第411話 都市近接型リゾート
俺が天帝宮から帰るウィルミナとアイビスに随伴して、アイビス領に入り。
アイビス配下の手を借りて海を渡り、更に獣人勢力圏を横断。
マーキル地方から南進してやっと王都ラーセンに辿り着いたのは、天帝宮を出てから半月後。
転生廟へ向かうことを決めてから、1月半が経過したくらいの時期である。
徒歩旅行の同行者であるリッテがファーゼル領に向かうとのことで街門前で別れ、1人入街した久方振りの王都の北口には、
『全力で寝る! 全力で遊ぶ!
都市近接型リゾート ゆ・う・り・か・リゾート!
直行馬車乗り場』
『忙しい日常に、ちょっとしたご褒美を!
都市近接型リゾート イソヤ温泉物語!
直行馬車乗り場』
と書かれた2つの登りが設置された空き地があり、馬車の馭者席には初老の獣人が座っている。
うちの妻の名を冠する"ユーリカリゾート"に、ユーリカの旧姓である"
一昨年のオークションで言っていた王都近接の不人気領地に、リゾートを設置する計画がいつの間にか、始動していたらしい。
「おお!
主様!」
「お久し振りでございます!」
呆れていた俺に気付いた初老の獣人、の振りをしている霊狐の2名が声を掛けてくる。
「……ああ。
久しぶりだな。
それでこれは何時から運営されているんだ?」
「こちらの乗り場は先月からでございますな。
宿自体は2ヶ月ほどになりますでしょうか?」
「そうか……」
と言うことは、俺への伝達が成されていないのもしょうがない。
オープンでゴタゴタしている時期に、俺は戦場や戦後処理でてんてこ舞いだったはずだ。
しかし、これをやると言う計画書すら受け取っていないのは問題だ。
いくら
まあ、家宰であるシュールが対応をしているだろうし、事業展開して経済を回しているのだから情状酌量の余地もあるだろうと思う。
それよりも、
「……それで?
2つの施設を運営しているのか?」
「はい。
若者向けのレジャーリゾートとして、フォックレストの南西にユーリカリゾートを展開し、フォックレスト北西側には落ち着いて宿を楽しむ年配層向けのイソヤ温泉物語を展開しております」
より気になる点を訊ねると、住み分けのために2つの系統リゾートを運営していると返答を得る。
……つくづく、こういう点で抜かりない奥様である。
俺なら気にも止めないで、大型リゾートを設置するぞ?
「……なるほど」
納得している俺を余所に、チラチラ周囲を気にする霊狐達。
「……失礼いたします。
そろそろ、リゾート行きの集合時間でして……」
にわかに人が集まってきていたのは、そういう訳か。
だが、気になることが1つ。
今は昼を少し回ったくらいの時間帯。
北門である此処から昼過ぎに出立して、西門を出た先にある宿へ向かうなら、王都内をそれなりの速度で爆走する必要があるはず……。
そんな無茶を王家が許すのだろうか?
……まあ、ユーリカのことだ。
何らかの対策はしていることだと思うが。
「安全には十分注意してくれよ?
辺境伯家の者が人をはねた等と噂が立てば大問題だ」
「そちらはご安心下さい。
街壁の上を専用路として使用しておりますので、事故の心配はありません」
俺の要請に応えた初老霊狐の指先には、街壁に登れるように緩やかなスロープが見える。
……まあ、街壁は外敵の侵入を防ぐ都合上、結構な幅があるのは事実だが、まさか壁の上をハイウェイにしてしまうとは。
「良いのか?
これ?」
「……どうでしょう?
しかし、我々以外にも王都住人を乗せた馬車が走っておりますので、良いのでは?」
……そりゃあ、平時の外壁何てただの壁だけどな。
とは言え、それを交通網として利用するのは、色々と問題があるんじゃないのか?
俺の問い掛けに応える霊狐2名も若干不安そうだし……。
「まあ良い。
これから王宮に向かうから色々と訊いてくる。
手間を取らせたな」
「「いえ、お気を付けて」」
「ああ」
こうして、ラーセンが妙に近代化が始まっている事実に、不安を抱きながらも王城へ延びる道へ歩みを進めることになった。
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