第356話 高位貴族の新年会
マナの帰宅から数日。
お茶会に引っ張りだこで忙しそうなユーリカ及び娘を尻目に、屋敷内の大半の人間と同様にだらけて過ごした年末。
それと打って代わって、大晦日からの国政会議に参加し、夜が明ければゼファートとして、年始の挨拶に集まった6人の巫爵と謁見の間で話を聞いて、と多忙な年末年始。
更にそれが終われば、王都にとんぼ返りをして、守護竜としてレンターと会談。
昨日までユーリスとして会っていた相手だぞ?
さほど話題もないのに、不仲を疑われないように、2時間雑談をするだけの時間だった。
このために王都とファーゼル領都を往復とかふざけた話であるが、しょうがない。
ドタバタの元旦行事を消化したと思ったら、夜会に参加するために此処にいる状況。
「何で僕がこんな目に……」
「我慢しろ。
しょうがないだろうが、伯爵になったんだから。
俺だって、適当に理由を付けてサボろうとしていたのに、お前のフォローでこちら側に参加なんだからな」
去年と異なり伯爵以上の集まりに、参加することになった俺は、同じく今年から参加している大池と一緒に隅の壁にもたれて、中央付近で踊っている娘とレンターを眺めていた。
去年はこっちに参加したがっていた?
上位の貴族達に阻まれてまともに飯が食えんとは思わなかったんだよ!
「逆でしょ!
師匠がいるから僕もこっちに案内されたんだ。
本当は去年師匠がいたエントランスの上辺りにいるはずだったのに!」
「残念。
新伯爵のお披露目も重要だからな。
俺がいなくてもこちらに参加させられていたさ。
それに……。
お前の嫁を見ろ」
ジンバル宰相とあれこれと話をしているオオイケ伯爵夫人。
彼と別れると、すぐにレッグ伯爵の元へ向かう。
「……忙しそうだろ?
ケイムアッテン侯爵家が失われた今、彼女は新しい後ろ楯を得ようと必死だ。
なのに、旦那が下級貴族の集まりに出て不在とかあり得んだろう?」
「僕は気にしないんだけど……」
大池自身は気にしなくても、その家臣は違う。
実家を失った正妻に代わって、側室を正室に引き上げようとする人間は絶対にいるだろうし、そうなれば彼女の子供も不遇な立場に追いやられてしまう。
「そんな悠長なことは言えんのさ。
少なくともケイムアッテン侯爵の最後が、戦争回避のために動きながら、悲劇に見舞われた者と言う認識のある間に動かないと、その記憶が薄れるにつれて彼女の立場が脅かされてしまう」
今は、ケイムアッテン侯爵やその家族への同情等が集まっているので、側室派閥への牽制になっているが、その評判も徐々に失われていくのが自然。
その前に縁が深い旧マーキル貴族や縁戚関係にある西部閥貴族と縁を結ぶのは、当然のリスク管理だ。
「そんな物なのかな?」
「下級貴族出身者やその縁者なら誰でも伯爵の地位は欲しいのだろう」
「面倒なだけなのに……」
「上位貴族の職務を知らなければ、今より楽で良い暮らしが出来るくらいに考えていても不思議じゃない」
……内容は知らないけど、皆が目指しているから良いものだと言う心理は不変だしな。
「しかしな?
俺にはお前の悠長さが良く分からん」
「どういうことです?」
「例えば、お前の側室の子が嫡子となったとして、まともな教師を雇うコネはあるのか?
側室側の親族には雇うコネがないから、頼りは結局ケイムアッテン侯爵の令嬢だった彼女だ。
そんな夫人を蔑ろにすればヤバイことになるぞ?
その辺を良く言い聞かせておいた方が俺は良いと思うがな?」
「……」
あ、これ事の重要さを理解していないな?
「……良いか?
上位の貴族と下位の貴族ではマナーが違う。
それを正しく教えられる人間を得られなければ、外見を取り繕った張りぼてになるだけだ。
老獪な貴族ならすぐに見破るだろう」
「マナー違うの?」
「本質は一緒だな。
お互いを尊重し、相手にバレない程度の警戒もする。
例えば服飾のマナーとして、下位の貴族は袖の飾りボタンの数に規定がないが、伯爵以上なら、同派閥の貴族と一対一で会うなら2つ。
他派閥ならなし。
夜会も1から3つで決まっているらしいが良く分からん。
俺の家はマーキルやジンバットの高位貴族の子弟が普通に働いているから、お任せで大丈夫だし……」
「……初めて聞いた。
いつも奥さん任せだから……」
「今はそれで良い。
だが、下手な事になると困ると言うのは分かったな?」
「……一緒に回ってくる」
「ああ」
少し理解したのか、夫人の元へ向かい頭を下げる大池。
夫人は頬を赤らめながら喜んでいるようなので、このままで大丈夫だろう。
ああいうすぐに頭を下げる習慣はこの世界ではマイナスだが、今回ばかりは良い効果を生んだようだ。
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