第289話 男女の認識 身分の相違

 それぞれの理由で疲れた俺達は、迎賓館の俺達に宛がわれた部屋に戻ってどっかりとソファーに身体を沈める。

 既にマナとレナが隣の部屋で休んでいるの出来るだけ静かに。


「どうだった?」

「疲れたわ。

 そっちは?」

「こっちもだ。

 勇者達によって入らぬ労力を買うことになった。

 連中の教育を怠った王宮側の失態だ」

「そう。

 私は地球とのギャップに苦労したわ」

「そうか。

 ……聞いても良いか?」

「もちろん。

 ……良くあるじゃない。

 成り上がり者がって嫌みを言われる話」


 1拍置いてユーリカが、出したのは古今東西の立身出世物語におけるテンプレ。


「最初から覚悟してたじゃないか」


 夜会前に言われるんだろうなと愚痴っていたし、年に1回の仕事だと慰めた記憶があるが、


「なかったのよ」

「それなら……」

「むしろ、あって欲しかったわ。

 お陰で色々と大変なの」

「大変"なの"?

 "だった"ではなく?」


 現在進行形と言うことは、今後も後を引く問題と言うことだろう。


「そうよ。

 多くの高位貴族は、マナに王妃になってほしいらしいの」

「だろうな。

 マナが王妃になれば、マナ経由でマウントホーク家の家臣へ入るチャンスが出来る。

 今の王宮は西部閥が主流だから、物理的に遠いマウントホーク家へ保証もないのに、入団面接とかやりたくないだろう?」

「そっちもあるのね。

 私が言われたのは、マナが辺境伯家を継ぐと王妃の実家には多大な負荷が掛かるって話」

「うん?

 何でそうなる?

 むしろ、マナをフォローすることで恩が売れるんじゃないか?」


 幾らマナが優秀でも、生粋の貴族令嬢相手には一歩を譲ることになるだろう。

 それは小さな頃から積み上げてきた常識の差だから、しょうがない。

 それを堂々とフォローして恩を売れるなら、最高だと思うが?


「それより、マナよりも良いドレスやアクセサリーを準備する資金の方が問題らしいわ」

「……それは無理だろう。

 だって、俺イグダートを討伐した時に出てきた樹帝琥珀アンバーオブエンペラーとかマナとレナにプレゼントしたぞ?

 他にも前世の俺が着ていたドレスとかも手直しして贈るってトルシェが言っていたし、今後も同じようなことになるだろう?」


 イグダートの戦利品はダンジョンの宝物庫にあるレベルだから、国宝より数ランク上程度のはず。

 国家予算十数年分あれば買えるかもしれないが、天帝竜セフィアのドレスを赤の他人に譲るなんて、妹達が許すわけない。

 それらは古代王国の粋を集めた最高級品で、現在では製造は無理だし、終末期に厄災に見舞われて余裕のなかった古代文明の状況を考えれば、遺跡から出土するとも思えない。


「……ああ、うん。

 納得したわ!」

「うん?」


 俺の突っ込みに勝手に納得しているユーリカ。

 何をだと思うが、おそらく答えは出てこないだろう。

 何故なら、


「とにかく、マナよりも良い物が用意できないと駄目だと認識しておいて」


 と話をぶった切られたから。

 ……そうなると。


「……レンターの奴、まじで生涯独身か?」

「いや、応援してあげなさいよ」

「ヤダよ。

 何で俺が、娘が嫁に行くのを応援せにゃならんのだ」


 心が狭いと言われようが、男親なんてこんなものだろう。


「大体、マナの他にも側室とか取るんだろ?

 大事にしないかもしれんし……」

「もう!

 言い掛かりまで付けて!」


 まあ、あり得んわな。

 マナを蔑ろにするは、ファーラシア王国の滅亡と同義だし。


「まあ良いわ。

 私はレンターを応援する。

 下手な貴族よりもまともだもの」

「……良いけどな」


 ユーリカなりに、マナの幸せを考えてのものであるなら否定しない。

 極限状態のレンター達と行動を共にしているので、人となりは分かっているし。

 しかしその発言は、これから王都に逗留して社交界にも頻繁に顔を出すと言う宣言だが。

 当然理解の上だとも思うが……。


「反対しないの?」

「マナがそれでおとなしくするタイプか?

 大体、地球で言えばまだ小学生だぞ?」


 まだまだ子供だ。

 下手な反発心を招くより、ゆっくり成長を待つべきだと思う。


「こちらで言えば、もう大人よ?」

「はあ?」

「マナは自分で自分の生活費を稼げるだけの能力を持っているわ。

 その時点で大人と認識される。

 正しくは、大人見習いって所かしら?」

「……」


 確かに、この世界では幼くして自分の食扶持を自分で稼ぎ、自立している人間も少なくないが……。

 それはそうしないと生きていけない環境だっただけだと思う。


「それは親の庇護が受けられないから、そうしないといけなかったと言うだけだと思うぞ?」

「……」

「勇者連中にしろ、その嫁達にしろ、まだまだ子供であるとしか思えん。

 そして、マナは貴族令嬢の立ち位置にいる」

「けれど、冒険者としての生活を満喫しているわ」

「「……」」


 互いに根拠を口にすれば、相手の言い分に納得が行くのだ。


「……止めよう。

 あくまで俺達はマナの意思と幸せを優先する」

「ええ。

 誓って」


 大人だ、子供だと周囲が言ったところで、本人の自覚次第なのだ。

 故に、互いにマナ達の自意識に任せると言う協定を再確認して話を終わらせることにする。

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