第437話 海の決まり 裏
「簡単なお話ですよ。
"勝った方が正義である"と言うそれだけです。
何せ、何処の国も目印のない海の上で現場検証等は出来ませんからね」
笑いながら、マナの問い掛けに答えるベルトン。
その内容は実にシンプルで分かりやすいものだった。
「……結局、海の上では無法地帯のままではないか?」
「いえいえ、力こそ正義だと法が謳っているのです。
その差は歴然でしょう?」
……海上が世紀末過ぎた。
まあ航海技術も未々未発達の世界だ。
下手に疑って、その間交易船との取引を止めたりすれば、他国との経済力が開くばかりだし、力がないのが悪いと割り切った方がマシと言うことか。
だが、
「……つまり~。
優れ~た戦闘能~力を~持つ人間を、皆が堂々と雇~うわけですね~。
そうなると~、誰も~危な~い橋は~渡らな~い」
「ええ。
誰もが用心棒を雇い、同乗させるようになりました。
それによって、下手に絡みにいくと自分達の身が危険になる状況が出来たのです。
海賊行為の目的は相手の積み荷ですからね」
……なるほど。
この条約前だと、スペースの無駄になるかもしれない用心棒を、乗せることに難色を示していた船乗りもいただろう。
だが力こそ正義だと言い切られたら、御守代わりの用心棒を乗せることに忌避感も減るわけだ。
そんでお互いに、優秀な白兵戦力が乗っていて辺り前になると、危険を犯す真似が減る。
ハイリスクハイリターンそのものだしな。
それにともない自然と偶発的な海賊行為が減っていく。
なのに海賊行為を繰り返せば、それは本職の海賊の証明でしかない。
「ですから海で海賊行為を行うのは、もっぱら専業兵士が乗った軍船であると言われるほどです。
とは言え、幾ら腕利きの船乗りと新鋭艦を備えても、風や潮の流れの影響で上手く旋回出来ないことも少なくありません。
その時はお互いに武力も含めた交渉があり、結果として海賊扱いとなることも理解して欲しい所ですな」
……確かに。
こっちも相手も旋回中だと、場合によっては相手が回避行動を、取っていないように見える可能性がある。
そこで運悪く接触すれば、互いの疑心暗鬼から海戦突入もあり得るか。
「ですので、船への投資が割高となることは理解してくださると助かります」
「そうだな……。
あ、これ、政略だな?」
遅ばせながらベルトンの思惑に気付く。
ファーラシアから、遠いラロル帝国で船を管理しようと思うと、辺境伯家から結構な数の人間を、送り込んでラロル側の貴族と協力関係を結ぶ必要があると分かった。
だが、人材が足りていないのが、辺境伯家の実情。
「ファーラシア貴族から新たに人を雇って、うちの金でラロル帝国に住まわせる。
帝国としては、自腹を切らずにファーラシア貴族との縁故が広がるし、それはファーラシア貴族も同じ。
仲介にマウントホーク辺境伯家が入っているので、うちとしても文句を付けれない」
貴族にとって、自家の影響力拡大は重要な本業の1つ。
有り余っている金で、それが為せるなら文句も出てこない。
……これでまた俺をダンジョンに缶詰する口実が増えた。
うん?
……よくよく考えるに、誰の仕業か予想が付くな。
何せ、ラロルの宗主アーランド王国には、トルシェの息が掛かっている。
疑うなと言うには状況証拠が重なりすぎていた。
と言うか、ラロル帝国の皇弟であるベルトンは、薄いながらもセフィア眷属の血筋。
これまで以上にトルシェの影響力が増すのは確定か……。
「閣下!
襲撃です!」
!
よろしくない未来予想に暗澹な気持ちだった俺を、現実に引き戻したのは、ドアの外から響く同乗の騎士の声だった。
「何処かの国の仕業と言うことか?」
「ええ。
恐らくは北方列島の手の者でしょう。
我が国とトランタウの航路復旧は、北方列島に取っては不利益ですので……」
予想通りと言うことか。
上空から襲い来るグリフォン相手に護衛艦が役に立つとは、俺も思っていなかったがね!
だが、襲撃を予想していたはずのベルトンの顔色が悪いのも気になる。
「旋回行動中で隊列の乱れた状況を狙ってくるとは……。
これでは護衛が役に立ちませんね。
しかし、船同士が不規則に動く旋回中を狙うとなると、向こうの練度は相当と見るべきでしょうか?」
「……なるほど」
護衛艦の脇をすり抜けて、旗艦に近付くのだから、かなりサイズの小さな船を向こうは使っている。
そうなると下手にこちらの船と接触すると、向こうが一方的に沈むわけだし。
普通はもう少しタイミングを考えるわな。
それとも、決死隊とでも言うことか?
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