第415話 今後について
非常に寒い王家の懐事情と、俺を不快にさせないようにしながらも、それを解消するための努力を知った。
だからと言って、娘の意思を無視しての婚姻を進める気もないので、基本的に他人事でエールを送るに留める。
それよりも問題は我が家を取り巻く状況整理。
ユーリカは王宮で仕事をしているので、自由にさせておけば良いとしても、マウントホーク家の本領にマウントホーク家の人間が誰もいないのは、外聞が悪い。
「……ルターまで戻って、アイリーン勢力とコンタクトが取れたら、ハーダル達と打ち合わせて本領の整備に掛かるかね?」
「……その前にお願いしたいことがあるのですが」
俺がルターで待っている間には来なかったが、さすがにそろそろ我慢の限界だろうと思うのだ。
南部大陸にも情報を流しているから、アイリーン勢力の締め付けも始まっている頃だろうし……。
「頼みごと?」
「……はい。
レッドサンド巫爵に私用の儀礼剣を数本、用立てて貰えるように口添え願えませんか?」
「ギーゼルに?
まあ、少し遠回りするだけの話だし、問題はないか……」
ファーラシア王国内であれば、ゼファートモードで飛んでいくだけだしな。
しかし、この時期に旧レッドサンド王による儀礼剣ね……。
「助かります。
では私と宰相に、ジューナス卿、先生の分。
後は宝物庫の予備で、5本ほどお願いします。
意匠はそちらに任せると伝えていただいて構いません」
「……やっぱり。
全権特使用の身分証明か」
「ええ。
今の時点でも、南大陸に獣人勢力圏と交易交渉が始まっていますし、今後は亜人勢力圏との外交も視野に入れることでしょう?」
事前に明確な身分証を用意しようと言う腹積もりのようだ。
逆にそういうモノを用意してくれれば、レンターの代理人である俺の、更に代行で豊姫とかを派遣できるので、こちらも仕事が楽になる。
「そういうことなら、ギーゼルに早めに仕上げるように指示しておこう」
「無理は厳禁ですぞ?」
「……もちろんそんなことはしない。
ただ、ドワーフに下手に任せっぱなしにすると納得いくまで造り直すかもしれないだろ?」
ドワーフが臍を曲げるような真似はするなと言う、ジンバルに笑って返す。
俺だって無茶振りする気はない。
必要な制動を掛けておくだけである。
「……そうですな。
せめて年内に納品していただきたい。
私は来年の夏頃に南大陸に出向く予定ですので……」
「宰相位のジンバルが?」
「……ええ。
さすがに海を隔てた先となると私くらいが赴く必要があります。
まあ、地均しは始めていますので、半分休暇ですがね?」
……ああ。
条約の調印式とかに出向く訳だ。
と言うことは今頃、外交関連の貴族は青色吐息だろうな……。
「私が代わりたいくらいだけどね?」
「陛下の玉体に何かあってはことですので……」
うん。
今、レンターが崩御はもちろん、子供が造れない身体になるような事態でも大問題だ。
……特に俺が!
絶対にやりたくもない王位簒奪をしなければならなくなる!
後継筋に当たる王権の継承者が断絶する訳だが、傍系筋も借金まみれの王家を継承する気はないだろう。
そもそも、戦友であり生徒であるレンターだから、莫大な借金をゆっくり返すことを認めていると言う側面がある。
俺がレンターの信用払いを許すと言う"我が儘"を通しているに過ぎない。
……じゃあ、他の人間が王家を継承するなら?
例え、親しい間柄であるジューナス翁であっても、借金の全額一括支払いは必須条件になる。
そのためには、直轄地の支配権や国政の統治権を誰かに売り渡すしかない訳で、その売り渡す相手が俺しかいないのであれば……。
ファーラシア王家を象徴的な扱いにするか、それとも完全に政権交代をするかは状況次第だが。
……行政権限が俺に委ねられるのは確実。
「よし!
レンターが王宮から出なくても良いように、きっちり指示しておこう」
自身に降り掛かるかもしれない火の粉を認識した俺は、ジンバルに力強く頷くことにした。
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