第218話 祝勝パーティー

 王城の待合室で高位貴族の家族と談笑をしていた俺達は、王宮の使用人に呼ばれて、会場に入場した。

 娘達はジンバル侯爵家を中心とした令嬢達と共に子供組に混ざることになったので、そちらに任せる。


 ……高位貴族達もマナに気に入られようと必死だな。

 俺が側室を取らないと明言している上に今はレナまでいるから、狙うべきはマナの友人や婿の座だと言うのは分かるが、伯爵家に嫁いだ娘の子を養子として、ジンバル侯爵家に迎えてまで、縁を結ぼうと考える宰相はマシな方で、ファークス軍務卿などは寄子の娘を養女に迎えて、応対しようとしている。

 大方、仲良くなった縁から本家筋の兄弟を紹介して、くっ付ける作戦だろう。

 連中は俺が政略結婚を認めないと知っているので、マナ本人の篭絡を企んでいる。

 ここは、


「お久し振りです。マウントホーク卿、ユーリカ夫人」

「これは陛下。

 お久し振りですね」

「お久し振りでございます」


 一言宣言しようと思ったタイミングでレンターに声を掛けられる。

 出鼻を挫かれた形だが、プライベートな会話やゼファートとして話す場面でない以上は、向こうを上位者として扱う必要がある。

 ユーリカもそこを弁えているので、穏やかにお辞儀をする。


「狼王の平原解放以来ですか?」

「そうなりますな。

 元来の出無精でぶしょう故に、ここまで来るも億劫です。

 最近では、南部領境に篭って気が付けば1月を数えてましたよ」


 ゼファートとユーリスが別であると言う公言を兼ねた挨拶。

 王宮による周囲への牽制に協力する。


「しかし、その影響で南部と東部を繋ぐ街道が急速に整備されました。

 内務卿が大喜びでしたよ」

「必要に迫られてのことですので……」


 苦い顔をして、予定外の失費だったと周囲へ誤認させる。

 あくまでも侵略を受けた被害者であると言うPRを忘れない。


「陛下」

「……失礼。

 マウントホーク卿、ユーリカ夫人も今日のパーティーをお楽しみください」


 ジンバルに呼ばれて、去っていくレンターを見送ったので、


「おお!

 マウントホーク卿!

 お久し振りです。お元気でしたか?」


 ……再び邪魔が入った。

 相手は戦勝祝いに大使としてやって来たレック公爵である。


「お陰様で……」

「……ここだけの話ですが、ゼファート様と言うのはマウントホーク卿の」

「腐れ縁の親友ですよ」


 家臣の父親と言う気安い立場を利用して、ゼファートの正体を探りに来た公爵を先手を打って黙らせる。


「……そうですか。

 では、そういうことに……」

「はい。

 そうそうシュールはよくやってくれていますが……」

「何か問題を?」

「いえ、そろそろ彼も身を固めてもらいたいなと……」

「……そうですな。

 後日ドラグネアを訪ねるように調整しましょう」


 マウントホーク辺境伯家家宰と言う立場だけに国の内外を問わず結構な数の縁談が来ているが、元々公爵子息である奴の縁談を勝手にまとめるわけにもいかない。

 嬉しそうに笑顔で去っていくレック公爵を見送り、


「マウントホーク卿。ユーリカ夫人。

 お久し振りですわね!」

「これはミネット王女殿下。

 お久し振りです」

「殿下、私は先日ぶりですわ」

「ふふ。

 そうね。

 あ、紹介します。

 彼はアベル・マキート。

 ミーティア学園時代の同級生でトランタウ教国マキート枢機卿の甥。

 そして、私の婚約者ですわ!」


 嫁の返しに軽く笑って、隣の男性を紹介する王女。


「アベル・マキートです。

 偉大なる聖竜ゼファート様に婚約者共々身命を懸けてお仕えする所存です。

 マウントホーク様にもお見知りおきいただければ幸いです!」

「……いや、位階の上ではそちらの方が上位だから」


 テンションが高いアベルに気圧されつつ、様付けはダメだと忠告するが、


「何を仰います!

 マウントホーク様は法王陛下より聖人号を贈られるお方でありますれば、人の世の位に従う謂れはありません!」


 ……俺の知らないところで変な動きがあるんじゃないか?

 聖人なんて、俺に一番相応しくない称号だ。

 不可抗力ではあるが、ラーセンに置いてあるミーティアを破壊した男だぞ?


「……すみません。

 これでも優秀な官僚なんです。

 それにサザーラントの侯爵家とも繋がりが……」


 ミネット王女の発言で大体の事情を理解した。

 しかし、


「私はあくまでも一辺境伯です。

 王女殿下に頭を下げさせるのは……」

「……そうですね。

 この礼は必ず……」


 王女から謝罪を受けると言うのも対外的に悪い。

 ゼファートとは切り離すようにと言う指示を理解してくれて助かった。


「それでは、また後程……」


 そういって去っていくミネット王女とその婚約者を見送って、


「……後日にしよう」


 宣言するのを諦めることにした。

 そんな俺に苦笑しながら、付いてくるユーリカに肩を竦めておどけてみせる。

 その背の先には、ウエイ卿が横目でこちらを気にしてたりするし、……夜会中は忙しそうだとため息が漏れたのだった。

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