第223話 小鬼森林の解放準備
アガーム8世達との雑談を終え。
さあこれから交渉だっと気合いをいれていた俺ではあるが、それは完全な空回りに終わった。
インベラートが取り出した契約書は、双方の条件と譲歩案件について擦り合わせがされたもの。
末尾にはシュールのサインも施されており、事務官による交渉が終わっているのだと分かる代物だった。
「いつの間に……」
「いやな……。アタンタル方面から『小鬼森林』の北を通って、双方が行き来出来る間道はあるぞ?」
絶句した俺に、気まずそうに解説をしてくれるアガーム8世。
……当たり前か。
レンターが行方不明になった武力衝突があった以上は、それなりの人の移動が可能だったと言うことだ。
それでなくても、ドラグネアには豊姫配下の霊狐が数人出向しているのだから、ゴブリン群を突破しての伝令くらいは余裕でこなすだろう。
……まあ下手に俺が交渉するより、シュール達に任せる方が安心だし、数日掛けて交渉するのは効率も悪い。
そうやって心のモヤモヤを切り替えて、速やかにサインを入れた。
1つだけ納得できないのは、間道があるのに俺が北回りで、ルネイ→ミーティア→リングス→アグのルートを通るように指示されたことくらいかと考えたが、そのお陰でマナ達と一緒にミーティアまで行けた。
……シュールなりの気遣いだろうか。
「そう思っていた5日前の俺を殴ってやりたい」
「いきなりどうされたのです?!
主様?」
アガーム王都から見て『小鬼森林』の手前となる街エイト。
シュールとアガーム官僚の交渉により俺の支配下に入った街であるここで、伝令役をやっている夏風からシュールの手紙を受け取った俺は頭を掻きむしりながらぼやく。
手紙には簡単な作戦と俺が間道を利用することで、ゴブリン達が逃げるかもしれないから、遠回りさせたと言う事情が書かれていたのだった。
「……まあいい。
竜化しての空から強襲と森での混戦下に霊狐達の奇襲。
えらいあっさりとした作戦だな」
奴の優しさに期待するのはやめて、作戦の検討を行うが検討しようもないほどあっさりとした作戦である。
「所詮はゴブリンですので……」
「まあゴブリンだしな。
『鬼の祠』20層レベルとかなら強敵だが……」
「確かにそうですが、地上では限界突破はできていないはずですので」
「限界突破?」
「魔物が種族限界を超える現象です。
これから戦うゴブリンですと一般的な種族限界はゴブリンロードと言われています。
そのゴブリンロードが特定の条件を満たすことで種族の壁を超えたのがゴブリンキング。
……稀に顕れる災害級モンスターです」
「特定の条件?」
「はい。
ゴブリンロードの場合は同族を100体以上殺すことだったかと……」
「えらく単純な条件だな」
「災害級と言っても最弱クラスですので……。
しかし、本来社会性の強いゴブリンには結構難易度が高いようです」
社会性があると言うことは異物は排除され安いと言うことであり、むやみに同族を殺すと言うことは異物と認識されやすい行為でもあるからな。
「キング種が生まれますと配下の限界も外れますので、ジェネラル種が生まれるようになります」
「ジェネラル?
見たことないぞ?」
「そこが迷宮の歪な所でして、迷宮では統括タイプは生まれないで限界だけが取り払われていると言う噂です。
基本的にエンペラー、キング、ジェネラル、コマンダーは迷宮外の魔物です」
「……そうか。
ちなみにエンペラーは?」
「ゴブリンエンペラーですか?
あれはゴブリンキングが同格のキングを数体従えることで発生する厄介な魔物だそうです」
「滅多に現れないキングをか?」
「はい。故に強いです。
豊姫様が賢寿翁達と一緒に当たらないと勝てなかったと言っていました」
「それは俺の名付け前だろう?」
「はい。
……強いんでしょうか?」
「……不遇だな」
夏風の疑問に濁して答える俺。
奇跡に奇跡を重ねたような存在なのに今一パッとしない。
「……本来は最下級のゴブリンの段階で同族殺しを成して、ホブゴブリン。
更に20種以上の生き物を殺して、オーガと言うのがゴブリンが強くなる道なのでしょう」
「豊姫か」
話に割り込んできたのは、今ではフォックレスト太守と言う肩書きを持つ霊狐達の長。
隣には、マナと同じくらいの背丈の少年を連れているが、それは息子のマサキだろう。
「主様!
お久し振りでございます。
本日は息子に初陣の機会をたまわり幸悦しごくにございます」
「あるじさまういじんをたまわりありがとうございます」
母に続くように棒読みながら礼を述べる子供に感心しつつも、今日はよろしくと告げておく。
まあ、生後3ヶ月くらいのはずだし、多少の不安はあるのだが……。
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