第456話 ファーラシア派閥の合流
「……あれ?
ケニー?」
火柱の方角からやって来たのは、頼みの綱であるマウントホーク家。……のご令嬢であった。
「マナ様……」
「この辺はオーガが出るから危険よ?」
まるで脅威を感じていない口調で、オーガ出現を語るマナ。
その様に、マウントホーク家当主が元々高位の冒険者であることを思い出すケニー。
『鬼の祠』で最初に出くわすフロアボスがオーガなのだ。
ならば、父親と共に『鬼の祠』に潜っていた彼女にとっても、オーガが見慣れた魔物であるのは自明だったと。
……まさか自分で倒しているとは、欠片も思っていないのだが。
「相手がオーガとのことでしたので、派閥の者を率いて討伐に参加しておりました。
ほどよい経験になるかと……」
避難要請を援軍要請と勘違いしていたとは言えず、経験になるからと誤魔化すケニー。
「そうなのね。
……あまり感心はしないわ。
此処がファーラシア内であれば、貴族の責務を主張できるでしょうけど、ミーティアである以上は下手なお節介だと言われるかもしれないわよ?」
「……確かにそれはあり得ますが」
都市防衛に参加する以上は、お礼を貰わなくてはならない。
でなければ、便利に使い潰されてしまうのが、世の常である。
だが、都市の行政府側からすれば、ただでさえ嵩む復興費用を少しでも抑えようとするのは自然であり、その最たるものが彼らのような"自主的に防衛に参加した者への報奨"である。
勝手にお節介をやいたと突っぱねられることになる可能性が高いのだ。
だが、
「しかし、身を守るためには必要なことでしたので……」
「そうね……。
私と一緒に行きましょうか?」
「え?」
下手に避難するよりも現状の方が安全であると言うのは事実であった。
思った以上にミーティア軍が弱く、オーガが都市内に浸透しているので、避難所に逃げたとしても、そこを強襲されれば反って危険なのだ。
右往左往する一般人に気を使いながら戦うよりは、今のように自分達だけで堅実に戦った方が安全なのだから……。
しかし、そこにマナ達が合流するとは思ってもみなかったのだ。
マナが学園のファーラシア閥の代表と扱われているとは言え、現在は休学中のため、敢えて危険を犯す必要もないと考えるのが道理。
しかし、
「自分達の安全のためにと言っても、状況的にケニー達が勝手に戦ったと言う事実は変わらないわ。
失礼を承知で訊ねるけど、その時にアッサム伯爵家の力で覆せる?」
「それは……」
マナが問い掛けたのは、非常に答えにくい質問。
ファーラシア西部に属し、距離的にもミーティアから遠く、伯爵家と言う高位貴族ではあるが特別権威があるわけでもない家柄。
ましてや、ケニー自身が跡取りではないので、アッサム伯爵家としてもあまり強い抗議をするとは思えないのだ。
……そもそも、将来は嫁に出る予定のケニー本人は、侮られても別段実害がないので、アッサム伯爵家がスルーするのも問題にならない。
しかし、
「この中には、子爵や男爵家の跡取りになる人や独立する男性もいるでしょ?」
彼らに取っては将来的にも、大きなダメージとなりかねないのだ。
その点、
「我が家はなんだかんだ言っても、ミーティアにも近いし、私が侮られるような事態は絶対に認められないわ」
「……確かにその通りですが」
辺境伯家の次期当主にして、次期王妃候補筆頭。
そんなマナを相手に難癖付けるのは、相当覚悟がいる話である。
最悪の場合、ミーティア滅亡もあり得る話なのだ。
「それに私はそこそこ強いのよ?」
「それは……。
……分かりました」
マナが強いと言う自己申告を真に受けたわけではないが、仮に別行動をしたとしても、マナはマナでオーガ狩りを続けるだけである。
ならば、共に行動した方が守れると考えたケニー。
彼女達は、こうしてマウントホーク家の実情を始めて体験することになるのだった。
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