第226話 小鬼森林解放

 ……落下攻撃にもステータス値が適応されるらしい。

 深い深い穴の底で俺はため息を付く。

 毎度お馴染みのメテオ(物理)で、ゴブリン集落を強襲したのは良いんだが、どうやら地面の硬さより俺の攻撃力がかなり上回ったらしく、ズボボボボッと地中深くまで突撃してしまったらしい。

 砂場で思いっきり足を踏み降ろすと足が埋まるのと同じ理屈だな。

 これまでは、


 地面の硬さ > 俺の攻撃力 だったのが、


 地面の硬さ < 俺の攻撃力 になったと。


 垂直落下じゃなかったので、逃げたエネルギーもあるのだが、それでも地面の硬さが負けたと言う……。


 どんだけだよ!


 後は、地面の何処か硬い岩盤に止められるか、俺の竜化が解除されるまで沈み続けた訳だが……。

 どうやら竜化解除の方が早かったようで。

 俺は直径30メートル深さ数百メートルの大きく深い穴の底で泥やら砂にまみれた状態になった。

 ミルト台地の時といい、今回といい。

 最近、埋まってばっかじゃないか!


 幸いなのは侵入角度が斜めだったので直角孔ではなく、急斜面ではあるが歩いて登れると言うことくらい。

 いや、角度60°くらいの急勾配だから地球にいた頃の俺の身体能力じゃ登れないけどね……。


「階段でも設置させて後々調査しよう……」


 せっかく掘った? のだから地層調査をして、鉱物の1つでも見付かればラッキーだろう。

 そうでないと俺がいたたまれない。

 なにより、


「俺の唯一の範囲攻撃手段、メテオストライクがなくなったわけで……。

 もしかしなくても、小回りの効く人型の方が……戦場じゃ強いな。

 ハハハ……。

 ……笑えねぇ」


 これほどの高レベルに達してなお、ドラゴンブレスを1つも習得出来ない落第ドラゴンな俺としては、広域を攻撃出来る手段がなくなるのは痛い。

 ファーラシアが安定したとは言え、周辺国家は未だに火種が燻ってるのだ。

 今後も戦争に巻き込まれる可能性が高いのだが……。


「本格的に魔術を習うか?」


 ……ダメ元だよな。

 そんな確実性の低い物につぎ込む時間は、貰えないと言うのが手に取るように分かる。

 絶対にシュールが認めないだろう。

 そんなおり、ゴゴゴッと何か怪しい音がしていることに気付く。


「……漫画とかだと地面を掘った後のゴゴゴッてのは温泉が吹き出す前振りだよな!」


 急斜面を全力で走り出す。

 そんな間にも文字通りの鉄砲水が追い掛けてきて!

 光!

 あとちょい!

 ……。

 ……!

 !!


「セーフじゃ! このやろう!」


 俺が飛び出すのと同時に穴から温泉が溢れ、……なかった。

 穴を覗くと5メートルくらい先に濁った水が見える。

 どうやら、ギリギリ溢れることなく地下からの湧水は終息したらしい。


「大丈夫でしたか! 主様!」

「あ? ああ。

 何とか生きてるよ……」


 慌てて駆け寄ってきた豊姫に答えて、そちらを向けば、周囲にはおびただしい血、血、血のペイント。

 どうやら、俺が埋まっている間にゴブリン集落の制圧を完了させているようだが、念のために確認を取らなければ、


「状況は?」

「……主様の突撃の衝撃で地震が起き、慌てふためくゴブリン達を我々が中心となって狩り出しました。

 しかし、シャーマン達の逃亡を許しまして……」

「シャーマン? ゴブリンシャーマンか?」

「はい。

 今はマサキを中心にして、森の中に逃げ延びた連中の殲滅に移った状況です」

「それじゃあ……」

「小鬼森林解放成功です。

 おめでとうございます!」


 可愛い笑顔でにっこりと祝いの言葉を投げ掛けてくる豊姫だが、俺は今回地面に埋まっていただけである。

 穴があったら入りたいってのは今のような気持ちだろうか?

 もちろん目前の黒歴史は除外するがな!

 なお、生後数ヶ月の息子に残党狩りを命じる豊姫が少し怖いと思ったのは秘密だ。

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