第229話 イグダード討伐戦
「フン!」
真っ白なゴブリンモドキを殴れば、プシャッ! と体液を撒き散らかして弾ける。
断末魔さえあげない異様に眉を潜めつつ、周囲を見渡せば、……明らかに劣勢。
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名前 ハーベスター 性別 無(呪い―能力半減)
種族 無
レベル 845
称号 命を刈る者
能力
生命力 100/100
魔力 0/0
腕力 160
知力 160
体力 160
志力 160
脚力 160
ユニークスキル
吸収(ー)
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敵のゴブリンモドキに一兵卒達は能力値で負けている。
加えて、相手の総大将がエルフ達が生まれた時から信奉する霊樹イグダードなのに、こっちは数ヶ月前に急遽主になったばかりのにわか支配者だ。
それでも壊走に至っていないのは、俺がジェシカを巫爵にした時に能力が増えた影響。
後は、
「セイヤァァ!」
「ヌン!」
「エナジーアロー!」
俺を見張るために同行した老エルフの連中が若手を守るように散開して、戦ってくれているお陰だ。
「ゼファート殿!
これはどういうことか?!」
老エルフの1人が叫ぶ。
呼び名が"主"から"ゼファート"になっているが、俺への不信感よりは若手を意識したもののようだ。
視線は、油断なく周囲へ向けられている。
「どうやら呪術に乗っ取られて、こっちを敵と思っているらしい!
ゴブリンモドキはハーベスターと言う魔物で、吸収のスキルを持つ!」
嘘も方便だ。
下手にイグダードが古代人の兵器で、エルフはその強化用の材料だったなんて士気を下げる真似は出来ない。
「ゴブリンモドキ……。ハーベスターで吸収か……。
……奴らに取り付かれるな!
皆で協力して窮地を脱せよ!」
含みのある言い方だが、長老格が指示を出してくれるのはありがたい。
俺に不信感を持つエルフとて、長老の指示を無視するバカはいないからな。
それでも……、
「ウワァァァ! ……ァァ」
「コイツ!」
1人のエルフに取り付いたハーベスターが、その首筋に噛み付くと、エルフは一瞬で干からびてミイラ化する。
近くのエルフが助けようとハーベスターを切り付けるが、彼らの力ではハーベスターに僅かな傷を付けるのが精一杯。
それよりも、ハーベスターの注意がそのエルフに向く方が問題だ!
「馬鹿者!」
同じ想定に至ったらしい近くの老エルフが、援護に駆け付けようとするが……。
真っ赤に染まったハーベスターは双方を無視して、イグダードへ戻っていく。
「ナディル! ナディル!」
ハーベスターの脅威を逃れたエルフが、ミイラと化した友人に呼び掛ける声を聞きながら、俺や老エルフ達は赤いハーベスターの様子を伺う。
「お前は今日帰ったらうちの妹に告白するんだろ!
こんな……、こんなところで死ぬな!」
……めっちゃ死亡フラグやん。
などと思っている合間に、赤いハーベスターはイグダードに両手を広げて抱き付き、そのまま霞のように消えていく。
「……なるほど。
あれは我々を収穫する農夫と言うわけですな」
「じゃが、これは……」
「……元からと言うことじゃろうな」
老エルフ達は、目の前の現象と俺が出した断片情報からイグダードの正体を理解したらしい。
「ゼファート様。
ここに留まれば、犠牲が増えます。
一端退却を……」
「ダメだ!」
「しかし……」
1人のエルフが進言してくる内容を即却下する。
領軍の隊長格の男だと言っていたし、戦術レベルで見れば、領軍が奇襲を受けたに等しい現状を打開するために撤退し立て直すのは正しいのだが、
「このままイグダード様の呪いを打ち払うべきじゃ!」
「それでイグダード、様がどうにかなっても儂らが責を負う!
ゼファート様!」
「……すまないな」
俺達を取り巻く戦況は敵の首魁であるイグダードに近い位置にいる状況であり、立て直しを図れば、再度ここまで進軍するのに多くの犠牲が出る。
それを弁える老エルフ達が責任を取るから、どうにかしてくれと言ってくれた。
ならばそれに応えるのみ!
「行かせはしない!
イグダードの贄たる全てのエルフよ!
悪しき女王を討つために我に力を集結せよ!」
「「「女王を討て! 女王を討て!」」」
分隊長のエルフが変な発破を掛け、それに若いエルフ達が呼応する。
「これは……」
「どういうことじゃ!」
狼狽する老エルフ達だが、俺は"女王"と言う言葉がでた時点で察した。
……これ、操られているな。
と、問題は何時のタイミングかと言うことだ。
老エルフが大丈夫だから、ハーベスターが現れ出した頃だと思いたいのだが、
「おい! 皆どうしたんだ?!
女王ってのは何だよ!」
先ほど友を殺されたエルフが、同胞に声を掛ける様を見れば、希望的観測が外れていることだと分かる。
「「「「「女王を討て! 女王を討て!」」」」」
……ほらみろ。
ジェシカ率いる数多のエルフがここへ向かってきている。
!!
母親らしきエルフが、娘と思われる良く似た顔立ちのエルフを蹴飛ばす!
「え? え? え?」
蹴飛ばされた少女が正気に帰って周囲を見渡すが、誰も立ち止まろうとはしない。
どうやら、俺を殺すこと以外は眼中にないらしい。
さてどうするか……。
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