第224話 マサキ
僕はマサキ。
魔を裂くと言う意味と日本の里美八犬伝に出てくる柾木狐の両方の意味のある名前らしい。
常々嫌いだったこの名前もそういう意味を込められると悪くない。
あ、僕は転生者です。
偶然だけど、前世は
……だったんだけど、前世じゃそれなりの歴史のある家柄で、そこの分家から産まれた僕は本家を守る生け垣と言う意味を与えられて柾だって、本家筋の爺さんに言われてたから、大っ嫌いな名前でした。
そんな僕だけど、運悪く交通事故に巻き込まれて死んだはず。
……享年は14歳かな。
なのに気が付いたら大きな狐に抱えられててビックリしました!
その大きな狐が母親の『豊姫』って名前で、しかも精霊に近い上位種族と聞いた時は転生チート来た! って思ったんです。
だってそうでしょ?
前世の記憶持ちで上位の幻獣に転生ですよ?
人生楽勝って思うじゃないですか!
ただ、話を聞いていくと……。
自分達は異世界転移に巻き込まれた人の配下で、その人はドラゴンな上に辺境伯。
もうね。それ聞いた瞬間にテンション駄々下がりですよ!
どう足掻いても勝てない本物のチートがいて、自分はその家来でしょ!
やってられるか!
って思って森を抜け出したこともあるんだけど。
近くの村の様子を見て、即行で引き返しました。
だって、井戸から水を汲んでるような生活水準でしょ?
道端には馬糞も転がってるし!
あの水準を元中学生が引き上げるとか絶対に無理!
対して、霊狐の森は綺麗なもので下水はあるし、水道はないけど、魔術で水を用意出来る霊狐の集落の方が便利だったんだ。
それからは出来るだけ周囲に埋没しようと行動することにしたね!
霊狐達の次期族長って立場で、のんびりと生きるんだって決めたんだ。
だけど、上手くはいかないもので……。
魔物の領域を解放するので手伝えって言う指示が集落に伝えられた。
周囲の大人達は大張り切りだけど、僕にとっては他人事だと思っていたら、母親の豊姫が、
「マサキも3ヶ月。
丁度良いので実戦経験を積ませましょう」
等と言い出した!
僕の見た目も人間なら中学生で通るくらいに成長していたし、それが霊狐達にとっては普通らしいけど。
……冗談じゃない!
何で貴族みたいな地位にいるのに危険な魔物退治なんて、って思ったんだけど周囲の大人達は、名案だと賛成するし、嫌々参戦することになった。
いざ、進攻拠点の町に辿り着いてみると若い男の人が霊狐の1人と話をしていた。
彼が自分達の主であるユーリス・マウントホーク辺境伯だと教わった僕は、
「あるじさまういじんをたまわりありがとうございます」
と、周囲の入れ知恵だと言わんばかりの棒読みで礼を述べた。
ユーリス辺境伯が一瞬眉を潜めた時は焦ったが、何事もなく、済んで安心したんだ。
最初は神童ロールで行こうかと思ったけど、凡人ロールプレイで成功だったぽい。
その後、母が重要な話をすると言うので、他の霊狐達としばらく話をしていた。
少し経って母に呼ばれ、ユーリス辺境伯が竜となり、空に舞い上がる姿を見た時は、凡人ロールをした自分を褒め称えたくらいだ。
だってあれは絶対に逆らっちゃダメな生き物だった。
将来は豊姫を凌ぐポテンシャルがあると持て囃された僕でも、いや、それどころか現時点の母親でさえ、腕の一振りで命を失いかねない本物の化物。
下手に興味を持たれたら命が幾つ有っても足りないと思わせるだけのプレッシャーを撒き散らしていた。
「ふふ。初陣に緊張したの?」
母親とは言え、下手な美少女より圧倒的に格上の美貌の豊姫に指摘されて、僕は恥ずかしさで顔を真っ赤にした。
少しだけチビってしまったのだが、霊狐の鋭い嗅覚は僕の粗相を見逃してくれないらしい……。
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