第273話 そして、金食い虫の湿地を得た
「……大規模な灌漑工事が必要でしょうな」
「……そうだよな」
ダンジョンスライムを前世妹と現世娘に任せた俺は、配下の霊狐の中でも知恵者である賢寿を呼び寄せて、湿地帯の処遇を相談する。
元々、『赤い湿原』の脇を通る道を街道として確保するのが目的だったとは言え、主を排除した後は何らかの土地利用が望ましい。
特に湿地帯と言うのは、背の高い草や水中に隠れ家が多く動物の住み処となる。
地球のような湿地を保護しようなんて動きは、湿地を利用しなくてもやっていけるまでに文明水準が上がってから考えることで、今は此処をどう有効活用するかを考えるべきなのだ。
「厳密には池なのでしたか?」
「……ああ」
「……まずは何処までが浮島で何処からが陸地かの調査ですな」
「そうだな。
後は水源の調査と利用方法か?」
「はい。
また、水深も重要ですな。
あまりに深いようなら水辺として利用すべきですが、船を利用出来ない浅さであれば、埋め立てるべきです。
深い場合も船を浮かべるなら港を整備することになりますので、どちらにしろ灌漑工事は必要です」
「うむ」
「幸いと言いますか。
この湿地帯を整備すれば、アタンタルとルネイを結ぶ道が出来ますので、将来性はあるかと……」
「本当に?」
「……」
賢寿の慰めに疑問符を投げると沈黙が帰ってくる。
……そうだよな。
俺ももちろん分かってた。
「この巨大湖の調査に整備と除草及び灌漑。
どれくらい掛かるかな?」
「……30年ほどでなんとかなるのではないかと」
「それくらいは掛かるか。
魔術でパパッと出来んかな?」
「大規模な攻撃魔術で吹き飛ばせば、草はどうにかなるかも知れませんが、水を吸っているので、燃やすのも風で吹き飛ばすのも難しいかと思います。
津波でも起こして押し流すは可能かと思いますが、流した先を考えないと危険です」
つまり、推奨できないと言うことだな。
南東はアタンタル方面だし、北はルネイへ影響する可能性がある。
西は街道があるし……。
「東は山脈があり、南の『夜の森』方面くらいか?
それで領域の魔物がスタンピードを起こせば目も当てられんか」
「間違いなく水晶街道に影響しますな」
「……結局地道な灌漑工事しかないわけだが。
当面放置するしかないかな?」
「そうですな……。
水霊達に協力を仰げればどうにかなるかとも思いますが?」
「マーマ湖の定期船運行の方が大事だ。
この湿地はマウントホーク領内の問題だが、あちらは国際問題になる」
さほど数のいない水霊達を2つの地域に分けて配置すれば、負担が増すのは当然で、結果定期船に問題でもあれば、辺境伯家のダメージは莫大だ。
この湿地の開拓は新しく力ある種族でも配下に加えんとどうにもならないだろうな。
「……この大陸の西には亜人達の暮らす集落が幾つもあります。
そこには水と縁のある氏族もいますので招いては?」
「そういえばレッドサンドの西には他のドワーフの国があり、亜人との間に小競り合いが多いと聞いたこともあるな」
「はい。
多くは獣人族ですが、その1部族にリザードマンと呼ばれる種族が……」
蜥蜴人間と揶揄される種族だな?
あれ?
リザードって爬虫類だよな?
陸棲動物だよな?
両生類であるとすれば、イモリとして、メキシコサラマンダーだからサラマンダーマン?
いや、ニュートマンの方が相応しいか?
……まあ、良いや。
ワニだって爬虫類だし問題ないだろう。
「……配下を動かせ。
狐系獣人を繋ぎにして西部の亜人を招く」
「たまわりました」
こうして、金食い虫の湿地対策のために紛争地帯である大陸西部に手を出して、自分の首を閉めることになるとは、この時は想像もしていなかったのだった。
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