第249話 赤い湿原攻略開始と
ベースキャンプを出て、南東方面に軽いジョギングをすると、一般的な幅の広い葉を持つ植物が減り、葦のような湿地に群生する植物が目立ってくる。
そのイネ科植物モドキを軽く刈って、半径20メートル程度の円形空き地を用意すると、太陽は夕日と呼ぶには多少早いが、昼と言うには陰り気味の高さに。
草刈りに時間が掛かったが、元々探索は翌日の予定なのでその中央で一夜を明かした。
翌朝は、干し肉と塩漬け野菜で軽い朝食を取って、すぐに行動を開始する。
湿原を住処にする動物ならば、夜行性の可能性が高いだろうし、彼らにとってこれから寝ようと巣穴へ向かうこの時間帯は、気の緩みが最も大きいタイミングのはず。
逆に完全に巣穴へ逃げ込まれれば探索も難しいだろうとも推察できる。
それ故に程々急いで向かった先は、
「……錆の色と言うには明るいな」
赤と言うよりオレンジに近い色合いの水とその合間に草が乱立する湿地だった。
どこまでが湿原なのかは分からないのだが、前方の見渡す限りに広がる橙色の地がそうであると仮定するならかなり広大である。……そこで違和感を感じる。
「どうしたの?」
「何て言うか。
何か変だなって思うんだが、その原因がな……」
ミフィアに返す返答にもキレはない。
それはちょっとした違和感であり、思い描く湿原との差なのだと思うのだが……。
「別に変な生き物もいないみたいだし、何があるのよ……」
「そうなんだよな。
何だろう?」
首を傾げつつ足を踏み入れると、その足場が大きくぐらつく。
「! っとと!」
「大丈夫?」
「ああ。思った以上に足場が安定しない……。
ああ!
そう言うことか!」
「何よ?」
声を掛けてくるミフィアに返事をして気付いた。
「ここに来るまで結構なイネ科植物の群生地があっただろうに、この湿原にはそれが全然見当たらない。
……背の低い植物ばかりだ」
「……確かにそうだけど」
俺の言っていることに見当が付かないミフィアだが、俺はそれをスルーして話を続ける。
「背の高い植物が生えないっと言うことは地盤が不安定ってことだが、それにしても全然生えないはずがない。
……地面があるなら」
「地面がないってこと?」
「つまりここは、『赤い湿原』じゃなくて『赤い湖』だったと言うわけだ」
「……じゃあそこは」
「……浮草の上だな」
ミフィアの問い掛けに答えて、ガックリと肩を落とす。
つまり、それは事前の想定が全て無駄になったと言う証明だからだ。
主は爬虫類や両生類ではなく、魚類の可能性があり、そうなればこの色が付いた湖の上から対応は出来ない。
敵を目前に誘い出すには、少なくとも水の属性を持つ者が必要なのだ。
「……レナを呼んでくるか」
「……そうね」
幸い、10日程度あればミーティアまで往復出来る距離なので時間のロスは大きくないが、いきなり娘に助力を頼まなければいけないことが、情けないと感じて空を見上げるしかないのだった。
しかも……。
ベースキャンプへ戻る途中でこちらに掛けてくる辺境伯家の従士と合流した。
命からがらと言う感じでやって来た彼らが言うには、キャンプ設置用に杭を打っていたら、地中から赤い触手のようなものが襲ってきて、散り散りにされたと言う報告がなされる。
「思った以上に厄介なことになりそうだな」
「ええ」
報告を聞いた俺とミフィアは互いの顔を見合わせて、嘆息するのだった……。
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