第282話 近況報告 ゼファート守護竜領

「次はファーラシアであって、ファーラシアでない地域ね」




『守護竜ゼファート

 ユーリスの変化した真竜

 表向きは盟友と言う形で別の存在と周囲へ喧伝している

 ファーラシア王国の国王レンターと契約を結び、併合途中であったゼイム王国に侵攻してきたサザーラント帝国軍勢を撃退

 それに対する謝礼として、ファーラシア南部大半を受け取った

 親交のあったエルフ国家イグダード、ドワーフ国家レッドサンドを配下に加え、帝国から賠償として受け取ったサザーラント領北部及び旧ゼイム王国領を支配域としたゼファート守護竜領の竜王となった』




「……」

「生命の属性を持っているから、命竜王の称号を贈る予定よ」

「……まあ、ユーリス様が良いのならそれで良いのですが」


 そんな架空人物キャラクターを作らなくても良いのでは?

 と考えるブルーノ以下密偵達だが、真竜種達の突飛もない行動を諌める気力もあまりないので受け流すことにした。


「……これですと、ファーラシア王国の国土は中央大陸でも最大のものになりそうですな?」

「そうね。

 表向きはゼファート領の分だけ小さくなっているのだけどね……」

「モノは言いようですな」

「ちなみに6人の管理者が代行支配するようでね。

 そのうちの1人は前述のミネット・ファーゼルで、もう1人にロッド・ボーグの次男シモン・ボーグ。

 他にもファーラシア関連の人事色が強いわ」

「6人の領主達に対して、エルフとドワーフの国も入れば、残りは旧ゼイム王と旧ギュリット侯爵が妥当でしょうな……」


 ゼイム王国が帰順したなら、そこから当主をたてるのは必然だし、ギュリット侯爵家は遡れば、サザーラント帝室と関わりもある、南部大陸の名門公爵家を祖とする一族の末裔。

 しかし、


「ギュリットは残らなかったわ。

 サザーラント帝国に呼応して起こった南部紛争の盟主となった責任を取ったの」

「なんと!」

「その辺はちょっと注意してちょうだい」


 これをきっかけに南部大陸でも争いが起こる可能性があるとして密偵へ注意を促すトルシェ。

 既に数十世代も前に袂を別った勢力だが、それを大義名分にする野心家はどこにでもいるのだと……。


「代わりに台頭したのが」




『ラヌア・ニューゲート

 旧名ラヌア・ヨクヴォ

 ゼファートが紛争で得た旧ダンベーイ地方に転封となった際に、ニューゲート巫爵を名乗ることになった』




「ヨクヴォと言うと過去に何人もファーラシア王国の騎士団長を輩出した名家ですな」

「今回もそれが理由でしょうね。

 姉上がファーラシア王国と敵対しても、王都都の間にはファーゼル家があり、南からニューゲート家の挟撃が迫る可能性があれば、おいそれと動けない。

 ……と言ったところじゃないかしら?」


 トルシェからすれば、セフィアの転生体であるゼファートに挑むことが無謀でしかない。

 それ以前に、その手の争いに興味のないユーリスへ無駄な警戒をしているとも思うが、対外的に無防備と言うのは良くないので、やむを得ない人事とも言える。




『ジェシカ・イグダード

 エルフの国イグダードの元指導者で、現在はイグダード巫爵としてイグダード地方を統治している

 前後して、霊樹イグダードが消失

 長老格を筆頭に数十人のエルフがイグダード領を出奔しており何らかの政争があったと思われるが、移住先がマウントホーク領である点から辺境伯側の要請の可能性もあり』




「霊樹消失は長老達の反発により、ゼファート竜が霊樹の治癒に間に合わなかったためで、その責任を取った長老達が出奔したと言うのが、イグダードの発表では?」


 先ほど、オオイケの話で進言を出した密偵が疑問符を投げ掛ける。

 それは多くの密偵が感じた違和感の代弁になり得る物であり、それをマーキル王国に根を張る密偵が投げ掛けるとなれば、ブルーノでも止められない。


「公式にはそうなっているわ。

 実際はイグダードに操られたエルフ達を姉上が解放したと言うのが事実。

 その原因はイグダードそのものが対姉上用の生物兵器であり、その強化資材がエルフだったって訳」

「……」


 生臭い話に眉をひそめる周囲。


「元々、エルフやドワーフは古代人が造った生物資源ではあるけど、ここまで来ると行き過ぎとしか言えないわ。

 それに対天帝竜兵器が、未だに残っていたのも私達の沽券に関わるから、私達はイグダード勢の公式発表を支持することを明言するわ」

「たまわりました」




『ギーゼル・レッドサンド

 レッドサンド王国の元国王で、現在はレッドサンド巫爵を名乗っている

 しかし、竜気を込めた武具と言う可能性を示したユーリスを信奉しているので、本人は出来るだけ早く退位してマウントホーク領へ移住しようと画策中』




「ま、言うことはないわ」

「……ですな」


 頑固でめんどくさいドワーフが味方なのだ。

 わざわざ引っ掻き回して、面倒事を起こす気のないトルシェ達はその程度の認識で、次へ向かう。




『バロック・ゼイム

 ゼイム王国元国王で、現ゼイム巫爵

 爵位が大公位級まで落ちたものの、仕事も責任も半分以下になり、最近はのんびりとティータイムを楽しむ余裕もあるらしい

 その分、後述の元王太子キリオン・ゼイムに多くの仕事が回ってきている』




「のんびりとはしておりません。

 こうして、定例会に参加しているではありませんか」

「そういえば、これは貴方のことだったわね……」


 密偵の1人が声を挙げれば、それに呆れた返答を返すトルシェ。


「けど、当事者の1人なのに報告を上げていないのはどういうつもりかしら?」

「それ、その……。

 私達は所詮サザーラント帝国がフィリア様に干渉しないように、監視するための密偵でしたし、重要度も高くないかと……」

「……まあそれはね。

 けれど、今後は姉上の監視があるから、息子達にもしっかり言い聞かせておきなさい。

 ついでにコブシーデもよ?」

「「……はい」」


 水竜フィリアに対するラロル帝国監視を役割としていたオドース侯爵もとばっちりを受ける。

 こうして自分達が親から役目を引き継いだ直後くらいに、フィリアが天帝宮へ引き上げ、自分達の代で密偵の使命を終える予定でいた彼らは新たな役割をたまわることになった。


「次は我が息子でしょうか?」

「そうね……」

「少々お待ちください!

 ユーリス様がフィリア様の管理していた地を不審に思っておられました!

 古い文献を当たると言葉を濁してございますが、いかがいたしましょう?」

「……ネミア経由で知ったことにして私から説明しておくわ。

 姉上があそこに近付くのは妨害したいところでもあるし……」


 キリオンへの話に移る前にコブシーデが懸念を問えば、トルシェが自ら説明すると指示を出す。


「近付けたくないとは?」

「あそこには、私達にとって最も忌まわしいモノが封じられているの。

 よほど大丈夫だとは思うけど念のためにね……」


 これまでと打って変わって、真剣な表情のトルシェにそれ以上の質問は封じられる密偵達だが、それでも問題はないので、それ以上の質問は為されない。




『キリオン・ゼイム

 元ゼイム王太子であり、現在ゼファート竜に代わって守護竜領の采配を行う執政長官を勤める』




「密偵として引き入れるのかしら?」

「いえ、息子キリオンに良く懐いている娘がおりますので、そちらを教育いたします」


 自分達の仲間の息子だけに大した情報もないが、それを必要ともしていなかった密偵達。

 唯一、後継を気にするトルシェだけが確認を行うのみだった。

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