第387話 再び、ルシーラ王国
「お待ちしてましたぞ!
マウントホーク卿!」
ハーダルから馬車と従者をを借りて、ルシーラ王国に入ると、国王ギンダンが峠の前に駐留して、歓迎をしてくれる。
前回の不本意感丸出しの歓迎とは大違いであるが、ある意味必然だろう。
「心よりの歓迎に感謝します。
また先日の急な帰郷の無礼を謝罪いたします」
「いえ、サザーラントとの戦争に巻き込まれたとのことですので、致し方ありますまい。
今度はゆっくりご滞在頂けるのでしょう?」
建前は重要。
規模的にはこちらが上でも、相手は国王でありこちらは辺境伯なので、しっかりと礼儀を通しておく必要がある。
「そう言って頂けると助かります。
この間の謝罪ではありませんが、サウザンポート港の使用に関して、便宜を図れるようにゼファートに依頼し、それに関する調整をしていますので……」
「それは困った。
急な帰郷の無礼で、それほどの権利を得たとなれば、私は強欲な男と思われてしまいます」
「いえいえ、ランタラン候から伺っていますよ?
ルシーラ王国はセントール群島に伝手があると。
であれば、この程度の利権も謝罪になるかどうか……」
「……」
困り顔で沈黙するギンダンに、こちらの意図が伝わったと理解する。
謝罪と称してサウザンポート港の使用権と言う莫大な利益を支払うから、セントール群島の海賊に俺達に出来るだけ便宜を図れるように手配しろとお願いしたわけだな。
ギンダンの頭の中では、忙しなくそろばんが弾かれていることだろう。
対サザーラントでは共闘する味方だが、南大陸との交易に関しては競合相手だからな。
牽制の1つくらいは必要だろう。
「まずは王城にご案内してはいかがでしょう?
辺境伯様も先日まで軍事行動をなされていたわけですし……」
「そうだな」
「お気遣いに感謝します。
我が家の馬車も同行しているようですね……」
ギンダン王が沈黙している状況で、騎士団長が助け船を出す。
向こうはこれから徹夜で会議かな?
と、笑いながら同行していた辺境伯家の馬車に乗ろうとして、身体を固くする。
何故?
「……トルシェ?
何を怒っているのかな?」
気を抜いていたタイミングで、ネミアの中身がいきなり怒気を孕んだトルシェの不意打ちは酷い。
トルシェが無言で、座席を指差すので大人しく座れば、無言のままに馬車の扉を閉める。
俺には『この扉を潜る者、一切の希望を棄てよ』と書かれているように感じるのだが、
「……姉上。
リースリッテが殺されました」
「……そうか」
トルシェの言葉で肩から力が抜ける。
妹が殺されて怒っていただけのようで、俺がやらかしたんじゃなかったらしい。
妹を殺される方がやらかして怒られるより、マシと思っている辺りは、セフィアに近付いているのだろう。
「リュミニル眷族による一方的なリンチです。
現在テイファを向かわせましたので、直ぐに決着も着くでしょうが、一応ご注意ください」
「……間接的に俺のせいかな?」
テイファが向かって決着ってことは、リュミニル眷族を壊滅させると暗に報告しているのだが、それに驚きはない。
竜種にとって、自身の眷族を殺されたら報復は必然の行い。
それよりも、一方的なリンチにあったと言うのが理解出来ない。
一対一ならともかく、集団で1体を攻撃すると言うのは、竜種としては最悪の作法だ。
関係ない眷族からも袋叩きにされかねない。
「無関係ではありませんが、今回は私の采配ミスです。
思った以上に、リュミニル眷族は切迫しているようですよ。
リュミニル自体がかなり高齢なのに、真竜と呼べる力がある竜がいない。
……当然なのでしょうが」
それでピリピリしているところに、セフィア眷族のリッテが様子伺いにやって来たので過剰反応に出たと言うことか?
確かに、ロティに任せた方が良かっただろうし、そもそもリュミニル眷族のことなど放っておけば良い話だった訳だからな。
「……しょうがないと言えば、それまでだな。
気を付けるようにしよう」
「お願いします。
少なくともこちらが良いと言うまでは、ミフィアモードで行動してください」
確かにゼファートじゃ、誘拐に対処しきれないかもしれないし、そもそも女のミフィアは拐う価値がないからな。
「……出来るだけ気を付ける」
「……お願いします」
そう言って去っていく気配を見送りながら、ユーリスがゼファートだとそれなりの規模で暴露したのを失敗だったと後悔する。
ユーリス状態でも狙われる可能性が出てきてしまったのだから。
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