第294話 アンドロメイドー可憐ー

「おい!

 大丈夫か?」


 誰かに揺さぶられる感覚で目が覚める。

 ぼやけた視界がはっきりするとそこにはテイファの顔。


「うん? テイファ?」

「良かった。

 気が付いたか」


 安堵の表情を浮かべて、離れるテイファを他所に周囲を見渡せば、病院のエントランスのような景色が広がる。


「病院?」

「うん?」

「大型の治療施設の事だ。

 ここは日本なのか?」


 魔術のある世界では、入院設備が20床以上とか言っても分からないだろうと思い、大型治療施設と表現する。

 逆に、異世界に縁のなさそうな設備だからここが日本の可能性もある。


「……違うだろうな。

 少なくともユーリスの話に聞くほど平穏な場所ではないぞ?」

「と言うと?」

「最初は広場のような場所にいたんだ。

 しかし、奇妙なゴーレムに襲われてここまで逃げてきた。

 日本とやらはそんな危険地帯ではないだろ?」

「そうだな。

 外は見えるか?」

「ああ。

 あの窓から見てみると良い」


 テイファの指示で外を見ると、日本に似たビル群は見えるのだが、それは、


「終末染みた世界だな……」

「まあ。荒廃はしているな」


 ひび割れ朽ち掛けたビル群。

 その周辺を歩く蜘蛛のようなロボットの群れ。


「何か見たことがあるんだがな?」

「では日本か?」

「いや、それよりも……」

「ん?」

「テイファ?」


 アニメか映画のようだと言い掛けたら、そのタイミングでテイファが疑問符を出すので訊ねる。


「あれを見ろ。

 人のようなモノが蜘蛛と一緒にいるぞ?」

「ああ。

 ……スマホに入っていたゲームか」

「ゲーム?」

「……ああ。

 狂ったロボット、ゴーレムに支配された世界で、人間に味方してくれるゴーレムを仲間にしながら、拠点を造って生き残りを目指すサバイバルゲームだ。

 あの人形ひとがたはアンドロメイドと言う倒すと仲間になることもあるゴーレムだな。

 蜘蛛はストーカーと言う雑魚敵」

「つまり、あれは仲間になるのか?」

「たぶん無理。

 ……このゲームの設定だと、ゴーレムを仲間に出来るのは、冬眠から目覚めたプレイヤーだけなんだ」

「……ゲームだからな」


 テイファの何とも言えない顔を見ながら設定を思い出す。


「詳しく話してくれ。

 今は情報がほしい」

「だな。

 ゲームの設定は狂った機械に支配された世界。

 このゲームを始めると最初にメインヒロインの設定があるんだ。

 顔立ちや目の形に大きさ、色と言う具合にかなり凝った設定が出来る」

「男の願望を意識しているな」


 呆れた表情のテイファに頷く。


「そう思うだろう?

 だが、実情はかなりハードなゲームでな?」

「と言うと?」

「そんだけ凝ったヒロインが第一章のラスボスなんだよ。

 プレイヤーを目覚めさせたのは、他の冬眠している人類を探す手助けのためでな?

 10人ヒトキャラクターを回収すると、もう用済みだと言って襲ってくる。

 それまでに何体の他のゴーレムを仲間にしているかが重要なんだ」

「どういう理屈だ?」


 俺の説明では、展開が強引と思ったのか。

 呆れた感じなのもしょうがないのだろう。


「これが先程の仲間にならないに繋がる。

 冬眠している人間達は、冬眠前に特殊な装置を埋め込まれていて、ゴーレムに命令することが出来る。

 ゴーレムが狂っているのは、この星を覆っている電波の命令のせいだが、特殊装置持ちの人間が近くにいると、ゴーレムの優先度が変わって味方になるはずだ」

「……なるほど。

 自分達の知らない場所で、冬眠が解けると電波を発生させている者達には都合が悪いんだな?

 だから、その装置に抵抗出来る個体を監視に付けて、冬眠個体の対応に当たると言うことか」

「加えて、冬眠個体のいる場所はゴーレムの感知出来ない領域と言う設定らしい」

「……私でも同じようなことをするな」


 無差別に探すより、知っている奴に探させた方が効率良いしな。


「だろ?

 で、話を戻すと、手持ちのゴーレムキャラクターを編成して、ヒロインに対抗するんだが、ヒロインは設定時に得意な兵装を選択できて、それに優位な編成じゃないと勝てないように作られている。

 射撃なら防御、防御なら近接、近接なら射撃って感じだったはずだ」

「闇雲に仲間を増やすのも得策ではないのか……」

「ああ。

 他の一般的なゲームだと、開始直後から課金と言って、現実の金を支払うことで対応出来てしまうが、このゲームはそれが出来ない。

 最初に無課金で、がっつり世界に引き込んでから搾り取るスタンスだった。

 ……まあ良い。

 そんで無事にヒロインを倒してからがキツい。

 攻略するとイベントが発生して、ヒロインと編成部隊のリーダーが刺し違えるんだ。

 そして、その時にヒロインを操っていた寄生体とヒロインの素体及びリーダー個体の核が壊れて、応急的にリーダー個体の身体にヒロインの心が入ったゴーレムになる。

 第二章では、得意な兵装を使えない足手まといのヒロインと共に、ゴーレムの生産拠点を目指すストーリーが展開し、そこに到達するとヒロインが復活するシステム」

「……ただのゴーレムとのラブロマンスとは、確かに強烈なストーリーだと思うが」


 実際にプレーしないと分からないだろうな。


「第三章になると復活したヒロイン個体と改造されたリーダー個体が補佐的な立ち位置になるんだが、このリーダー個体が曲者でな……。

 ヒロイン個体の核が乗っていたと言う設定だから、2つの武装適正を持つ優秀な個体になってるし、第二章でじっくりストーリーを読んでいると、いつの間にかリーダー個体にも情が湧いている。

 このゲームのプレイヤー達は、自分の好みを改変する悪魔のゲームと揶揄していた。

 しかも、第三章になると先程の課金が解放されて、これらのゴーレムを改良するクジが引けるようになる」


 俗に言うガチャガチャだな。

 そんでマルチプレーが解禁されるのもそこからだったと思う。


「面白そうなゲームだと思うが、現状を打開する情報は何もないな」

「……確かに」

「……結局」

「……力押しだな」


 セフィアとテイファは、元々姉妹達でも脳筋1号と脳筋2号なので、当然の帰結かもしれないが……。


「行くか?」

「……だな」


 何処からかメイスを取り出すテイファに頷いて、俺も久方ぶりに偃月竜牙刀を手にし、セーフティーゾーンから戦場へ向かうのだった。

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