間劇 それぞれの動き
ユーリス率いるマウントホーク辺境伯軍親衛隊と王国軍がネッケへと進軍を始めた頃。
各勢力も動きをみせていた。まずガーター辺境伯は、何故かアガーム王国軍に領都を包囲されて降伏勧告を受けていた。
彼らから見れば完全に寝耳に水の話である。
何せ、領都周辺の維持と『小鬼森林』解放に全兵力を集中しているのだ。
他領へ攻め込む余裕など逆さに振っても出てこない。
しかも攻めてくるのは自分達が属する国の王国軍と言う理不尽さ。
これで混乱しないヤツはいないだろう。
速やかに停戦の使者として、ガーター辺境伯自らが王国軍を訪れれば、その対応は王国軍の中核を担うアガーム駐留軍軍団長が応じる。
「此度の行動はどう言うことですか!
何故、アガーム王家が敵国の辺境伯家の肩を持つのです!」
「まあまあ、落ち着かれよ。
アガーム王国としては領内の治安維持が出来ないガーター辺境伯家に不信を積もらせているのだ。
その為の大義名分として、マウントホーク辺境伯家の名を借りたわけでな」
「…それで何故、私達がマウントホークに宣戦布告したと言うことになるんです」
軍団長の指摘に痛いところを突かれた辺境伯はトーンダウンするが、それでもやってもいない宣戦布告を告発されてはたまらない。
「さあな。
現場にはマウントホークから要請が来たのでガーター辺境伯家に圧力を掛けるように命令が来ただけだ」
「……あの狸親父め」
その説明で今回の絵を描いたのが、アガーム8世だと理解する。
辺境伯が他国の王家に自領防衛の要請など決して出さないのだから当たり前だが。
「聞かなかったことにしておく。
で、どうするんだね?」
現国王の性格を知っている軍団長もガーター辺境伯に同情して聞かなかったことにするが、今後の対応は別物だ。
「…降伏します。
陛下には出来れば南部方面への領地替えを希望すると伝えてください」
抵抗出来るだけの戦力もない状況で玉砕を選ぶ真似はしないが、法衣として中央に仕えたいとは思えないジング・ガーターであった。
ファーラシア王国の東部と南部で争いが起こったと知ったドワーフ達は狂喜した。
これであの命竜王陛下と近付くことが出来るのだっと。
「重装兵団を3大隊派遣しぃ!」
ギーゼルはそう命じて、前回留守番をした将軍に3帝斧を預けることにする。
「…エルフんとこにも親書を出すきゃあ?」
「だども陛下、辺境伯軍にはレオン卿が紛れていんすが?」
「だから先に情報を送って恩を売ったるんだしょう。
連中の魔術機構にわっしらの技術と命竜王陛下の力が合わされば、大陸有数だぎゃ!
あと、陛下じゃない。
族長だや!」
ユーリスに会ってからギーゼルはドワーフ王の称号を廃止して自らを族長と称した。
そんな彼らが今回の宗教自治区政策を知るのももう少し……。
「…それで今回の『召喚』はどうだった?」
「半分成功で半分失敗ね」
「と言うと?」
「邪神様の召喚は成功したのよ?
けど、最近それが生まれ変わったわ」
「うん?」
「分からないでしょ?
私もよ。
間違いなく、この世界から追放された邪神様一柱の召喚に成功したの。
けど、それが真逆の存在に生まれ変わったのよ」
「…何故そうなる?」
「分からないって言ってるでしょ?
異世界召喚の術式の大部分は『万式』に頼んだから、あの駄竜が変な式を組んだのかも…」
「あの愉快犯か!
ろくなことをせん!」
「けど喧嘩を売って勝てる相手じゃないでしょ?
幸い基本術式は覚えることができたし、どうにかなるでしょ」
「対策を取られていたらどうする?」
「安心しなさいな。
術式に重要度を下げる認識阻害式が組んであるわ。
召喚された事実は消えないけど、その召喚が重要な物だとは思わなくなるのよ」
「つまり、術式を解析しようとは…」
「思い付かないってこと。
まあ、取って置きの術式を盗まれたくない『万式』の仕業だけど!」
「うむ。奴らしい」
とある街の宿屋で若い外見の男女が話すには色気のない会話だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます