第293話 帰郷への道

 結局、辺境伯家が大損をすることが決まった会議の後、ゼファート守護竜主催パーティーとドラグネア本邸での辺境伯家新年会を経た俺達家族。

 ……まあ、ゼファートは世俗に関わる気がないと言って、守護竜側パーティー全般をキリオンにぶん投げたので、参加はしていないんだが。

 それでも盟友の辺境伯として、ゲスト側で参加しないといけないし、俺が顔を出していれば、判断が付かないことに相談を求められるのも当然だった……。


 そんなドタバタも終わってドラグネアに戻ると、数日と間を置かずに新学期に向けて、ミーティアへ戻るマナとレナ。

 ……あいつらは絶対に新学期前にダンジョンアタックを狙っているな。

 能力と実績を出されると止められないのが腹立たしいが!

 マナ達が戻るなら自分も早めに王都別邸に本拠地を移す。

 そう言って、出立したユーリカを見送ると、その入れ違いに前世妹の1人、テイファがやって来たのだった。


「1年間世話になる」


 と開口一番に口にする彼女を問い質した結果。

 俺の監視は1年毎の交代制で、最初にテイファ。そこからロテッシオ、リーズリッテの姉妹順で、トルシェは除外と言う内容を聞く。

 まあ、実力順であろうことは想定出来る内容な訳だが。

 基本的に俺の要請には応えると言うのが姉妹の共通項だと言うのは有り難かった。


 早速、アタンタル郊外へ向かったのは言うまでもないだろう。


「取り出しましたるはこのスマホ。

 スマートフォンと言う名の携帯型情報端末であります。

 何処かのご都合主義の妄想小説と違って、電源すら入りません」

「それでそれで?」


 ミフィア融合モードの俺が、講談でもするかのように自身のスマホを取り出すと、テイファが気前良く合いの手を入れてくる。

 姉妹達の中でも一番セフィアに近いノリをしているテイファなら多少の無茶も受け入れてくれると思ったら、案の定快諾だったのだが、俺以上に異世界に興味があったのだろう。……ノリノリである。


「既に役立たずなガラクタではありますが、これは地球にある情報集積装置本体と繋がりがあったものでもありますし、何より内部には地球で発生した鉱物由来の物質がてんこ盛り」

「だからどうした?」

「縁を頼りに人さえ呼べる。

 ならば、道とて造れよう!

 ……と思ったわけだ。

 俺達をこの世界に召喚した魔術と同じ理屈だな!」


 異世界に興味がないかと誘ったら、速攻で付いてきたテイファ。

 彼女に具体的な話を始めた訳だが。

 ……良く付いてきてくれたよな。


「……私の仕事はそれを頼りに2つの世界を繋ぐことか?」

「ああ。

 その繋がった回廊が閉まるのを俺が拒絶の力で防ぐ。

 数日程度なら維持できるだろうから、その間に宝石や貴金属類を売り払い、便利な道具を入手するのが目的だ」


 全盛期のセフィアならともかく、今の俺に半永久的な回廊維持は不可能だろうが、数日なら持つだろうと推測する。

 その状況で娘達を送り込むのは無理でも、便利な道具を入手することは可能だろう。

 後は、安全に異世界移動が出来ると言う実績を提示して、トルシェの協力を仰げれば万々歳。


「……うむ」

「どうした?」

「こういうことなら、リッテを巻き込んだ方が良い気がするな。

 異世界召喚もあいつが考えた魔術だし、この手の分野はあいつの担当だ」

「ちょっと待った!

 異世界召喚を考えたのがリッテ?

 あれはロランド達が……。

 ……有り得ない。

 ……何故今までその発想に思考が向かなかった?

 非常識な現実に冷静でなかったから?

 ……その後も気にしなかった。

 情報阻害術式のようなものか?」


 目の前に元の世界へ戻る最大のヒントがあったのに、それを一切無視していた事実を熟考する。

 ……結論、リッテの仕業で良いや。


「うん。

 リッテの事だから、秘匿用の術式を組み込むようなこともするだろうな。

 ……さて、テイファ。

 リッテを巻き込むのは絶対に無理だ。

 そんなことをすれば、トルシェやロティに情報が回ってしまう。

 折角、"アタンタルへの視察"と言う名目で、トルシェを欺いたのに無駄になるだろ?」

「……そうだな。

 まあ、召喚魔術も私の能力を元にしているだろうし、何とかなるか」


 俺の指摘に同意するテイファ。

 彼女を誘ったのはやはり正解だったようだ。


「よし、始めよう!」

「オッケー」


 テイファの号令に合わせて、近くにスマホを置く俺。

 俺が距離を置くと同時に、テイファの魔力がスマホに絡みだし、


「うん?

 繋がった気もするが?」

「じゃあ固定を……。

 え?!」

「まずい?

 姉さん!」


 テイファが光を放ち出すスマホを無視して、俺を抱き締める。

 うん。

 これはたぶん失敗だ!

 テイファの脇から見える景色の歪みをみながら、俺はゆっくりと思考するのだった。

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