第457話 狂狐狂乱
街の東へ進んだオーガ達は幸せである。
マナの炎によって、自らが死んだことに気付くこともなく絶命出来るのだから……。
では西側へ進んだオーガ達を待ち受けていたのは?
……質の悪いヤンキー爺である。
「ほっほう!
入れ食いじゃのう!
実にありがたいわ!」
磔にされたオーガ達の中心で好々爺の笑みを浮かべる賢寿。
ミーティアに置ける霊狐達のまとめ役を担う老狐ではあるが、若い頃は森を出て放浪生活をしたこともある不良老人である。
……同世代の霊狐は大半が同じような経験がある連中ばかりだが。
しかし、今ではフォックステイルのミーティア支店店舗責任者と言う立場であり、間違っても前線に出てきていい者ではないはずだが、
「しかし、ダンジョンのお陰で価値のある素材には事欠かんが、冒険者達は血や肉と言った廉価素材を持ち帰らんからな……。
足らずに困っていただけに、今回の騒動は助かるわい!」
持ち帰れる量が決まっているダンジョン探索では、価値の高いものが優先して持ち帰られる。
冒険者達も生活が懸かっているので当然だが、それでも、物造りにおいては必要な素材が足らないのは困る。
今回で言えば、オーガの血。
これが、上位の治療薬生成に使える人魚の血やユニコーンの血等であれば、常に供給不足で高い価値となるのだが……。
オーガの血は、金属と有機物の融合に際して、際立った効果を発揮する物。
如何せん、その使用用途は最高級のオーダーメイド金属鎧を造る時くらいにしか利用されてこなかった。
そんな物を造れるのは、ドワーフの匠レベルであり、滅多に需要がないので、各地の冒険者ギルドの保管所では不良在庫になっていることの方が多い。
じゃあ、冒険者ギルドから買い取ればともなるが、下手に大量に買い取って価格を引き上げられても困る。
「それにあまり古い物では効果もないからのう……。
いや、偽物が混ざっている可能性もあるやもしれんか?」
「……何の偽物ですか?」
丁度、血の貯まった壺を引き取りに来た若い霊狐の1人が、賢寿の呟きを拾う。
「……うむ。
冒険者ギルドに保管されているオーガの血じゃがな?
成果物を得られんかった冒険者が日銭稼ぎにゴブリンの血でも持ってきたんじゃないかと思うてな……」
「……さすがに鑑定して引き取るんじゃないですか?」
そのために高級で鑑定持ちを雇っているはずなのだが?
「オーガの血は魔物の血としか鑑定出来ん。
主様の解析なら別じゃがな……」
「そうなんですか?」
賢寿はそれを否定する。
「うむ。
オーガの血は他の魔物の血に比べて、優れた付与触媒となるが、それは他の魔物の血にもある効果じゃ。
故に、オーガの血だろうとゴブリンの血だろうと、鑑定結果は、普通の魔物の血となる。
せいぜい、優秀な鑑定士が触媒効果の強弱が分かる程度じゃな」
「……へぇ」
「実際、儂も若い頃にゴブリンの血をオーガの物と偽って窓口に納めた事があるが、バレんかったぞ?」
「何やってるんっすか!」
若かりし頃と言えど、霊狐の実力者であった賢寿である。
オーガ相手に引けを取るはずもない。
そんな賢寿がわざわざやったのは……、
「どう見てもオーガ討伐に実力が足りておらん冒険者が、オーガの血を納めに来るんじゃぞ?
もしやと思って実験してもおかしくあるまい」
ホッホッと笑うが、その顔は悪戯心が表情に出ている。
それを見て呆れた顔になる若い霊狐だが、突っ込む気にはなれない。
この世代のアクティブ爺達は腫れ物扱いである。
代わりに、
「しかし、何故オーガの血を集めているんです?
主様の配下にドワーフが加わった影響ですか?」
「別口じゃよ。
奥方様が手掛ける事業で、軟らかくしかし丈夫な金属が大量に欲しいとの事じゃ」
「……へぇ」
賢寿の回答に、若干の羨ましい感情を漏らしつつ、相槌を打つ。
故郷の森やその近辺で生活出来るユーリカの事業は保守的な若い霊狐達の羨望を集めているが、目の前の爺と同世代が邪魔をするのだ。
曰く、若い者が知見を広めんでどうする! とのこと。
自分達が興味あるからだろうが! と他の狐達にはもろバレであるが……。
オーガと言う脅威の侵入に大混乱のミーティア。
石で出来た荊木の中で呻くオーガ達を尻目に、賢寿達は今日も平常運転だった。
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