第466話 お怒りトルシェ


「……本当に姉上は姉上ですね」


 旧牧場跡地を消滅させてから数日。

 俺はトルシェの説教を受けていた。

 固い地面の上で、正座をさせられた俺。

 そんな俺に呆れた視線を向けるトルシェとリッテ。

 逆に全力で視線を逸らしているのは、今回の真の戦犯であるはずのロッティである。

 ……世界の危機に四姫竜の3人までが揃ったのだ。


 何故こうなった……。

 いや、もちろん分かっているんだけど、現実逃避くらいはさせて欲しい。


 ……この世界に残しておくのは、危険な牧場を世界の狭間に押し込んだまでは良かったのだが、拒絶で空間放逐するには、規模が大きすぎた。

 スキル付与に関係しそうな母屋と厩舎だけとは言え、小さな村なら収まるほどのサイズを世界から放逐したのだから当然なのかもしれないが、世界に穴が開いてしまい、そこから、混沌エネルギーが流れ込んできた。

 それに気付いた俺達は、俺が拒絶壁で浸食空間を隔離。

 その間にロッティが天帝宮から新しい鱗を持ってきて、調和に分化させて、空間の中心に放り込んで事なきを得た。

 ……事なきを得たまでは良いが、普通に地中深く沈める程度で済む話を、念のためと世界から拒絶して、挙げ句に世界崩壊の危機を招いた俺が怒られるのは当然らしい。

 しかし、


「……さすがにセフィアと同類扱いは」

「ああ?!」

「何でもないです……」


 自分勝手絶頂のセフィアと同類扱いを素直に認められず、それを伝えようとしたら、不良のような威嚇をされてしまった。

 ……度重なる心労は、竜の最高峰をチンピラに変えるほどの威力があるらしい。

 この近辺を中心にあちこちで、想定外の出来事が多発していて、ストレスが溜まっているとは聞いていたし、怒らせないようにしようと思っていたのに……。

 こういうフラグだけは、何故か正確に踏み抜く羽目になる。


「まあ、それぐらいにして話を進めるっすよ?

 ……これをどうするかっす」


 そこへ他人のような顔で、しれっと話題を代えてくるロッティ。

 責任追及が進めば、最終的にはトルシェの怒りが自分に向くと理解しているらしい。

 ……姑息な。


 しかし、目の前に顕れたそれは放置出来ないのも事実。

 中和され続ける強大なエネルギーを受け入れるために、世界は位相空間を造って自衛をしたらしい。

 つまり、


「見た目はただの森だが、本質的には少しずれた次元に存在する異空間。

 ……ダンジョンだよな?」

「……間違いなく。

 当然と言えば当然ですけど、こうも頻繁にダンジョンを造らないで貰えます?」


 俺の予想を肯定し、ついでに小言を付け加えるトルシェ。

 ……まあ、当然だよな。

 ダンジョンは1つ1つが、ある意味異世界のような物。

 そこからもたらされる物が、この世界にどう影響するかは使われ始めないと分からないのだから、ダンジョンが増えれば、それだけ世界の調和が乱れる可能性が増す。

 安定思考のトルシェには容認出来ない話だろう。

 なのに、俺がこっちに戻って来てから年1ペースでダンジョンが増えているのだから、トルシェが怒るのも当然だろう。


「……良いんじゃない?

 製造元に責任を取らせればすむ話でしょ?」


 頭を抱えているトルシェに対して、軽い口調のリッテ。

 その視線は俺とロッティに向けられている。


「……そうですね。

 ロテッシオがいない間の学園対応は、リースリッテに任せます。

 私は配下を使って周辺の影響調査をしないと……」


 あ、これは強制的にダンジョン探索させられる流れだ。

 しかも責めないだけで、ロッティが悪いと言うのも2人の中では共通認識らしい。

 そう気付いて、森へ視線を向ける。

 ……いや、少しでも責任を軽くみせようと森と表現してきたが、


「……この樹海を2人で、ですか」

「……骨が折れるな」

「2人ともダンジョンコアが安定しているか確認するまで、アタックしてくださいね?」


 見た目が相当深い樹海で、ダンジョンである以上はその数倍は規模があるだろうそれを見上げて、表層を軽く回る程度で済ませたいなと思っていたのがバレたらしい。

 最新部まで潜るように命じられる俺達2人。

 当然、


「……良いですね?」


 拒否権は存在しないのだった。

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