第248話 領域解放を目指して

 対サザーラントの方針を決めた後は亡命貴族とのやり取りは、外務閥に属する家柄出身者を軸とする対策班を選定して行わせることにして、俺はドラグネアに戻り輜重隊と合流した後に北に向けて出立した。

 討伐だけなら俺1人でも十分だと思うが、解放が終わった土地は測量や資源調査を行う必要があり、それを担当する技術者達のためにベースキャンプを設置する必要があるのだ。


 彼らを率いるのはベストリア・イムル。

 貴族令嬢から騎士となり、我が家の従士となった彼女だが、今回の行軍が最後の軍事行動になる。

 新年の会議を経て、功績の高い者は家臣として家の存続を認めることになっている。

 『狼王の平原』から従う彼女は功績十分なので、この機にイムル家の家長として、婿を迎えることになるのだ。

 その婿が彼女に替わって従軍し、彼女は夫人として家を守る役割を担っていく。

 そのベストリア曰く、


「湿原から馬で半日の距離に陣地を置きます」


 と言う。

 湿原での戦闘は不利だし、馬で半日ならまず襲いに来る輩もいないだろう事を考えれば、合理的な判断と言えるだろう。

 今回のベースキャンプ設置は俺ではなく、後々の開発要員のためのものだ。

 とは言え、


「……結構な距離を置くことになるな。

 移動のロスが大きいがしょうがないか」

「申し訳ありません。

 後々のこともありますので……」

「分かっている。冗談だ」


 俺の不満に謝罪するベストリアに気を遣って、冗談だと言っておく。

 実際、今回の本陣はベースキャンプを経て、町へとなっていく予定でもあるので、下手に地盤の悪い湿原周辺は避けるべきだからな。

 さて、


「今日から下見を兼ねて、数日探索してくるので、陣地構築は任せるぞ?」

「承りました。

 期間はどれぐらいを想定されますか?」

「行き帰りを含めて5日といった所かな?」


 陣地を置く場所を定めたのが昼過ぎなので、湿地帯手前で一晩明かして、朝から探索が必要だろう。

 湿原ってのは背の低い生き物の宝庫だ。

 昼間でも死角になりやすい低い視線の相手をあえて夜に行う道理はない。


「それでは倍の10日でドラグネア帰還といたします」

「頼む」


 まずないとは思うが領域解放に失敗して、死亡が疑われるなら捜索隊の派遣が必要になる。

 そのために1度ドラグネアへ帰還する区切りを倍の日数に設定するのは順当だろう。

 そこから12日くらいで捜索隊の準備が完了して、調査に出発。

 2ヶ月くらいを俺の捜索に充てるはずなので、下手に俺が死のうものなら、マウントホーク家の業務は半年レベルで滞る。

 ……意外と責任重大だ。

 とは言え、俺をどうこう出来るレベルの脅威ってのもそうは思い付かない。

 ミフィアと同化すれば、真竜数体でも負ける可能性は低いし、俺の魔力で自律起動しているエネルギー体である彼女は睡眠の必要もないので、不意打ちも怖くない。

 ……安全は常に担保されているのだ。

 故に軽いノリで向かう『赤い湿原』解放が、予想以上の困難を伴うものだとはこの時は予想もしていなかった。

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