第219話 竜の凱旋

 ファーラシア王都郊外に簡易の玉座が設置され、そこから赤い絨毯が伸びるように敷かれた。


 玉座には正装に身を包んだレンターが王錫を携えて座り、上位の貴族達が階位順で両脇に並ぶ。

 左側には宰相、内務卿、外務卿ときて、ジューナス公爵から順に宮廷貴族が、右側には儀典長、軍務卿の次にマナを挟んで侯爵以下の上位位階の領地貴族が連なる。

 大人達の間に放り込まれたマナは、俺の名代を頼まれた時に安請け合いしたことを後悔していることだろうが、下位位階の伯爵達はその比じゃない居心地の悪さを感じているだろうから、それよりマシだと受け入れてほしい。


 下位貴族は貴族用と定められた範囲の土地から場所取りして凱旋式に参列するしかないが、これまでは基本的に領地貴族側の方が伯爵位の者は多かった。

 ……南部崩壊の影響で。


 故にこういう大規模な式典の際にあぶれて、下位貴族用の土地で従者に場所取りさせるのも、領地貴族側ばかりで、法衣貴族は涼しい顔で眺めるだけで良かったが、今回は比率が変わったために宮中の伯爵達が溢れた。

 賢い者や引き際を弁える者は、王宮の留守を守ると出席を辞退したが、そうでない者は後方で笑い者になったり、爵位を盾に場所の横取りをしようとして騎士に連行されたアホすら出てきたらしい。


「そういう方々もさすがに爵位を取り上げられることはありませんが、お説教に加えて慎重さが求められる職務からは少し遠ざけるようです」


 俺を護送してくれた騎士から笑い話として聞いた話だ。

 ちなみにこれは功労者である俺が一番ハードスケジュールの式典である。

 なにせ、

 最初に玉座近辺の指定地に参列。

 すぐにマナと交代して、義勇軍の待機する場所へ移動。

 竜化して空から凱旋、円形着陸地点に着陸。

 絨毯の上を行進して、レンターから祝勝の言葉を貰い、玉座の奥に用意された守護竜宝座にて、式典終了まで待機。

 凱旋式典後、巫爵の承認式に移ったらそれぞれの当主に魔力を込めた名付けを行って、加護を与える。

 それで式典を終えたら、今夜は守護竜として祝勝パーティー第2弾に参加することになっている。


「守護竜様、準備が整いました」


 この日の為に王都へ帰参したキンカクが俺に会場が整ったことを告げる。

 彼の後方には数千を数える義勇兵隊が本職の兵士さながらに並ぶ。

 ……本職が王国軍兵士だから当然か。


「さて、さっさと終わらせるか……」


 竜となり、軽く式典会場上空を旋回して、目標の地点に着陸。

 地響きをたてての荒々しい着地は、俺のこの姿が幻影ではないと言う事実を知らしめる為に。


「守護竜ゼファート様!

 よくぞご生還されました。陛下に代わりお喜び申し上げます!」


 レッドカーペットの前には近衛騎士が立ち、俺に向かって敬礼する。


「うむ。

 レンターの元へ案内せよ」

「ハッ!」


 偉そうに自分達の主を呼び捨てにする俺だが、近衛騎士は咎めることもなく受け入れる。

 元来、人など路傍の石程度にしか考えない真竜が、その名を口にする時点でそれは誉れであり、その主に仕える自分達の誇りであるからだそうだが、相変わらずの真竜の傲慢さが透けて見える話だ。


 見知った貴族達の間を通って、レンターの前に進めば、少年王は自ら玉座を立ち、俺に片手を差し出す。


「無事のご帰還を歓迎します」

「うむ」


 その手を握りながら軽く挨拶を交わせば、後方では大歓声が起こる。

 自分達の目前に降り立った竜と自国の王が握手を交わす。

 普通ではあり得ない物語の一場面を目撃した民衆の歓喜の咆哮であろう。


「それでは委細は任せよう」

「ええ」


 レンターに後は任せて、俺は守護竜のために用意された椅子に腰掛けて高みの見物に移る。

 忙しい移動があるが、式典自体は俺にやれることはない。

 次の任命式もミネット王女を筆頭巫爵に任命して、キリオンと2人でまとめさせるだけだし……。

 俺は欠伸を噛み殺して様子を伺うことにした。

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