉妹達に代わって、一手に同族との関わりを担っていたロテッシオ。
怒り心頭のトルシェには頭を下げていたが、同族が関わる判断においては、ロッティの方が正確だと思う。
……まあ、隔離だけしておいて、異変を伝えるシステムを構築したら、解決だったのも事実だ。
それをしなかった理由は面倒だったからじゃないかと踏んでいる。
「……ロッティ様がそう言っていたのですか?」
「ああ」
「……ふう。
じゃあ、しょうがないですね」
「……」
溜め息と共に怒りを吐いて捨てるマナ。
悲報、父親である俺よりもロッティの方が信用されている件。
「トルシェ様は、ファーラシア王宮へ向かいましたよ?
レンターに事情説明すると息巻いてました」
「……」
マナの言葉に暗澹とした気持ちになる。
このタイミングでレンターと面会……。
それはオブラートに包んでいるだけで、頭に来たから監視体制を強化すると同義じゃないか……。
しかし、
「レンターが呼び捨てで、トルシェ達が様付けか……」
いつの間にか、呼び捨てにする程レンターへの新密度が上がっていた。
その事がショックである。
「いえ、レンターは近所のお兄さんみたいなモノで……。
第一、竜姫様方を呼び捨てにするお父様がおかしいんですよ?
あの方々は、世界の創世記より大地を管理する神にも等しい存在だと……」
「……ああ。
ミーティアはラロル帝国とトランタウ教国の影響が強いからな……」
ラロルは、アーランド経由でトルシェの影響下。
トランタウは、ロッティの影響を受けている。
必然的に、セフィア眷属の色が濃いのだ。
「……だが、その竜姫達はお前に身内として接して欲しそうだぞ?」
と言うか、完璧に身内扱いだろうな……。
これでファーラシア王国の王妃になった日には、中央大陸一の権力者誕生じゃないか?
「だから、困っているんです。
最上位の相手に身内扱いとか困惑するばかりじゃないですか!」
それについても、俺のせいだとばかりに睨んでくる。
確かにその通りだけど……。
「意外と乙女ゲームのヒロインとかもこんな感じなのかもな……」
仮に常識を弁えたヒロインがいればの話だがな。
「じゃあ、後はもっと偉い人が出てきて、ざまあされるだけですね……」
確かに、そうなればお気楽な立ち位置に戻れるかもしれないよね。
けど、
「多分そのもっと偉い人って、俺だけだと思う……」
「……」
俺の正直な感想に、頭を抱えるマナであった。
いや、仮にレンターとの付き合いが無くなっても、マウントホーク家次期当主と言う権力は持ったままだから……。
現実逃避気味だった娘に、内心呆れつつ顔には出さないように努める俺であった。
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