第231話 深層意識の海にて
深い意識の海に沈む。
暗い闇に解けようとする自我。
安らかな安寧は、乱暴な侵入者に阻まれる。
胸倉を掴んで無理やり引き揚げられたそこには、ニコニコと微笑む少女が1人。
「馬鹿ね。
前の私用に造られた相手に今の私が勝てるわけないでしょ?」
朦朧としている俺をいきなり貶してくる少女の顔面に、……拳を叩き込む。
「……何の真似?」
その少女はいきなりの俺の暴挙にも微笑んだまま問い掛けてくる。
……白々しい。
「逆ならどうした?」
「……。
……同じことをしたわね」
「だろう?」
目の前に大昔の自分の顔があり、それが隠しもしないでニマ付きながら、自分を貶してくるのだ。
一発殴ろうくらいは思って当然だろう。
「その反応を見るに、深層意識の中には私の記憶が残っていたようね」
「それも今更だ。
それを繋ぎ合わせなければ、今のお前の姿は形作れない」
「……ふふふ。
間違いないわね」
コロコロと笑うっと言う表現が似合うその笑顔は、一見無邪気そうに見えるが、その内側は周囲を見下していることを知っている。
「そんなだから
「そっくりそのまま返すわ。
あの時はあなたも私も"セフィア"だったんだから」
「チッ。
それでどれくらい力は使えそうだ?」
自分同士で貶し合うと言う無駄の極致を避けるために、現状の再確認を行う。
「数%ってところね。
世界の狭間で魂が砕けた時に大半の力が消失したもの」
「その残りの内の大半は、俺が生命に関する方向へ分化した」
「ええ。
あなたが保有していた分が生命方面に分化して弱体化したわ。
後は私の隔離していた分しかない。
世界の狭間に消えた力は回収できないでしょうし、考えて使わないと……」
「本来のセフィアとしての能力である『無垢なる天意』としては?」
「今の魂では制御できるだけのエネルギーが確保出来ないわよ。
もっとレベルを上げていれば良かったんでしょうけど……」
「……」
そこをつつかれると痛い。
まさか、俺クラスの真竜を殺せる魔物がいるとは思わなかったんだし……。
時間もなかったんだ。
「まあ、望むものを自由に創造できるなんて馬鹿げた力だったもの。
1度魂を砕かれた今じゃ2度と使えないでしょうよ」
「それもそうか……」
今いるのは昔セフィアだった人間と彼女が残した残滓だからな。
当然と言えば当然だが。
「……セフィアって何だったんだ?」
「さあ?
少なくとも無限に等しい魔力とありとあらゆるものを自由に生み出す創造の権能を併せ持つ竜であるってのは分かっているけど……。
本当に不思議ね?」
俺とバックアップとして残っていた自分の双方が、考えを巡らせても、自らの前世に当たる化け物が何か分からない。
「この世界のレベルアップシステムも
あれは何処から得た知識だ?
それに世界に概念を付け足す能力ってのもな……」
ゲームのような情報を世界に付け加える能力。
あんなモノは世界の創造にも等しい暴挙だ。
それが遥か後世である今まで破綻していない。
……文字通り、世界を作り替えてんじゃないか?
「トージェンのように物質的な存在を造り操るだけでもなく……」
最も近しい妹を例に挙げるが能力が違いすぎる。
「テイファのような存在する現象を引き寄せるでもない」
「ロセッテオやリースリッテは論外」
「あの子達の力も現存するものを利用すると言う点では大差ないわね。
私達だけが概念を含むありとあらゆるものを自由に創造する能力を持っていた……」
ゼロから何かを創造する能力と既存物を操る能力では本質が違う。
……マジで何者だったんだ?
「……止めない?」
「そうだな。
考察するとちょっと怖くなる……」
目前の少女もどうやら同じような結論に至ったらしい。
議論を打ち切ることを提案してきたので賛同する。
「さて時間もないし、あなたはどういう能力として残りの力を分化する?」
「ああ。
急がんと不味いか……」
「私達は大丈夫だけど、エルフはさすがに無理よ」
俺の力を乗っ取ろうとしている方は問題ないのか……。
その程度の魔物で本当にセフィアに挑もうとしていたと言うのが信じられんが、
「……そうだな」
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