第334話 冒険者ギルドの変化
「まず冒険者ギルドですが、急に運営を悪化させています」
「……何故だ?」
牽制のために、探索者ギルドを設立しておいてこんなことを言うのも変な話だが、探索者養成学校に受け入れられる人数など、1期辺り40人程度のはずで……。
まともに運営が始まったのは、6月くらいだろ?
今は11月だから、在学歴のある者は6、8、10月の月初に入学した120人。
まともに卒業したのは8、10月末に卒業した第一、第二期生合わせて64人だけのはずだが?
「何故って……」
「本当に分からないんだよ?
卒業生は現在合計で64名。一期38、二期26の。
その大半はドラグネアに、残りはラーセンの探索者ギルドに加盟している。
探索者ギルドが設置出来たのが、まだその2つの都市だけだから当然だが……」
総合ギルド内の冒険者ギルドに当てていたスペースを廃して、そこをそのまま探索者ギルドに当てたドラグネアと、事前情報を得ていたジンバルが廃屋を接収、建て直して準備していたラーセン。
その2つの都市にしか探索者ギルドは存在しない。
今の段階では、下手すると各地の為政者は探索者と言う新しい仕事すら知らないかもしれない。
「落第者の影響でしょうね?」
「うん?」
ジンバルが俺の想定外の情報を出す。
更に解説を続けるジンバルだが、
「各地の冒険者ギルドで、利益配分の異常を領主に申告する冒険者が現れています。
読み書きと足し引きが出来る人間が急激に増えたことで、これまでのような搾取が行えなくなったと言うことです」
「搾取?」
「読み書きと足し引き?」
レンターと俺で別の部分に疑問が出る。
「調査しましたところ、何処の冒険者ギルドも大なり小なり構成員から搾取をしていたようです。
例えば、10本1束で銀貨1枚の薬草納品に対して、ギルドが出す報酬は30本1束で銀貨1枚です」
「……おい。
何か? 冒険者の取り分は3分の1で、残りがギルドの計算じゃないか!
それの何処が互助組織だ!」
酷い搾取である。
小作農を駆り立てる昔の地主かよ。
冒険者達が集まって作った互助組織と言うのは嘘としか思えない。
「ええ。
今まではそれでも誤魔化せたんです……」
「嘘だろ?
だって、1つの束を3つに分けているんだぞ?」
それとも、ギルド内で依頼書を書き替えていたのか?
それこそ手間だろうに……。
「そもそも、依頼書の内容が満足に読めていません。
"薬草"に、"銀貨"や"銅貨"、後は大雑把な"数字"くらいしか読めていなかったんですよ?
そこから憶測したり、受付嬢などに確認をしますが、受付嬢達もそんな情報を出すわけなく……。
ギルドに納品した物が3つに別けられて、薬師に納められても、そんな物かと言う程度です」
事実を知った冒険者が激怒するわけだ。
しかし、
「何で読み書きや足し引きが出来る人間が?
俺はそこで篩に掛けられると考えていたのだが?」
「逆ですよ。
そういう知識はあった方が良いのは誰でも分かります。
もしかしたら、それを教える仕事も出来るかもしれないじゃないですか。
しかし、それまで我流で魔物退治や獲物の解体をしてきた人間が、まともに習うと思いますか?
それこそ余計なプライドが邪魔をします」
想定外の話だった。
だって、最悪読み書き算盤が出来なくても生きていけるんだぞ?
賢くかどうかは別にしても……。
逆に、理論的に生業を理解した方が直近の収入に直結するのに……。
「まあ、結果的にこちらの予定通りになったんだし、後は冒険者ギルドを生かさず殺さず搾り取っていくだけだな」
「……そうですね。
言い方はともかく。
下手に力を付けられるのは危険だと認識しましたし……」
「……確かに。
ああ。
必要に応じて監査を行うことになりました」
俺の暴論に納得のレンターと追加情報を出すジンバル。
「監査?
冒険者が嫌がるだろ?」
普通アウトローを気取る連中が素直に行政府に従うだろうか?
「いえ、それが冒険者達の陳情なのです。
ギルド上層部は、今回の一連の騒動で相当信頼を失ったのでしょうな?」
「ふぅん。
ま、興味ないから良いけど……」
何せ、ドラグネアは現時点であの手の職業を必要としていない。
選ばなければ、真っ当な仕事が幾らでも転がっているのだ。
マウントホーク領でこの手の対応が必要になるのは数百年先の話だろうし、その頃には粗方のトラブルは対応方法が確立していることだろう。
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