第230話 蛇喰いの妖木鬼
エルフ達は、おそらく俺がイグダードの森へ入った時点で、イグダードの制御下にいたのだろう。
でなければこれほど早いタイミングで、我々の背後を詰めることなど出来ないだろうし……。
まあ、無意識レベルでの弱い洗脳状態だとは思う。
だから、歳を経て疑り深くなった老エルフ達や友人を殺されたエルフの制御が外れているのだと思うし、少女がすぐに正気に戻ったのだろう。
……ハウリングを使えば、すぐにエルフ達の洗脳は解けそうだが、そうなればハーベスターは周囲のエルフを襲いだす。
ジェシカに連れてこられた非戦闘職のエルフ達を……。
逆にこちらの老エルフ達が多勢に無勢の状況でどれだけ持ちこたえられるか……。
「……ゼファート様、ここは我らが抑えましょう」
「……助かる」
俺の心情を察したらしい老エルフの1人が、ハーベスターとジェシカ達の混成軍団を抑えると申し出てくれる。
……俺が離れればヘイトが外れて、攻勢も弱まるはずだしなんとかなるだろうと提案を受け入れる。
ジャンプしつつ竜化し、そのまま滑空するようにイグダードへ突撃していく。
ハーベスターを巻き込み掻き飛ばしながら……。
周辺の木々から伸びてくる枝に多少減速させられたが、純粋にステータス差のゴリ押しで……、
「届いた!」
吠えるように叫び、口を閉ざすタイミングでイグダードの樹皮を噛み砕く!
元が木であるイグダードは痛みに声を挙げることもなく、ただ青黒い樹液を散らばらせてながら、俺へと枝を伸ばしてくるのみで……。
!!
樹液が口に入ってくる。
甘い中にほのかな香りを感じて……。
これは豊姫が提供してくれた木糖酒と同じ味?
あれはトレントから採取した樹液だったのか?
いや、霊狐に護られたあの森で魔物であるトレントがいたとは思えないが?
……!
ヤバい想定に至った俺は、慌てて牙を抜こうとするが……。
力が入らない……。
やはり、これは対竜族用の樹液だったか!
四肢に力を入れようとしても上手く立ち上がれず、滑るように手足をバタつかせる俺。
気だけが焦るのに、行動に結び付かない。
そんな俺を嘲笑うように、枝が覆い尽くしていき、篭のように……。
枝から滲み出てきた樹液が雨のように、この身に降り注ぐ。
今は鱗が弾いている分マシだが、それでも呼気を通して体内に侵入してくる。
噛み付いたイグダードの身体を伝ってくる木糖が胃に溜まり、竜体の半分が樹液に漬かる。
竜化を解かない限り胃に流れ込む樹液は止まらず、竜化を解けば、全身から身体に浸透してくるだろう。
「進むも戻るも無理。
かといって立ち止まれないか……」
絶対絶命ってわけだ。
……酒酔いのような酩酊感が俺を包む。
ぼやける視界の向こうから、緑色の何かが迫ってくる。
よほど俺が怖いらしい。
このままでも溺死しそうなのに止めを差すべく、イグダードの樹皮が剥がれて、……魔物がやってくる。
「
鑑定もしっかりと発動しないが、それでも名前は読めた。
蛇喰いの名前からして、対竜族用の切り札なのだろうが、そんなモノを出さなくても、俺は眠い……。
チクッと痛みが走った。
蛇喰いの名前を持つ化け物は、緑の触手を伸ばして鱗の隙間を縫うように俺にまとわり付けている。
体内に侵入して内部から生き物を食らう寄生虫かよ。
毒で酩酊させて、体内から消化……。
蜘蛛みたいな奴だと思いながら、俺の意識が沈んでいく。
……もう眠い。
……ただ眠い。
……眠い。
……。
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