第333話 王宮との情報交換
王都別邸に戻ると、そこはいつも通りの空気。
安心して、ユーリカやテイファと雑談を交わしたものの……。
浦島太郎のような或いは不思議の国に迷い込んだアリスのような自身の状況に、危機感を覚えた俺は、王宮各所を巡り、情報収集に努めた。
そんなことを3日も続けると……。
「すみません、出来るだけ早く登城してください」
『ちょっと面貸せ!!』
と言う感情の透けて見える手紙がレンターから届く。
そんなわけで、翌日朝から王城のいつもの会議室へ通されると、
「先生!
何やっているんですか!」
入室直後に、レンターから叱責が飛んでくる。
「どうした急に?」
「どうしたはこっちの台詞です!」
「陛下、少々抑えてください。
多分、ユーリス殿は本当に分かっていません」
ヒートアップしているレンターを隣のジンバルが抑える。
本当に何事だ?
「……先生、最近王宮各所を巡って何をしているのですか?」
「……情報収集だが?
俺の内情は知ってるだろ?」
「……」
沈黙と共に、額に手を当てる2人組。
どうしたんだ?
「こちらからフォローしていなかったのは、申し訳ありません。
しかし、それなら直接私か宰相を訪ねてほしかったです」
「……何故?」
策略謀略の類いならともかく、ただの情報収集を最高位の権力者からわざわざ行う意義は少ない。
最新の情報なら現場から手に入れた方が効率的だろう。
「先生、国の最高権力者がいきなり自分の部署を訪問したら怖いでしょ!」
「当たり前だろ?
そんな空気の読めん権力者がいたらマジで厄介だ」
「それを! 先生が! やっていたんです!」
「いや、俺は王宮の人事に口出す立場じゃないぞ?
そういうのが嫌で辺境伯やってんだし……」
例えば、相手の会社に気に食わない社員がいてもそれをどうこうする権限はない。
……当たり前だな。
出来て、精々クレームを入れるくらいだろう。
同様に王家と辺境伯家は互いに独立した勢力である。
どうやって、人事権を行使できると思う。
「……先生は自分をどういう立ち位置だと思っています?」
「辺境伯家の金蔓」
レンターの問い掛けにあっさり応えたつもりだが、主従揃って頭を抱える。
「良いですかな?
ユーリス卿が陛下より自分が国王にふさわしいと言えば、翌年にはユーリス国王が誕生していますぞ?
或いは宰相をしたいと言えば、私と交代でしょうね?」
「何を言っている?
……いや、そういうことか」
そこまで言われて状況を理解する。
当たり前の話だが、僅か1年で3回にも渡る戦争を体験したこの国がまともに成り立っているのは、俺が武力的に保護し、経済的に支えているからだ。
……少なくとも現状は。
じゃあ俺が王の方が良いんじゃない?
と考える奴は出てくる。
当然だよな?
現在の辺境伯家を通じた間接的な援助が、直接的になれば国家予算が増える。
生活が良くなるのだから、反対する手はない。
「分かりました?
そんな人が末端部署で色々と聞いて回れば?」
「何かを調査している……」
「ええ。
お陰でここ数日は各部署からの陳情に次ぐ陳情で大騒動でした」
「……すまん」
これは素直に謝っておくべきだ。
これで、下手な対応をすればマジで次期国王街道をばく進する羽目になる。
「ダンジョンに籠っていたから、情報に飢えていたと開示しようか?」
正直、正式発表で不安を払拭するべき案件だと思うが、
「絶対にやめてください!
そんなことをした日には、変な疑惑が深まるだけじゃないですか!」
「そうか?
良い案だと思うのだが……」
……散々勝手に情報収集していた奴が上役に言われて、純粋に情報を集めていただけと弁明する。
うむ。
疑心暗鬼を生むこと請け合いだろう。
下手すると国家の転覆を企んだとか言う噂が立ちかねん。
「……確かにそうだな。王位簒奪を疑われては堪ったものではない」
むしろ、積極的に噂を流す奴が出てくるだろう。
味方の振りをして、自身の利益を優先する厄介な奴は何処にでもいる。
「……まあ、このまま役人達を警戒させておけば、下手な汚職も起こりにくいことでしょうし、自然と噂が薄れるに任せましょう」
「それしかないか」
「そうですね……」
ジンバルの言葉にレンターと共に、頷き静観する方針を決める。
「それで?
情報収集は終わりましたか?」
「大体はな。
ただ、各勢力の情報はあまり集まっていない」
レンターに訊ねられたので素直に返す。
今日辺りに外務卿を訪ねる予定だったのだ。
「それではこちらから提供しますよ。
もうこれ以上引っ掻き回されても困りますので……」
「助かる」
わざわざ聞きに行く手間が省けるならそれに越したことはない。
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