第274話 妹竜は便利な都市を手にいれた

 建ち並ぶ高層建築群は、マナ達が知る日本の都会に酷似していた。

 トルシェが支配したダンジョンスライムの内側に招かれたマナ達姉妹。

 彼女達が降り立った場所は、広い公園のような場所で、その公園は遥か地平まで続くように見える。

 その脇にビル群が乱立する様は、地方都市で見掛ける大通公園の様式その物。


「閉鎖空間に住む住民への配慮が為された都市設計ね。

 古代文明が姉上との交戦前に創られた小型都市マイクロコロニー計画をそのまま転用したものみたいね」

「マイクロコロニー?」

「ええ。

 あの時代、地上の土地はほぼ全て利用されていたの。

 それでも人口は増え続けていた。

 その状況を打開するために少ない土地で沢山の人が生活できるダンジョンを利用する方法が考えられたわ。

 ……けど、天然のダンジョンは外部からの侵入者を許すほど甘くはない。

 そこで、移動拠点用のスライムを元に創られたのが人工的な空間を有するダンジョンスライム達ってわけ」

「何処かの世界で聞いた話……」

「それで~、コロニーと地球連邦の戦争が始まるんですよね~」


 人口爆発からの新天地計画は、何処にでも転がっている。

 聞いたことがあると答えた姉は妹の言葉で該当する物を脳内に思い描く。


「亜空間の母体スライムがほぼ全ての物質を循環してくれているから、そういう問題は起こり得ないかしら?

 まあ、許容限界以上になったらスライムから追い出されたでしょうけど……」

「許容限界?」

「住める人の数には限りがあるものよ?

 まあ、追い出されても他の都市に拾ってもらえたでしょうけど……」


 古代人達の政治体制には詳しくても、具体的な人口推移は知らないトルシェは途中で言葉を濁す。

 人権意識の高い文明水準にあったので、あからさまな非道はなかったと推測するしかないのだ。


「……それよりも同じような仕様のスライムが生き残っていないか調査しないとダメね。

 制御のされていないこの子達は、本能的に周囲の人を体内都市に引き込む危険なトラップと一緒だし……」

「便利な道具も~、使い方が分からないと~、ただの危険物ですね~」

「そうね。

 取り込んだ人を襲うことはなくても、食料や水を手に入れる手段が分からない人々は衰弱死して、スライム達の維持エネルギーとなっていることでしょうね」

「「……」」


 結果的に人喰いの村みたいになっているダンジョンスライム。

 その事実に奇妙なやるせなさを感じる姉妹だったが、叔母の真竜はそれらを気にも留めずに先へ進み……。


「……姉上の能力はあくまで魔力のノイズを精査するもののようね」

「え?」

「……」


 急に大通りを逸れて、街路樹の隅に佇む人影を目指すトルシェ。

 彼女の呟きを聞いて疑問符の浮かぶマナ、対して、その事態を予想していたレナは沈黙を保ったまま、マウントホーク辺境伯家の従士だったものに近付いた。


「……脱水症状ね。

 水呑場の真横と言うのは皮肉な話だけど」


 3つの骸の眼や咥内を確認したトルシェは、呟きながら視線を真横にある水呑場へ向ける。

 そこには蛇口式の水道出口があったが、それを捻った形跡は見当たらなかった。


「何で……」

「この文明に捻って水が出る仕組みの蛇口はまだ普及していないの。

 ここに辿り着いたのは偶然じゃないかしら?」

「……」

「……この子達は元々貴族の子弟でしょ?

 幾ら騎士や従士になったと言っても、世話人もいたでしょうし、用水路の位置や形は気にもとめてないわね」

「知らないことは~、分からない~。

 ですか?」

「ええ。

 ……さて、"起きなさい"」


 レナの言葉に頷いたトルシェは、3人の死体に動くことを命じる。

 その言葉で竜姫の忠実な配下となった3つの骸はトルシェの元に膝を付き、指示を待って微動だに動かなくなる。


「それじゃあ、戻りましょうか?」

「「……」」


 ネクロマンサーのような彼女の様子に無言で従うしかない姉妹は、慌ててその後を追うのだった。

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