第391話 真のトラブルメーカー

「で?

 テイファに唆されて、リースリッテの復活をしたと?」

「唆すと言うのは心外だ。

 竜族全体が混乱しているこの状況に、姉妹の欠員は問題だろう」


 こめかみを押えながらぼやくトルシェに、隣で正座中のテイファが反応する。

 連座で反省させられている身としては、俺はテイファとトルシェの間で、意志疎通があったと思っていたと釈明したいのだが、それを言おうものなら相談しろと、今以上に怒られるのが分かっているので、沈黙を選ぶ。

 ……逆にテイファのメンタルに感心するぞ。


「……確かにリースリッテがいうのといないのでは大分違うわね?

 お馬鹿2人の監視が行き届かないわ。

 だけど、姉上を出力中の天帝鱗に近付ければ、こうなるのは分かるでしょ?

 私達以下の魔力しかないゼファートの外見が、吹き飛ばされるのは、目に見えていた話じゃない!」

「それは……」

「せめて、ミフィア姿で行きなさいよ!

 拒絶能力ならこんな問題にならなかったのよ?」


 今のトルシェに反論しようとするなよ。

 余計に長引くじゃないか。

 等と内心でテイファに毒づきつつも、雷が通り過ぎるのを待つ。

 今回はメインがテイファだから、そろそろ治まるはずなのだ。


「…………。

 まあ今後のことを考えるべきね」

「ああ。

 それで……」

「そうね。

 それだけど……」


 トルシェの鎮火を感じたと同時に口を開けば、リッテと重なる。

 我関せずと、近くのテーブルで余所見していた癖に……。


「リッテ。

 良い案があるのか?」


 下手に俺が持ち掛けるよりも、情報を持っているであろうリッテに振る。


「……宝物庫に大姉様の鱗が何枚か残っているでしょ?

 それを使えば、どうにかならない?」

「なるほど」

「……それしかないわね」


 簡潔に納得する俺に対して、渋々顔のトルシェ。

 鱗を取り込んで、『変身』能力に分化させれば良いのだが、トルシェとしては俺が厄介な能力を得るのが、嫌なのだろうと推測する。


「テイファ。

 宝物庫から天帝鱗を1枚持ってきなさい」

「……仕方がないな」

「俺が取りに行こうか?」


 嫌々そうなテイファに代わって直接行っても良いけどと提案するが、


「その格好で天帝宮を歩き回る気ですか?」

「……確かに」


 さすがに宝物庫には、テイファの能力でも直接入ることは出来ない。

 ここへ飛んできたようなショートカットが無理なら、人目に触れるリスクは避けるべきだろうが、


「……テイファ。

 迷うなよ?」

「……」


 普段なら近付かないエリアに、方向音痴テイファを遣るので、確認を兼ねて話を振れば、愕然とした表情で固まる3女。


「……リースリッテ。

 連れて行きなさい」

「……ええ」


 テイファの様子に、呆れた表情で溜め息を吐いたトルシェが、末の妹に指示をだす。

 同じく呆れ顔のリッテが頷いて、テイファを連れて退出する。

 ……テイファに聞かれたくない話でもするのかね?


「…………さて、姉上。

 今回はご迷惑をお掛けしました。

 まさかテイファがあのような行動に出るとは……」

「転生廟の件か?」


 テイファの気配が消えたのを確認して、謝罪をするトルシェ。

 俺を叱ったのも、やはりポーズだったようだ。


「ええ。

 自分で転生廟に納めるだろうと思っていたのに、まさか姉上に頼んでリースリッテの復活を早めるとは思いもよらず……。

 今以上に姉上への注目が高まることでしょう。

 危険回避のためにより慎重な行動をお願いします」


 頭を下げるトルシェ。

 しかし、


「確かにやらかしたことは事実だが、結果的に俺が『変身』能力を得ると言うリスク軽減に繋がってもいるんだよな……」


 今回の1件がなければ、俺は追加の能力を得ようとは思わなかった。

 姉妹達と比べてさえ、セフィアは能力が高過ぎるのだ。

 お陰で、いつもどこかに隔離があった。

 だから、妹達はセフィアに悪戯を仕掛けたのだろうと思う。

 どこまでは逆鱗に触れないのかと、確認を兼ねて……。

 皮肉な話だが、視野が狭くなった分。

 その狭い世界がよく見えるようになったわけだし、再びそれを捨てたいとは思えない。

 しかし、


「結果良ければと言う話になりますがね?

 最近、実は本当のトラブルメーカーはあの娘じゃないかと思うんです」

「まあ、ここ連日の騒動はテイファに端を発しているからな……」


 最近起こったトラブル。

 ダンジョン生成、宣戦布告騒動と転生廟騒ぎ。

 ……テイファもそうだが、俺の短慮も原因だな。

 ここは、


「直感によるものかもしれないが、テイファの起こす騒動が、最終的に良い流れを作っているのも事実だし、少し様子を観るようにしても良いかもな?」


 下手な事実追及が起こらないように、予防線を張っておくことにする。


「……そうですね。

 困った事態になったら、姉上もまとめて叱り付ければ良いですし……」

「……え?」

「……気付いていないんですか?

 あの娘は昔から問題を起こす際に、姉上を巻き込む癖があるじゃないですか」

「……」


 予防線を張ったと思ったが、どうやら、テイファはその予防線の内側に、既に侵入していたらしい。

 護衛兼監視をロティと交換出来ないかな? 等と考えていると、扉を叩く音が聞こえる。


「……トージェン。

 リースリッテです。

 天帝鱗を持ってきました」

「「?」」


 何故か同行者のリッテが天帝鱗を持ってきたらしい。

 トルシェと顔を見合わせて首を傾げる事態であるが、


「……入って。

 詳しい情報を聞かせなさい」


 とにかく情報収集が第一である。

 同じ判断に至ったらしいトルシェが、入室を促すと、疲れた表情のリッテがやって来る。


「……テイファは、盗まれたらしい天帝鱗を捜すと言って旅に出ました。

 多分、当分帰ってきません……」


 ……なるほど、理解した。


「最終兵器みたいなものだから、慌てて捜すのは分かるけど……」

「……姉妹の誰かが持ち出したと思わんのか?

 あの宝物庫から物を盗むってかなり至難の技だろ?」

「……そもそも20枚以上保管されている天帝鱗を少ない気がすると言って、捜しに出ていくことが理解出来ませんよ!」


 以上、トルシェと俺にリッテの感想である。

 仮に盗まれたとして、昨日今日の話ではないはず。

 今日まで騒動が起きていないんだぞ?

 絶対、取り越し苦労だと思う。

 ……まあ、テイファの直感力はバカにならないのだが。


「……最近だと、東大陸の砂漠緑化計画で、1枚貸し出しているわよね?

 それを届けたのも、緑化に調整したのもテイファだけど、あの娘忘れていない?

 それ以外にここ300年で宝物庫に入った者はいないわ……」


 宝物庫自体が、トルシェの傀儡である。

 ……ログ機能くらいはあって当然だろうな。


「……多分、忘れているんじゃないかと思うけど、念のため天帝鱗の枚数を確認してくれるか?」

「……そうですね。

 休眠中とは言え、ゴーレムでは確認出来ないので、これからやって来ます。

 ……絶対無駄だと思いますけど」


 疲れた顔で入れ違いに去っていくトルシェを見送りながら、俺は自分の問題解決に動く。

 ……絶対、本当のトラブルメーカーはテイファだと確信しながら。

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