第465話 やり過ぎ注意

「『今より遠くここより早い場所。遥かなる原初にして全ての始まり。ゼロへ返れ』」


 黒竜状態の俺が権能発動の言霊を唱えれば、苔むした遺跡の周囲に陽炎のような歪みが立ち上る。

 遺跡と化していた古代の牧場跡地調査を終えた俺達は、その処遇をどうするか? で話し合いを行い、世界の狭間へ放逐すると結論付けた。

 俺としては、そんな大袈裟なことはしなくても、ロッティの能力で入れないようにするだけ、或いは俺が隔離状態にするだけで十分だろうと思ったのだが、


「私の超越付与は、想定外の要素が加わると壊れるんっすよ?

 明らかに遺跡と思われる施設に、下手な付与を施せば反って怪しまれて、是が非でも入ろうとするのが落ちっす!」


 と反対された。

 確かに一理ある。

 同時に、


「そんで、姉上の隔離結界も未来永劫、常時張り続けられる保証もないっすよね?」


 と俺の方へのダメ出しもある。

 それも正しい。

 俺が自身の能力を完全に把握しているとは言い切れない。

 なので、後腐れなく、世界の狭間へ放逐することで解決することにしたのだ。


 そんな具合にこうなった経緯を思い出しつつも、歪んだ空間の内側では、建屋が徐々に薄くなり、虹色の彩色を帯始める。

 ……さすがにサイズがでか過ぎる。

 世界の狭間から混沌とも言うべきエネルギーが、こちら側に漏れそうな穴が開きつつ……。


「あ、ヤバい!」

「どうしたんっすか?!」


 今後の展開を悟った俺の呟きを拾ったロッティが、問い掛けてくる。


「いやな?

 これ、このままだと混沌が世界を浸食して、この世界滅びるな……。

 と思ってな」

「……はい?」


 下手に言い繕う気もないので、事実を告げたが返ってきたのは、呆け顔の返事だけだった。


「……今は浸食空間を俺の能力で隔離しているから問題ないが、これを解除した途端に放逐した建屋分くらいのエネルギーが、こっちの世界へ飛び出してくると思う。

 どのような法則にも当てはまらない無秩序なエネルギーがな?」

「……不味いっすよね?」

「多分、安定するためにこの世界のエネルギーを取り込み続けて、運が良ければ安定するかもしれないが……」


 混沌としたエネルギーに秩序を与えるってのは、等価以上の膨大なエネルギーコストが掛かる。

 高々、建屋1つ分と高を括るのは怖すぎる話だ。


「……どうすれば良いんっすか?」

「天帝鱗を数枚もってこい。

 天帝鱗のエネルギーで中和する」

「上手くいくんっすか?」


 毒をもって毒を制すを素でやるような真似だが、公算は十分にある。

 混沌の力なんて言い方をすると凄そうだが、所詮はマイナスベクトルのただのエネルギーだ。


「不安要素は出力だけだ。

 そこは枚数で補う」

「……了解っす!」


 もとより俺の感覚を信じる以外の選択肢がないのだ。

 勝算があると分かれば動きが早い。

 チョークのような物を取り出したロッティが、地面に何かを書こうとする。

 ……そうだ!


「ついでにグリフォン達を天帝宮に預けてこい。

 多分、相手をしている暇はない」

「……結構ヤバいっすか?」


 この状況で逃げられたら、回収が出来んので天帝宮にいる竜達に手を借りる。


「……ヤバい。

 俺の隔離のエネルギーも喰われている。

 今は減った分だけ補充して均衡させているだけだ」

「急ぐっす!」


 理解が早くて助かる。

 隔離ってのは、斥力エネルギーだ。

 反発力を吸収とか頭がおかしいだろう?

 ……と理解が進んだらしいロッティは先ほどよりも大きなサイズで書き足して、八の字の輪郭のような歪な輪が出来上がった。

 しかし、


「それ大丈夫なのか?」

「大丈夫っす!

 重要なのは、"最初と最後が繋がっていること"と、"通れるサイズであること"の2つっす。

 この要素に超越付与を与えれば、故郷への道としては問題ないっす!」


 まあ、ロッティの権能に一番詳しいのはロッティ本人だしな……。

 あれこれ言うよりも、


「……便利だよな。

 一方通行とは言え、一瞬で本拠地に戻れるなんて……」

「……何処かの姉よりも不便っすけどね」


 純粋に羨望するが、ロッティ自身は苦笑を浮かべた。


「テイファのあれはな……」


 アイツは、ダイレクトに行きたい場所を繋げるからな。

 それに、


「それもあるっすけど、トルシェ姉と私は付与系っすからね。

 創造系の姉達が羨ましい時もあるっすよ?」

「元になるものが必要と言う点で、制限はあるか……。

 まあ良い。

 頼んだぞ?」

「了解っす!」


 そう言ってグリフォンを、自身の権能で造った天帝宮に続く穴へ送り込むロッティ。

 しかし、向こうに行くのは早いが、戻ってくるのは数日掛かるだろう。

 再び、待ち惚けの暇な時間が始まってしまった。

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