第414話 色々と配慮する立場は大変だな。(他人事)
「と言うわけで、娘さんを私にください!」
「前から言ってるだろ?
本人を口説けと……」
借金のカタに娘を取られる話は古今東西で聞くが、借金している側が借り主から娘を貰おうとする話はさすがに前代未聞である。
確かに、俺の持つ債権が次期国王となる孫に移れば、王国の借金はチャラだがな。
「やっていますよ。
毎月のように恋文を書いて贈っています。
返信も貰っているんですよ?」
「……」
「……王宮の財政事情から優先度の高いご公務として、許可を出しています」
「……」
前にもあったが、この世界での手紙のやり取りは非常に金が掛かる。
紙だって決して安くない。
そんな状況で毎月ラブレターなんて出してしたら、簡単に小遣いが失くなるだろうと思ったが、まさかの公務扱いだった。
必死過ぎて呆れる話ではあるが、レンター達は真剣なのだろうと、茶化すのも控える。
だから、俺を味方に付けて外堀を埋めようとしたのだろう。
「……まあ、がんばれ」
「……ですよね」
だが生憎と、俺にとってはマナが最優先だし、次いで自領民の生活。
他領の人間を心配するのは最後の最後である。
故に、投げやりに応援だけしておくに留めた。
それはレンターも心得たもので、苦笑混じりのため息を1つ。
「……さて、財閥貴族となったユーリカ夫人ですが、同時に王都の観光事業責任者として、新設役職を請け負って貰いました。
そちらに必要な資金の提供を辺境伯家より受け、イソヤ伯爵家が功績に応じた報奨金を得ておりますので、そちらもついでにご報告いたします」
「なるほど、財閥貴族は法衣に近い性質を帯びていると言うわけだな?
まあ当然か」
公共性の高い事業で儲け出した人間を国が囲う目的なので、半分法衣染みているのも自然だ。
だが、
「別段、報告するほどのことか?」
「念のためですよ。
イソヤ伯爵家の財産と辺境伯家の財産をしっかり分けておくための……」
言っていることは分かる。
同じように辺境伯家の金庫に入っていても、別の家の財産になっている物はある。
「要はタカヤマ伯爵家の扱いと同じだろ?」
「ええ。
シュール殿やリッドが弁えていないはずはないと思いますが、念のためにですね」
苦笑気味のジンバル。
どういうことだ?
「言っただろ?
先生が理解していないはずがないと……」
「失礼しました。
しかし、意外と多いんですよ?
ギュリット家なんて特に酷かったようです」
……ギュリット。
辺境伯家としても守護竜としても関わりが深いはずなのに、まるっきり存亡に関わることもなく消えていた南部閥か。
ファーラシア王家よりも古い家柄だったようだが……。
「そのせいで影響力を落としたんだったな。
怨みも買っていただろうし……」
「ええ。
レッドサンドとのにらみ合いから王国側への参戦、と言うのも口実でしょうね」
レンターの言葉にジンバルが呆れて返すが、主従で完結しないでほしい。
「内輪の話をしていました、すみません。
先生は直接関わっていませんでしたので、分かりにくい話かと思いますが、南部の西寄り領地の貴族が意外とギュリットに味方しなかった話は覚えていますか?」
「……聞いたような聞かなかったような?」
俺の視線に気付いたレンターに曖昧な答えを返す。
あの時期はゴタゴタしていたので、小物の事情等、さして眼中になかったのだ。
「……まあ、東部にはさほど影響しておりませんので」
第一次サザーラント戦役後の事後処理中にフワッと聞いた気もする程度の話である。
「もちろん、ファーラシア貴族になったから、ファーラシア王家を優先したと言う建前等も事実でしょうけど、あの辺りの領主はギュリット家の遠縁に当たる家柄ばかりなのです」
「……我が国へ帰順したギュリット家は、先祖の恩を盾にして大公位を望んできたのです。
ファーラシア王国は、自前の武力と北方の支援でギュリットから独立したのであって、ギュリット王国が独立を容認したわけではありませんのに!」
「……まあ、ダンジョン探索の初期費用を貸したのは事実ですし、旧主に気を使わないのは外聞も悪いので、本家となる侯爵位に複数の爵位を送って優遇感を演出したようです」
……恩義に篤いと言う評判は、外交的には良い看板だしな。
「ですが、さすがあのギュリットだけのことはありますよ?
与えられた爵位を分家筋に押し付け、辺鄙な土地の管理を任せて、自分達は良さげな領地だけを管理する暴挙に出ました」
「……」
いや、暴挙にも程があるだろう?
やりたいことしかしませんって、子供じゃあるまいし……。
「……まあ、そんな前例があれば忠告しておきたい気も分かる。
だが、タカヤマもイソヤも領地貴族化する気はないぞ?」
怪しい雲行きに、警戒しつつも断言する。
厳密には、タカヤマ伯爵家は領地貴族と言っても良い気がするが、建前は法衣なのだ。
イソヤに至ってはユーリカの所有する爵位だし。
「もちろん、それで構いません。
これは将来への布石ですので……」
「……辺境伯家の勢力を削ぐためではないのか?」
てっきり辺境伯家に領地割譲の命令を出すのかと思ったのだが?
「……これは陛下とマウントホーク令嬢が、上手く婚姻を結ぶことが前提ではありますが。
王家の状況から、国王と辺境伯位を一時的に兼任していただくことになります」
それはそうだろうな。
自分の借金を自分の資産で支払う、と言う建前の元に王家の借金を帳消しにしないと意味がない。
だが、
「かと言って、子供がお一人と言うのは……」
「……それは困るよな。
幾ら最高の医師や教師を揃えても万全の後継者が育つ保証はない」
「しかし、新たに産まれてきた御子様方を不遇の立ち位置に追いやるわけには……」
「……不遇ね」
この国では公爵位が功績による一時的な爵位だから、実績なく与えることが出来るのは、精々法衣枠の男爵や子爵が限度。
王家の血筋で、しかも嫁の実家は筆頭貴族のマウントホーク辺境伯となれば、下手な状況にしたくないのも分かる。
嫁入り婿入りを望む家は多いだろうが、逆に希望のままに、他家に送るには子供の数が足らないはずだし……。
「ああ、それで伯爵家と言う訳か?」
王太子以外の子供に伯爵家を相続させるための方針だと、
「そうなります。
ましてや、陛下にはご側室も迎えていただくわけでして……」
「……やっぱり側室はいるか?」
念のために確認をするが、俺自身もその必要性には理解がある。
君主制国家である王国には様々な式典があるが、その中には王や王妃が行うには、格式の低い物もあったりする。
かと言って、王族が行う必要性はあり、そのような場合に主催者を担うのが、王と王妃以外の王族の仕事である。
子供や兄弟がいればそちらに任せる訳だが、レンターにはそれが出来ないので、側室の仕事とする必要がある。
もちろん、公爵位を得ているジューナス翁に頼むことも出来るが、この国の公爵は外交に置ける王族の代理人でもある。
国内の面倒まで押し付けるのはオーバーワークも良いところ。
「マウントホーク卿には申し訳ないと思っておりますが……」
「別にまだマナが王妃になったわけではないから、俺が文句を言うのは筋違いと言うものだ」
下手な会話で、俺がマナの婚約を後押ししたと吹聴されても困るので、無関係を装う。
しかし、結婚してもいないのに子供の将来まで考えないといけないとはね。
本当に王族と言うのは大変だ。
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