第185話 レオンと言うエルフ

 エルフの国イグダードに若くして天才と呼ばれた剣士がいた。

 若いと言ってもエルフであるので120歳を超えているがエルフ基準では若輩であった。

 エルフで最も優れた剣士と称えられたものだが、魔術の腕は悪かった。

 ある時、ダークエルフの呪術士が首都を襲い、イグダードの象徴とも言うべき霊樹イグダードを傷付けた。

 当時、霊樹の守護役を命じられていた剣士は真っ先に現場に駆け付けたものの、物理耐性を持つ邪精霊などに邪魔されて阻止出来なかった。

 結局、言添え姫をはじめとする術士の活躍で、霊樹はギリギリその存在を繋いだが、剣士には屈辱だった。

 自分より弱いと蔑んでいた術士が活躍して、自分は足留め程度の役にしか立たなかったのだ。

 そのことを悔やんだ剣士はより優れた剣技を身に付け、術士を見返してやろうと旅に出る。


 表向きは霊樹が傷付けられた責任を取って、名を捨てたと言うことになるが、実際は自身の意地である。

 本当に責任を取りたいなら術を学ぶくらいの意思はみせるべきだ。

 剣士は自らの名をレオンと改め、各地を放浪して剣術を磨いていったが、その限界はすぐにやって来た。

 元々エルフでもトップクラスの剣士である。


 経験を積んでレベルを上げた所で、規格外に勝てるような実力は身に付かない。

 幾つもの難解なクエストをこなしてきたレオンは、いつしか剣聖とまで称えられるようになったが、それは『剣で勝てる相手にしか勝てない』と言う規格の中に置ける最強でしかないと受け入れがたい2つ名だった。

 レオンが欲しいのは、『破軍侯』のような規格外を示す2つ名だった。

 そんな規格外への突破口を探すレオンは、『迷宮攻略者』と言う規格外の中の規格外を表す称号を得た者に興味を持ち、そのユーリス・マウントホークが主導すると言う『狼王の平原』に参加してその実力を見極めようと考えた。

 自身との差が分かれば、自らも迷宮攻略が出来るかもしれないと思うのは当然の結論だったのだが、『狼王の平原』解放戦では、そんなことを思うまもなく、ひたすら戦うだけだった。

 レオンは自分より力が強い相手ともタフな相手とも戦い勝利してきたが、自分より早い相手との経験は乏しい。

 相手の急所を狙った一撃は逸らされて毛皮に剣ごと腕を巻き込まれた。

 近くの仲間が助けてくれたお陰で命は拾ったが、それ以上に大切とまで思っていた片手を失い剣士としての寿命を潰えさせる。…はずだった。

 そこにやって来たのが、あのユーリス・マウントホークである。

 目標となる狼王の討伐を終えた彼は、解放軍の損害を減らすために治癒術士として、各拠点を巡っていた。

 そこで運良く治療を受けたレオンは腕を取り戻すことが出来た。

 自死すら考えていたレオンにとって文字通り命を与えられたに相応しいその恩を返すために、レオンはマウントホーク辺境伯家の従士に志願し、その配下におさまった。


 そんなレオンは以前ほどは剣士としての矜持に拘らなくなった。

 遠くの敵には弓矢を用いた狙撃もするし、拙いながらも魔術で底上げも図る。

 それは文字通り生まれ変わったかのようで、……狼王の死骸を見て、剣に拘るのがアホらしくなっただけだったりする。

 何せ、自分の剣では歯が立たない毛皮を剣の切れ味と腕力によるゴリ押しで切り裂いているのだ。

 呆れ果てるのも仕方ない。

 それが良い結果に繋がった。

 剣に拘らなくなった分だけ戦い方に安定感が出て、『鬼の祠』で順調なレベルアップが出来るようになったのだった。

 20層クラスでも戦えるレオンは、英雄の位階に片足を掛けるレベルまで到達した。


 そして、今日、剣聖を超える2つ名を得るための攻城戦が始まる!

 ダンジョンでレベルを大幅に上げ、同じ戦場に立つドワーフの匠が鍛えた『地命剣ギーゼル』で…。


「レオン様!

 各軍準備が整ったとのことですが…」


 気合いを入れている所に報告に来た兵士が口ごもる。

 伝令役の一兵卒ならではだろう。

 親衛隊ではレオンの行動を不安視する情緒のある部下はいない。


「どうかしたか?」

「いえ本当にレオン様がお1人で?」

「もちろん」

「そうなのですか…」


 貧乏くじを引いていると思ってレオンに同情する兵士だが、肝心のレオンは、


「1人で城壁を粉砕でもしないと剣聖を超える称号は付かないんでね?」

「え?」


 一般人には理解出来ない思考回路で返すのだった。

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