第390話 リースリッテの復活
何の変哲もない石室のような空間。
だが、魔力を介して空間を視れば、膨大なエネルギーが石室中央から吹き出し、室内を巡りながら徐々に石の隙間から、外へ流れていくのが見える。
吹き出し口となっている中央部には、ひび割れた岩に、金色にも銀色にも見える不思議な鱗が突き刺さっている。
……天帝鱗。
前世の俺の鱗だ。
「……つくづくとんでもない」
鱗から溢れ出る力は、現在の俺と同等レベルの出力。
何百枚とある鱗の1枚で俺と同エネルギー量とか、怪物としか言えん。
今の時点でも俺は、真竜上位クラスのはずなのだが?
「……と言うか、別に安置しておいても下位竜なんて怖くないだろ?
絶対に……」
薬も過ぎれば、と言うやつで天帝鱗から溢れる生命属性の魔力が身体を通り抜けた際に、自身の生命力と親和融合し、そのまま外へ抜け出る。
結果的に、生命力を直接奪われる状況が生まれている。
しかも、本来なら身体に害のない属性のためレジスト出来ない。
たまにゲームで見掛けた常時ダメージエリアにいる状態だな。
生命力の湧き出るエリアだと言うのに、草の1本も生えていない寒々しい空間となっている。
「同じ生命属性の俺でも、生命力を奪われるんだから、相当ヤバい。
逆に心臓の有無がはっきりする空間ではあるがな」
俺が転生廟の中に居れるのも『竜の心臓』から放出されている竜気が、常に生命力と馴染んで、肉体を再構成しているお陰だ。
心臓がない竜であれば、後は根性でどれだけ耐えれるかの問題。
直接世界と1つになる全能感に身を委ねれば、後は世界に融けてなくなるだけ。
「逆にこの空間で、数日精神を保っていられれば、『竜の心臓』が生成するんじゃないか?」
"心臓"とは言うものの、本質的には魂の器のような物だ。
本来あやふやなそれが、確固たる物として固定出来れば、心臓と呼ばれるものと同じこと。
……ああ。セフィアが与える『竜の心臓』も同じような原理だな。
「……さてと、さっさと復活させるかな」
天帝鱗の横にリッテの"心臓"を配置する。
これだけでも、じわじわと身体の構築が始まるが、強いエネルギーに曝されている影響で、逃げる生命力も多い。
ここからが、俺の能力による補助。
天帝鱗とリッテの心臓の間に、エネルギーの壁を作り、リッテの心臓周辺で生命力が滞留する状況を作る。
……理屈は簡単だな。
「エネルギー量がヤバいわ。
これが高々鱗1枚のエネルギーとかふざけすぎだ!」
濁流を板切れ1つで抑え込んでいるような状況。
少なくとも、テイファ達の予想とは違う力の使い方だとは思う。
俺もここに入るまでは、周囲の生命エネルギーを集めて、注ぎ込むみたいな予想だったのに、今やっているのは防波堤維持である。
「だが!」
心臓を中心に靄が集まり、それは徐々に半透明なリッテへ形を変えていく。
形が定まれば、後は密度を増すように色が濃くなっていき、同時に質量感を伴う。
「もう少し!」
ここまで行けば防波堤も必要ない気がするが、下手に途中で手を抜いたことを姉妹に告げ口されても困るので、最後まで状況を維持。
……と考えている間に、
「キャア!」
小さな悲鳴を上げて尻餅を付くリッテ。
存在の固定が完了したらしい。
「……おかえりってのも変な話か?」
「……まあ、他の生き物相手なら甦ったわけだし、それでもいいけど。
って! 大姉様!」
うん?
間違っちゃいないが、
「一応、この姿の時はゼファートと呼んで欲しいな?」
と笑う。
男の姿で、セフィア呼ばわりは困るから……。
「やはり、ミフィア形態でもないんですね?
……とにかく、転生廟から早く出ましょう。
トージェンに相談しないと!」
大慌てのリッテに嫌な予感が広がる。
……天帝鱗と馴染みすぎた空間で、人間にすぎない鷹山祐介の外見がどれだけ持つのか?
考えたら分かる話だったし……。
せめて、トージェンとロティに相談してから、やるべきだったと後悔しながら、リッテに続いて転生廟を脱出したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます