第464話 ラロル帝国の暁

「……と言うわけで、フォロンズ王国は混乱の極みとなっております。

 また、北方諸島内で島毎に別れて、責任の押し付け合いが始まった頃かと」


 ラロル帝城の一室。

 皇帝が近しい者と内密の話し合いを行う部屋では、先ほど帰国したばかりのベルトンが、フォロンズ王国と北方諸島の状況を報告していた。

 その内容に、


「……何と言うべきだろうかな?」

「……でしょうね」


 呆れ果てるラロル帝。

 報告したベルトンもそれに同意する。

 普通に、現状維持に努めていれば陥ることもないはずなのに、次々と悪手を打ち続けて混乱の極みへ至ったフォロンズ王国には呆れるしかないのだ。


 ラロル帝国海軍を襲撃するだけなら、中央の諸国はさほど騒がないだろうが、そこにはマウントホーク家の中心メンバーが乗っていたのである。

 今、彼らを失えばファーラシア、トランタウ及びアガームの3国は大混乱に陥る。

 その余波を受けるであろうジンバットとて看過できないだろう。

 その怒りがフォロンズに向くのは必然であり、未遂とは言え既に影響は出始めているのだ。


「あの国は外交について、消極的な状態をずっと維持してきてますから、今では外交音痴と言うレベルなのではないかと思います」

「……言い当て妙だな。

 確かに外交感覚がずれているとしか思えない。

 ……まあ、同じような国が南にもあるのだがな」

「と仰いますと?」


 音痴、致命的にずれた感覚だと言い切った皇帝は、同レベルな存在が南の方にもあると呆れ混じりに話す。


「ケロック伯爵家が独立して、ケラント側に付いたんだ」

「……はい?」


 兄から聞かされた内容に、脳の処理が追い付かない。

 ……あまりに想定外の出来事だったのだ。


「信じがたいよな?

 マウントホーク家がアガームと昵懇になれば、将来的には東大陸南部との貿易拠点になる素質がある港を持っている伯爵家が、劣勢のケラントに付くなんて……」

「……兄上の策略でしょうか?」


 不自然過ぎる内容故に、目前の皇帝を疑うベルトンだが、


「違う。

 我が国もファーラシアやアガーム王国と協調路線を敷くのだぞ?

 そんな焚き付けるような真似がバレたら、国が滅ぶわ!」

「まあ、あからさま過ぎますか……。

 逆に我が国を陥れようとする策略ですかね?」


 きっちりと否定されて、むしろラロル帝国を陥れるのが目的かと考えを改めるベルトン。


「分からない。

 アガーム王国の策略も考えられるが、不確定要素が多すぎるし、そのような危険を犯すと思うか?」

「……そうですね。

 ケロックを暴走させて、海沿いを全て王国が掌握出来れば言うことないでしょうが、ケロック領はアガームの穀倉地に隣接しているので、危険も大きい」


 ケロック伯爵家が、何を考えているのかが分からない兄弟は揃って首を傾げる。

 何せ、ケロック伯爵家を焚き付ける最有力候補がラロル帝国なので、自分達が無関係となると候補を絞る決め手に欠けるのだ。


「……まあ良い。

 ケロックの暴走は我が国に利益となるし、フォロンズや北方諸島と事を構えている状況の我が国を疑う者も少ないだろう」

「確かに。

 それに我が国は大陸南部への海路を塞がれた形になります。

 それを強調していけば、ケロック蜂起を我が国の仕業と疑う者も多くはでないはずですし……」


 実際、ラロル帝国を端から観ると、大陸沿いの海路が両方とも潰えて、中央大陸内では孤立を深めた状況と言える。

 海洋国家が交易路を失うと言うことが、国家衰退へ繋がることは、近年壊滅状態へ陥ったサザーラント帝国をみれば明らかだろう。

 しかし、


「……そうだ。

 しかし、我が国には直にマウントホーク家の領有船が利用する港が出来る予定。

 陸路を介しての大陸中央との繋がりが増すのだから、海路閉鎖は痛くない」

「……はい」


 ラロル帝国の上層部は、むしろこれから景気が上回ると確信があるのだった。




 あかつき =夜明けの少し前 =1日でもっとも暗い時間

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る