第247話 改めて、マウントホークの方針
「少なくとも王都での新年の祝賀会にはマウントホーク辺境伯としてご参加ください」
「……まあ当然だよな」
シュールの意見に頷く。
それを避けたら他の貴族から、何言われるか分かったものじゃない。
「父達も巫爵として参加しますし、私もゼファート様の名代として参加いたします」
「うん。頼む」
ゼファートとしては名代を立てるだけで問題ないだろうし、それが元ゼイム王国王子で現守護竜領の領宰であれば文句も言えんだろう。
「問題は、翌日以降のスケジュールです。
マウントホーク家は寄子貴族を招いての新年会を開かなくてはなりません。
この別邸で1回。ドラグネア城で2回ほど」
「ゼファート様として王都の守護竜邸宅で3回」
合計6回の新年会……。
面倒だな。
ほぼ確実に立食パーティーだろ?
ホスト側だから途中で抜けるわけにもいかんし、どうにか数を削れないか?
「まず、マウントホーク側の新年会だが、寄子貴族なんてたいしていないのだし、ドラグネアでは1回で良いだろう」
来るのなんてミカゲ子爵家くらいのものだ。そう思ったのだが、
「ダメです。
当家は内外に縁者の多い家柄ですので、国内向けに1回と国外向けに1回は必須です」
シュールに止められた。
言われてみれば当然だが、外国の貴族も招かないと不味いか。
それに縁者と言うことは、例えばロイドの父親であるジューナス公爵とかも招待客の1人とかだろう?
「さすがに公爵様はみえられないと思われますが、使用人が代理で来るでしょう。
しかし、従士隊の家族は来る可能性が高いです」
俺の考えにシュールが答えてくれる。
どうやら声に出していたらしい。
しかし、
「それだと結構な規模だな……」
「間違いなく大規模です。
両方とも公爵級の貴族を招待出来る規模でないと……」
「レッグ公爵も代理を出すのか?」
「グリフォスの交易があるので父が直接来る可能性もあります……」
国外の高位貴族で思い当たったのが、シュールの父親であるレッグ公爵だったが、本人が来るかもしれないのか。
……嫌な父親参観だろうな。
「まあ事情は分かった。
ゼファート側は……」
「6巫爵を招いての物と直轄地の代官を呼ぶ物に加えて、レンター陛下と高位貴族を招く物です」
「レンター達を?」
他の2つは分かるが、一国の国王を招待するパーティーって……。
「ゼファート様から見た場合、レンター陛下とユーリス閣下は同じ同盟者と言える相手ですので、2人を招いた会が必要です」
「代理としてシュールか?」
「そうなりますね」
キリオンの話を聞く限り、こちらも減らせないだろうし、今から憂鬱だ。
……ってそうじゃないだろう!
「新年の準備は分かった。
しかし今重要なのは、領地開発の優先順位だ」
「ああ、それは確かに。
……閣下は12月中に3つの魔物の領域を解放してもらいます」
強引に軌道修正すると、シュールがあっさりと無茶振りをしてきた。
「3つ?」
「はい。
『赤い湿原』『夜の森』『
『赤い湿原』と『夜の森』は聞いたことがある。
前者は領域の主が不明の湿原地帯で、後者は昼なおくらい異様な密度の森林地帯。
だが、
「『怪しの森』ってのは?」
「『夜の森』より東にある領域です。
大蛇系の魔物が多く住む厄介な領域らしいですね……」
シュールの説明におおよその位置を想像すると、王都の南東に『魔狐の森』でその東が『狼王の平原』。
『狼王の平原』は、北東に『小鬼森林』、東に『牙鳥の渓谷』で北に『怪しの森』。
南側のマーマ湖を除いて、全方向に魔物の領域を抱えている状況だったわけだ。
そんでもって、『赤い湿原』は北にずれるが、残り2つの領域はマウントホーク領のほぼ中央に陣取る邪魔な領域と言うことになる。
マウントホーク領は領都ドラグネアのある南部と第2都市アタンタルのある北部に分断されている状況なので、シュール達が年内の解放を望むのは当然だな。
年明けまでに解放して、北部への利益を提供しないと彼らの不満が溜まるだろう。
これが年を越したら、新年早々であっても後回しにされたと屈辱を感じるのが人間だ。
だからこそ、
「最優先は『怪しの森』だな?」
「いえ、『赤い湿原』でお願いします」
「あれ?」
自信満々に訊いた俺をあっさりと否定するシュールだった。
南と北を結ぶのが最優先じゃないのか?
「我々には北側の領地を再開発する予算と人手が足りませんので、交易路だけ切り開いておくのです。
目端の効く商人ならアタンタルからドラグネアまでが、通じるのは想定出来るでしょうから、事前にアタンタルに拠点を構える可能性が高いです」
「あ、そう……」
自分達の利益のために動く商人を利用すると言う他力本願この上ない方法だが、金がなければ動けないと言うこの世の真理の前では、それもしょうがないのだった。
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